国が率先してクラウドを導入すべき〜IDCフロンティア真藤氏「Citrix Synergy 2012」で聞く

» 2012年05月11日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 米シトリックス・システムズの年次イベント「Citrix Synergy 2012」2日目となる5月10日(米国時間)、前日発表された「イノベーションアワード」で最終候補の3社に選ばれたIDCフロンティアに話を聞いた。

いまは自社開発よりもエコシステムの時代

 今回、話を聞いたのはIDCフロンティア 代表取締役社長の真藤豊氏、取締役 ビジネス推進本部 本部長 中山一郎氏、ビジネス推進本部 サービス開発部 部長 大屋誠氏の3名。

――CloudStackを採用した背景は?

大屋氏 今回の選定では、OpenStackをはじめVMware vSphereなど、各社のサービスを比較検討した。そして、実績やサービスレベルを評価した結果CloudStackになった。スペックだけを比較すると、ほかにも優れたサービスは存在していたが、カタログには載っているものの実際にはまだサービスが提供されていなかったりして、きちんと実績があるサービスは重要なポイントだった。

――クラウド管理ツールを自社開発するつもりはなかった?

中山氏 クラウドで重要なのはデリバリモデルなど。また、エコシステムの有効活用も重要だ。コストの問題からも、自社開発は当初から選択肢に入っていなかった。

――CloudStackを採用したことでユーザーから評価されたか?

真藤氏 よほど詳しいユーザーでなければ、CloudStackを理由に選択するケースは少ない。多くのユーザーは、「どれだけ使いやすいか」「価格は手頃か」「安定しているか」などのポイントで選ぶ。当社としては、「1に安定、2に安定、とにかく安定供給を重視」し、SLAは99.995%までコミットしており、いまは99.999%を目指している。Amazonは99.95%と言われているので大きな差別化要因だ。

真藤氏写真 IDCフロンティア 代表取締役社長の真藤豊氏

価格よりも安定性や使いやすさをユーザーは重視

――クラウドでは安定性よりも価格を重視する傾向はないのか。

真藤氏 クラウドサービスでは、サービスダウンが即ビジネスに影響するため、日本においては安定性は非常に重要なポイントだと考えている企業が多い。

大屋氏写真 IDCフロンティア ビジネス推進本部 サービス開発部 部長 大屋誠氏

大屋氏 例えばソーシャルアプリの場合、5秒以内に反応しないと強制エラーが出たりする「5秒ルール」が存在するなど、より高いサービスレベルを要求されるケースが少なくない。このことも、クラウドにおいて安定性が重要視される要因となっている。

真藤氏 現在、当社のデータセンターは10カ所に存在している。クラウドにおいてもレスポンスや可用性が重要になってくると、データセンター間のネットワークが重要だ。少なくとも冗長化構成にしており、いまは4重にして絶対に落ちないようにしている。

――では、実際にどのような点でユーザーは選んでいるのか。

中山氏 必要条件を備えた上での話になるが、当社のサービスが選ばれる理由として「HA構成があったから」を挙げるユーザーは多い。従来は、ユーザー自身でバックアップを取って復旧させていたり、CloudStackを利用していたりしたユーザーもいた。しかし、現在では価格よりもクオリティを重視しているユーザーの方が多くなっているようだ。

真藤氏 値段だけなら、当社よりも安いところはある。それでも当社が選ばれる理由は、愚直にクオリティを追求した結果だろう。やはり、使い勝手と安定性は非常に重要なポイントとして考えられている。

 当社では、安定稼働を中心に据えながらも、ネットワークとストレージの強化を両輪にサービス強化を図っていきたい。例えば、現在北九州のデータセンターでは15ミリセカンド程度のレイテンシ(遅延)が発生しているので、これを3分の2程度にしたい。新しく作る新白河データセンターでは、6ミリセカンドから4ミリセカンドに減らせそうだ。

RightScaleの普及で情シスはもういらない!?

――RightScaleとの共同開発はどのように進んでいるのか。

大屋氏 基本的にサーバテンプレートを一緒に開発している。RightScaleでは、LAMPの設定やOSのイメージをテンプレート化することで、クラウド上で容易にサーバ構築が可能になる。アプリケーションのインストールもスクリプト化できるため、リビジョン管理やサーバの構築がダッシュボードから簡単に操作できるようになる。

 また、RightScale APIの開発や利用なども行っている。一方で、RightScaleは料金体系が複雑だ。日本のユーザー向けに分かりやすく提供したいと考えている。

真藤氏 RightScaleはテンプレートをたくさん持っているが、主に米国企業向けで、日本の会社の環境にはそぐわないことが多い。そこで当社の人間が共同で、日本企業向けのテンプレートを構築している。

 すでに、RightScaleを利用しているクラウドサーバの台数は400万台を越え、現在も増え続けている。しかし、日本ではまだRightScaleの価値が認識されておらず、RightScaleを利用できるサービスもまだ数社しか利用していない。お試しパックを用意したので、その良さを分かってもらうためにも、まずは利用してほしい。

中山氏写真 IDCフロンティア 取締役 ビジネス推進本部 本部長 中山一郎氏

中山氏 ただし、RightScaleはある程度のサーバ台数がないとメリットが生じないため、それなりの大手に採用してほしい。一方で、RightScaleを採用することでかなり自動化されることから、情報システム部門の価値が変わってしまう。運用管理者が激減する可能性は高い。当社としては、新しい価値観を提供したいと考えている。例えば、サーバの保守・運用を行っているMSP(Management Services Provider)と提携して、運用ノウハウを有償テンプレートとして提供するビジネスモデル作りも一案だろう。

――今後のクラウド活用に対する提言は?

真藤氏 当社自身も数百台のサーバを利用しており、仮想化しようとプロジェクトを立ち上げた。しかしなかなか進まないのでトップダウンで推進・統合し、電気代を83%削減した経験がある。このように、仮想化やクラウドは非常に効果が大きい場合もある。

 最も効果的なのは、国家がクラウドを採用することだ。それにより国家予算を大幅に削減できるはずだ。

 例えば、当社はデータセンター建築の際、構造計算書を役所に提出しているが、非常に時間がかかる。これを中央省庁で一括で行い、中央の大型コンピュータでプログラム解析すれば、大幅なコスト削減効果が見込めるはずだ。

 つい十数年前までは、国際電話というとほぼ寡占市場で、固定電話から高額な電話料金がかかっていた。しかし、いまでは携帯電話から容易・安価にかけることができるようになった。場合によっては無料で海外から通話することもできる。今後日本のユーザーには、この国際電話のように非常に気軽にクラウドを使ってもらえるようになってほしいと思い、クラウドサービスを開発している。

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