シトリックス・システムズ・ジャパンが7月17、18日にわたって開催している年次イベント「Citrix iForum 2012 Japan」で18日、ゼネラルセッションが行われた。米国本社のクラウド プラットフォームグループ グループバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのサミール・ドラキア氏をはじめ、経営幹部らがゲストスピーカーを交えて登壇。浸透が進んでいる分、誤解も増えている「クラウドの定義」についてあらためて解説し、“正しい理解”と積極的な活用を促した。
近年、SaaS、IaaSをはじめ、多くの企業にクラウド利用が浸透している。その活用法も高度化し、プライベートクラウドの構築に乗り出したり、オンプレミスとパブリック/プライベートのハイブリッド運用を図るケースも現れ始めている。
最初に登壇したシトリックス・システムズ・ジャパン代表取締役社長のマイケル・キング氏はその点を挙げ、「今回のイベントはモバイルワークスタイル、デスクトップ仮想化とともに、クラウドコンピューティングにフォーカスしているが、17日は約4000人が来場した。日本は世界の中でもクラウドに対する関心が高いと思う」と解説。日本がクラウド活用の先進国であることを印象付けた上で、米国本社のサミール・ドラキア氏に話を引き継いだ。
ドラキア氏は、「クラウドによってITサービスの提供方法が抜本的に変わり、ビジネスの在り方に多大なインパクトをもたらしている。これはメインフレームがクライアントサーバシステムに変わった時と同じくらい大きな出来事だ。今後10年間でクラウド活用がますます進むことは間違いない」と指摘。
ただ、「オンデマンドで必要なときに必要なだけ利用できる」「必要に応じてスケールイン/アウトできる」「従量課金」といったクラウドの特徴については多くの人が共通の認識を持っているが、「一方で、誤解も進んでいる」と述べ、「クラウドとは何か」ではなく「何で“ない”か」について、5つの項目を挙げた。ここではそれらを順に紹介しよう。
1つ目は『クラウドは、次世代のサーバ仮想化ではない』――「サーバ仮想化とクラウドはよく混同される。例えばデータセンターのサーバを仮想化すれば、それはプライベートクラウドだと考える向きもあるが、それはあくまでサーバ仮想化に過ぎない。クラウドとは“まったく新しいアーキテクチャ”を採用したものだ」(ドラキア氏)。
その具体例として、アマゾンのIT基盤のアーキテクチャを紹介。「コモディティサーバやストレージの上にハイパーバイザが乗り、さらに “ハイパーバイザのハイパーバイザ”とも呼ばれるオーケストレーションソフトウェアでIaaS環境を統合的に運用管理している。これにより、業務に応じた無駄のないキャパシティ管理と柔軟なスケーラビリティを担保している。われわれはこうした“アマゾンスタイル”のクラウド環境整備を支援することを考えてきた」
ドラキア氏はこのように述べ、米シトリックス・システムズが2011年7月に買収したCloud.comのクラウド構築・運用ソフトウェア「CloudStack」を紹介。VMware ESX、Hyper-V、XenServer、KVMなどハイパーバイザを選ばず、クラウド環境を統合管理することで、アマゾンスタイルの柔軟性あるプライベートクラウド環境を整備できると訴えた。
2つ目は『クラウドは、トップダウンではない』――「クラウドは個人、部門レベルで採用され、その利便性を実感した人たちが中心となり、ボトムアップ型で社内に浸透していくケースが多い。この点で、クラウドの浸透・進展にとってはコミュニティが重要な役割を果たしている」(ドラキア氏)。
この点について、ゲストスピーカーのITジャーナリスト 新野淳一氏が登壇し、「コミュニティによってもたらされる情報はベンダから得られる情報を凌駕しようとしている」と解説。「国内でもこの1週間だけで90件もの勉強会が開催された。今後は、クラウドを積極的に勉強しているエンジニアを活用することが、クラウドで成功する1つのポイントになるだろう」と、コミュニティによる自発的な能力開発とそうした人材登用の重要性を指摘した。
そして3つ目は『クラウドは、ロックインではない』――「クラウドを利用するためには、全ての関連製品を単一のベンダ製品でそろえなければならないと思われがちだが、クラウドは“オープンであり、オープンソースでもある”と考えている」(ドラキア氏)。同氏はこう述べたうえで、CloudStackを使えばマルチベンダ製品を使って自由にクラウド基盤を整備できることを指摘。
また、「従来は、まずプロプライエタリ・ソフトウェアが登場してからオープンソースが出るという流れだったが、クラウドのイノベーションはオープンソースから登場している」として、2012年4月に発表した「CloudStack開発プロジェクトをApache Software Foundationに移行する計画」を紹介。シトリックスは2011年8月、CloudStackのオープンソースのコードベースと商用版のコードベースをマージし、無償提供する一方で、有償のサポートサービスも提供しているが、現在同社ではCloudStack商用版の提供に注力しつつ、オープンソースコミュニティによる技術の進展に期待を寄せているそうだ。
4つ目は『クラウドは、孤立した島ではない』――「今後はプライベート/パブリッククラウドが共存していく。そうしたハイブリッドクラウド環境が不可欠となる」(ドラキア氏)
この実現のためには、「アプリケーションレイヤとネットワークレイヤが密接に接続されなければならない」。その実現の一例として、ライトスケールジャパンの営業・事業開発担当ディレクター 進藤洋介氏が登壇し、「アプリケーションのクラウド間ポータビリティ機能」など、マルチクラウド管理機能を持つクラウド運用管理製品「RightScale」を紹介。ハイブリッドクラウドが十分に利用段階に入っていることを訴えた。
一方、ネットワークについては、米シトリックス・システムズのスニール・プティ氏が、「クラウドネットワークには、必要に応じて性能を変化させられる柔軟性、拡張性と、シンプルに管理できることが求められる。従来型の社内ネットワークは拡張性や柔軟性に欠け、コストの無駄が生じたり、管理面でスパゲティ化を招いたりしてしまっていた」と述べ、そうした課題を解決する製品としてネットワーク製品「Citrix NetScaler 10」を紹介。
ハードウェアを拡張せず、ライセンス追加のみで性能を最大5倍まで拡張できる「スケールアップ」、クラスタリングによって最大32倍まで拡張する 「スケールアウト」、仮想アプライアンスをNetScaler SDXプラットフォーム上に統合する「スケールイン」という3つの方法でパフォーマンスをコントロールする「TriScale」機能を紹介し、クラウドネットワークとしての要件を満たしていることをアピールした。
このほか、Citrix NetScalerのユーザーである新日鉄ソリューションズのITインフラソリューション事業本部ITエンジニアリング事業部 absonne2.0グループ部長の早瀬久雄氏が、IaaS「absonne」の提供に当たってネットワークにまつわる要望が多いことから、「エンタープライズ・クラウドサービスはネットワークが鍵だ」と指摘。アマゾン データ サービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏も、「ピーク設計と物理制約からITインフラを解放することがクラウドの最大の力」と述べ、「Citrix NetScaler 10」の優位性を別の角度から訴えた。
そして最後は『クラウドは、インフラの話ではない』――「クラウドインフラはビジネスの価値を生み出すためのもの。これまで不可能だったことを実現するためのソリューションだ」。
ドラキア氏は最後にこのように述べ、クラウドは目的ではなく、あくまで“手段”であることを強調。「インフラをサービスとして使ってみる、開発・テスト環境として使ってみるなど、アプローチはいろいろある。自社のビジネスにとって最もクラウドが生きる部分を考え、活用を始めてみてほしい」と、積極的なクラウド活用に向けてユーザー企業らの背中を押した。
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