事例に学ぶパフォーマンス管理の勘所パフォーマンス管理セミナー(2/2 ページ)

» 2012年11月27日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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アプリケーション視点で再考するトラフィック管理

F5ネットワークスジャパン マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャの野崎馨一郎氏 F5ネットワークスジャパン マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャの野崎馨一郎氏

 次のセッションは、「クラウドとウェブアプリケーションの安定性を最大化するために」と題し、F5ネットワークスジャパン マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャの野崎馨一郎氏が講演した。

 野崎氏は、今のITインフラに求められるものは何かを顧客に聞いたところ、「仮想化環境は数時間で構築できるが、ネットワーク構築や増強には数週間かかり、それが足かせとなる」「L4ロードバランサがカタログほどのパフォーマンスを出さないことがある」「トラフィックの集中でネットワーク入口にあるファイアウォールでパケットロスが頻発する」といった回答があったと述べる。

 このような課題を解決する柔軟かつ機敏なインフラで、快適な使用感と安全性を兼ね備えたシステムを構築するには、アプリケーション視点で見つめ直すとうまくいく。同社のロードバランサ「BIG-IP」は、アプリケーション視点でシステムを設定する「iApps」と、複数ブレード内で柔軟に仮想ADC(アプリケーションデリバリコントローラ)を構成できる「Scale(N)」を提供する。また、ユニファイド・セキュリティ・アーキテクチャによって、負荷分散でパフォーマンスを確保しながら「TMOS」による全トラフィックの可視化/制御を通じて高いセキュリティも実現する。

 もちろん、Webパフォーマンスの向上にも有効な機能を提供している。モバイルユーザーとBIG-IP間をGoogle開発のSPDYプロトコルでつなぎ、BIG-IPとWebサーバ間をHTTPでつなぐことで、アプリケーションや既存のWebアプリ/コンテンツに依存せず高速なアクセス環境を構築できる。

総合パフォーマンス監視を実現

リバーベッドテクノロジー セールスエンジニアリング本部 シニアテクニカルエンジニアの石井勝徳氏 リバーベッドテクノロジー セールスエンジニアリング本部 シニアテクニカルエンジニアの石井勝徳氏

 「仮想化・クラウド環境に不可欠なITパフォーマンス管理と最適化のポイント」というセッションでは、リバーベッドテクノロジー セールスエンジニアリング本部 シニアテクニカルエンジニアの石井勝徳氏が講演を行った。

 石井氏は、データセンターの既存のネットワークパフォーマンスとアプリケーションパフォーマンスの管理はそれぞれで完結、個別の管理ビューで監視しており、障害時の切り分けを難しくしていると指摘した。

 同社のパフォーマンス管理システム「Cascade」は、両パフォーマンスを一元的に監視でき、しきい値ではなく振る舞いで挙動解析して定常時のネットワーク流動やサーバ負荷を比較できる。「中が見えない仮想化環境でも、Virtual Cascade Sharkを仮想化環境にインストールし、Cascade Pilotで継続的にオンデマンドパケットキャプチャしてCascade Profilerでデータ集約することで、リアルタイムの可視性を獲得できる」(石井氏)

 このほか、企業側でもパフォーマンス管理を最適化できるのが、「Stingray」シリーズと「Steelhead」シリーズだ。Stingrayシリーズには、ソフトウェアベースの仮想アプライアンス「Stingray Traffic Manager」、アプリケーションレベルでトラフィックを精査する「Stingray Application Firewall」、Webページのロード時間短縮などで表示速度を最適化する「Stingray Aptimizer」がある。Steelheadシリーズは、仮想アプライアンス「Virutal Steelhead」、ポータル管理できる「Cloud Steelhead」、SaaSアプリケーションの快適利用を支援する「Steelhead Cloud Accelerator」がある。「同製品群を導入したSKFでは52倍のパフォーマンス向上を実現した」(石井氏)

ゼロから構築した株価情報配信基盤

カブドットコム証券 社長付IT戦略担当の谷口有近氏 カブドットコム証券 社長付IT戦略担当の谷口有近氏

 最後のセッションでは、カブドットコム証券 社長付IT戦略担当の谷口有近氏が「クラウド・オンプレミスハイブリッド環境での性能監視」というタイトルで講演した。個人投資家向けのオンライントレードを提供するカブドットコム証券では、あらゆるソースから株価情報を収集し、整形してからマルチデバイスに配信している。これまでモバイルへの情報配信をオンプレミスでのみ実施してきたが、突然のトラフィック上昇でフリーズすることがあった。それが、クラウドに展開するきっかけだったと谷口氏は説明した。

 こうして構築したのが、Windows AzureのPaaS(サービスとしてのプラットフォーム)による株価配信API基盤だ。「オンプレミス側で整形した情報をクラウド側に投げ、高負荷処理と配信を任せた。これでオンプレミス側の顧客情報はI/O負荷が削減できる」(谷口氏)

 同氏が考えるクラウドの定義は、「孤立系のコストの総量は変化しない」と「孤立系のコスト構造の乱雑さは増大する」だ。前者は、金銭面のコスト削減はその分だけリスクなどのほかのコストを上昇させるというものだ。後者はエントロピーの法則同様、高額なシステムを個別に入れると、その配下のシステムに影響を与えて問題が散在していくというものだ。「クラウドを活用するときは、取捨選択や適材適所をよく吟味してとりかかることが重要だ」と谷口氏は強調する。

 再編にあたり目指したのは、スケールアウト耐性を活用したPaaSモデルのノウハウ獲得と、ハイブリッド化による運用コストの分散、そしてAPI化の推進による開発生産性の向上だった。谷口氏は「実装時には、業務データ系の高トランザクションに関する国内事例がなく、ゼロから模索しなければならなかった。オンプレミスからAzureへのデータアップロードでCPU負荷と性能目標のバランスを見極めるのに苦労した」と振り返る。最終的には宅配便のように、ある程度のデータをストアしてから送信するモデルに落ち着いたという。このモデルでは、ノード間通信やデータの送受信が自律分散処理されており、即時性とのバランスはチューニングで対応する。パフォーマンス監視は、機関投資家とシステム間、株価情報処理システムと発注系システム間、システムと取引所間の3つのポイントで処理平均速度などを見ている。「クラウド時代だからこそ、データのやり取りの頻度をしっかり監視するシステム作りが重要なのだ」と谷口氏は力を込めた。

取材/文:谷崎朋子

構成:@IT情報マネジメント編集部


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