経営の期待に応える方法〜ベネフィット・マネジメント〜失敗しない戦略実現術、プログラムマネジメント(2)(1/3 ページ)

本連載では、ソフトウェア開発会社での新規事業立ち上げストーリーの中で、プログラムマネジメントの実践上のポイントを解説する。前回は、プログラムとプロジェクトの違いとそこからくるマネジメントの特性について説明した。2回目の今回は、戦略とプログラムをつなぐ「ベネフィット」のマネジメント方法を紹介する。

» 2012年04月06日 12時00分 公開
[清水幸弥, 遠山文規, 林宏典,PMI日本支部 ポートフォリオ/プログラム研究会]

そのクラウド事業、プロジェクトの観点で本当に実現できるのか?

 【前回までのあらすじ】

 A社はCRM専業の中堅ソフトウェアベンダ。従来はライセンス型でソフトウェアを提供してきたが、クラウドコンピューティングの潮流に取り残されないため、今期、社運を賭けてクラウド事業を立ち上げることとした。

 その推進リーダーとして抜擢されたのが、開発部門の中堅、速水である。企画部付となった速水は早速、企画立案を始めるが、経験の浅さもあり「ソフトウェア自体のクラウド化」のみにスコープした計画を考えていた。速水が入社時から頼りにしているサービス本部長の深沢はメンター役を買って出て、営業活動や導入サービスの開発なども含め、クラウド事業立ち上げをまさしく「事業」として広く捉えるようアドバイスする。


深沢 「検討範囲、つまりこの事業のスコープを決める上で考えなければならないことは何だい?」

速水 「えっ? ソフトウェアのクラウドサービス化とか、クラウド事業の構成要素を考えるだけで十分では?」

深沢 「構成要素といってもそれだけじゃないよ。例えば料金体系があるね。初期費用と月次料金の配分を考える必要があるが、君はどんな方針を採る?」

速水 「クラウドとはいえ、立ち上げ時にある程度コストがかかるので、それは初期費用の収益でカバーしたいところですが……、受注を増やすなら初期費用は抑えるべきですよねぇ……いや、あるいは……」

深沢 「それを決める上でヒントになるのが、『経営トップがこのクラウド事業にどんな“ベネフィット”を期待しているか』なんだよ。『ベネフィット』とは『事業が当社にもたらす付加価値』と言える。売り上げのように有形のものもあるし、社員のモチベーション向上のように無形のものもある。また、経営トップの立場、志向によっても期待するベネフィットは異なる。各部門の役員にヒアリングをして、どんな期待を持っているか把握してみるといいよ」

速水 「はい。では、すぐにアポを入れてきます!」

深沢 「おいおい、ちょっと待った。まさか、手ぶらで行く気じゃないだろうね。貴重な役員の時間をいただくのだから、速水君なりのたたき台を持っていかないとね」

速水 「といっても、経営の経験などないので、ベネフィットをどう定義すればいいのかなんて見当もつきません」

深沢 「決して難しいことではないよ。クラウド事業は何のために立ち上げるんだい?」

速水 「ええと……売り上げの維持拡大のためですよね」

深沢 「確かにそれも含まれる。だけど、それだけではない。速水君、今期の当社の戦略目標は何だっけ?」

速水 「……」

深沢 「おいおい、期初の社長講話のとき、寝ていたのかい?(1)新規市場の獲得(2)新しい収益源(3)顧客価値を分かりやすく再定義(4)新技術への対応(5)生産性の向上、そして(6)キャッシュフローの安定化だよ。まあ、私も君ぐらいの頃は目の前のプロジェクトの成功しか頭になかったから、人のことは言えないが」

速水 「きちんと覚えてるなんて、さすが本部長だなぁ……。そういえば、社長はバランスト・スコアカードがどうこうとかも言ってましたよね」

深沢 「バランスト・スコアカードについては、また今度教えてあげるよ。とにかく君が任されたクラウド事業は、社長が話した戦略に基づいて立ち上げられたのだよ。だから、6つの戦略にどう貢献するのか、それを考えればベネフィットは出てくるはずさ」

速水 「なるほど……まずは自分なりに考えてみます。ドラフトができたらメールを送るのでフィードバックお願いします!」

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