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<vol.21の内容>
「米国CATV事情」
スユア e-パブリシング研究会代表 伊藤 博氏による、CATV普及率がすでに68.7%を超える米国のCATV事業者などの視察レポートをお送りする
2000年9月4日、PC出荷台数世界一を誇るコンパックが新たな戦略を発表した。「iPAQ(アイパック)」と銘打たれたそのビジネスは、BtoB(企業間電子商取引)やBtoE(従業員、企業内個人向け電子商取引)市場をターゲットとし、ビジネスの生産性を向上させるインターネット・コンピューティング環境を提供するものである。
今回は同社コマーシャルビジネス統括本部 インターネットプロダクト部 部長 湯浅茂氏に、iPAQのビジネスモデルとその展望についてお話をうかがった。2000年10月4日、天王洲の本社をお訪ねして実施したインタビューを、今回から3回にわたってお届けする。
2000年の12月に日本でもBSデジタル放送が開始された。しかし、双方向サービス時代の到来といい切れるだろうか。中央からの配信だけでは対応できないリッチコンテンツ不足を解消するには? 日本の放送とインターネット業界のカギを握るものは? ブロードバンド回線接続で契約件数を伸ばす米国CATVの現状は?
今回は、付加価値の高い企業活動の実現支援を目的にコンテンツを作り、共有・伝達するシステムをユーザーの立場から研究しているスユア e-パブリシング研究会の代表の伊藤氏に、同研究会の2000年12月度定例会で報告された、11月末から12月初めにかけて行われた米国視察の概略紹介を行っていただいた。
米国の大手CATV(ケーブルテレビ)局は、高品質な音声や映像メディアなど大きなデータを送受信できる高速インターネットのブロードバンド回線接続のサービスを行って、その契約世帯数を急激に伸ばし始めている。
米国の人口2億7000万人に対して、テレビ所有世帯数1億80万世帯、CATVへの加入者は6870万世帯で、普及率68.7%もある。アナログも含め絶対数としては上限に近いと思われるが、このうちデジタル映像サービスの利用者は、780万世帯、普及率11%、ブロードバンド接続のケーブルモデム契約者数は、2000年末までに360万世帯、普及率約5%になると予想されている。ADSLなど電話系を含めると500万人になる(全米CATV連盟NCTA、2000年11月13日発表による)。
また、CATVのデジタル化、衛星放送で進んだ多チャンネル化は200チャンネルを超えているが、いまのブロードバンドの波に乗せて、近い将来には1000チャンネル(コンテンツ)へと広がる可能性を見せ始めた。
視察先の1つエキサイト@ホーム社は、1995年にCATV大手のTCI(現在CATV最大手AT&Tブロードバンドに買収された)の子会社@ホーム社として設立され、ブロードバンドのISP(インターネット・サービス・プロバイダ)と、CATVとインターネットへのコンテンツ・サービス・プロバイダを行っていたが、最近インターネットのポータルサイトであるエキサイトを買収して、「エキサイト@ホーム」になった。
ISPとしては、AOL、アースリンクに次ぎ300万人のユーザーがいる。AOLは、ISP最大手で2200万ユーザーを有するが、その多くは従来のナローバンドサービスであり、そのコンテンツは雑誌的である(だが、米国第2位のCATV網を持つタイム・ワーナーを小が大を食う形で合併してブロードバンドへも進出し始めている)。
一方、ブロードバンドをベースとしたエキサイト@ホームは、多チャンネル放送そのものであり、今後は各種ソフトウェアや高音質音楽データなどのリッチコンテンツの配信や、パーソナライズされたポータルサービスにも力を入れていくほか、アドバンスドTVという双方向型テレビのサービスも開始するとのことである。まさに放送と通信が融合した次世代型のサービスそのものである。最近マスコミを騒がすTコマースも現実のものとなっている。
CATVチャンネル(コンテンツ)は、映画・音楽・スポーツなどの娯楽番組、ニュースや議会中継などの情報番組、教養・実用知識・宗教番組、英語以外の他言語番組とテレビショッピング番組である。1994年開局以降の人気チャンネルは、ヒストリー・チャンネル(歴史)、ホームガーデン・テレビジョン(庭の手入れ)、ドゥ・イット・ユアセルフ(住居)、そのほかでは教育や自然番組、テレビや映画の名作物など家庭回帰ムードに乗ったものが多い。
現地では多チャンネル時代のキラーコンテンツは、ローカルコンテンツだといわれていた。CATVは、地域密着型の有線メディアなので、これは当然のことだろう。情報誌のぴあやリクルートの各誌みたいな映画・コンサート・イベント情報、旅行関連の情報は当然として、地方行政や交通・気象情報、地域内のショッピングセンターやスーパーマーケットなどのショッピングガイド、学校の給食メニューなども挙げられていた。
米国では、このように電話回線を利用するDSLなどとCATVを合わせたものであるブロードバンド回線を利用した低コストのインターネット常時接続サービス、リッチ(大容量)コンテンツの配信サービスが普及しつつあり、インターネットと放送の融合が始まっているが、日本でもそのスピードに遅れは見られるものの状況は同じである。CATVやADSLによるブロードバンド・インターネットは、今年以降急拡大していくことだろう。ただ、地上波やBSデジタル放送では、一部の既存マスメディアが生活者を囲い込み、利権を拡大しようとしていると思われてもしかたがない状況である。
2000年12月、鳴り物入りで始まったBSデジタルや従来のCSは、双方向とはいえ、放送局への上り線はわずか2400bps、時代錯誤も甚だしいうえに、クローズドなものである。2001年の年末に発売が予定されるBSデジタルと110度CS放送の複合機においても、速度はいまのインターネットのダイヤルアップ接続程度になりそうで、しかも相変わらずクローズドなネットワークであり、お世辞にもブロードバンド時代のサービスとはいえないものになりそうである。
このような状況下では、Tコマースはいわれるほどには大きな市場に育たないのではなかろうか。インターネットとシームレスな環境を作れなければ、PCやモバイル(携帯電話、PDAを含む)を中心としたEコマースに、そのコンテンツやサービスにおいて、太刀打ちできないからである。
従来のデータ放送や双方向テレビのサービスがどれだけのユーザーを獲得できたかを考えてみればいい。インターネットがない時代と、そのユーザー数が2001年の3000万人を超える時代との違いを放送関係者は、よく認識する必要があるのではないか。生活者の視点に立ったブロードバンド活用でなければ、生活者には意味がないものになってしまうからだ。
一方、BSデジタル放送が開始され、一部のデジタル化されたCSやCATVと併せて双方向サービスが動き出したが、当然のようにリッチコンテンツ不足が叫ばれている。中央から配信される番組だけでは、多様化する顧客ニーズと多チャンネル化に対応することはできず、地域に根差したメディア制作企業であるCATV局やビデオ制作プロダクションだけではとうてい無理である。
小さい市場の中で費やせるコストも限られている。地域の新聞・出版・ミニコミ紙(誌)発行会社や印刷関連会社、あるいはマルチメディア系ベンチャー企業が、地域密着型コンテンツ・プロバイダ事業へ参入することが、不可欠であると考える。収益構造は、もちろん料金を取る、広告も取るということになるが、一般ユーザーからお金を取るためには、彼らに価値を感じてもらえるコンテンツが必要である。
「1にも2にもコンテンツ」、21世紀初めの10年間、放送とインターネット業界のeビジネスの成否は、やはりコンテンツビジネスをいかに軌道に乗せられるかにかかっていると思われる。
(おわり)
略歴 | |
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1980年 3月 | 興陽紙業株式会社(現コーヨー21)入社 |
1996年 5月 | デジタルパブリッシング最新動向セミナーの定期開催開始 |
1997年12月 | 独立団体としてスユアデジタルパブリッシング推進研究会 (現スユア e-パブリシング研究会)を結成、代表就任 |
1998年 3月 | 研究会事務局として有限会社スユア設立、代表取締役就任 |
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