導入先行企業の事例に学ぶ――スマートデバイス導入の秘訣とは?スマートデバイス導入セミナー(2/2 ページ)

» 2012年12月03日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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トップダウンのスマートデバイス導入は失敗することも

NTT PCコミュニケーションズのネットワーク事業部 サービス開発部、齋藤壽勝部長 NTT PCコミュニケーションズのネットワーク事業部 サービス開発部、齋藤壽勝部長

 「スマホやタブレットはノートPCの代わりではない」と指摘するのは、NTT PCコミュニケーションズのネットワーク事業部 サービス開発部、齋藤壽勝部長だ。経営幹部のトップダウンによってスマートデバイスを導入するケースが散見されるが「無理にPCを置き換えた結果、生産性が低下することもある」と指摘する。

 同社では、主に営業用の端末としてスマートデバイスを貸与し、またリモートアクセスによるBYOD環境も整備した。セキュリティの観点から、リモートで社内のPCにアクセスすることは許可していないというが、セキュアなオンラインストレージを用意し、そこから営業資料などをダウンロードできる仕組みだという。専任の営業サポートスタッフがオンラインストレージ上の資料を最新のものにアップデートするため「営業がコア業務に集中できるようになった」という。また、「日報を提出するために帰社する必要もなくなった」(齋藤氏)とした。

フォーティネットジャパン パートナー営業本部 兼子晃氏 フォーティネットジャパン パートナー営業本部 兼子晃氏

 NTT PCでは、セキュリティを確保した社内接続「Master's ONE」を提供している。「システム構築だけでなく、ワークスタイル変革の観点からユーザー企業のサポートをしていく」(齋藤氏)

 図研ネットウェイブおよびフォーティネットジャパンでは、モバイルネットワークのセキュリティという観点に加え、デバイス管理という観点からもBYODの課題を捉えているようだ。実際、フォーティネットジャパンの調査によると「60%の人は、スマートデバイスを1日利用できないことに耐えられないし、90%の人は業務でも私物の端末を使いたがっている」(フォーティネットジャパン パートナー営業本部 兼子晃 氏)という結果が出たという。加えて兼子氏は、39%もの人が勤務先で禁止されているにもかかわらず私物のスマートデバイスを業務に使っているという調査結果を紹介する。「禁止するのではなく、前向きに対応する必要がある」(兼子氏)

図研ネットウェイブ ビジネス推進課の武藤耕也課長 図研ネットウェイブ ビジネス推進課の武藤耕也課長

 図研ネットウェイブ ビジネス推進課の武藤耕也課長は、「BYODの推進にはデバイス管理が重要。まずは手間をかけてでもリスト化し、管理対象を明確化する必要がある。端末を識別できるようになれば、あとは不正端末を排除すればよい」と指摘する。ベリサインなどが提供するMDMソリューションに、フォーティネットのUTM製品「FortiGate」を組み合わせることで、デバイスおよびネットワークの統合管理を実現できるという。

 アクシスソフトが来場者に披露したのは、同社が提唱する「UIプロトタイピング開発」である。同社 執行役員 プロダクト事業本部長の小泉裕司氏は、このモデルに基づいて国内大手メーカーへのスマートデバイス導入プロジェクトを成功に導いたと話す。

 スマートデバイスの導入効果を出しやすいのは、バックエンドよりもコア業務である。常に顧客と接触している営業部門に対しては、投資もしやすい。「スマートデバイスで業務情報の共有を進めれば、営業ノウハウの属人性を排除でき、競争力を底上げできる」(小泉氏)

アクシスソフト 執行役員 プロダクト事業本部長の小泉裕司氏 アクシスソフト 執行役員 プロダクト事業本部長の小泉裕司氏

 アクシスソフトはこのプロジェクトにおいて、ユーザー企業が抱えるベテラン営業マンのノウハウを、全営業スタッフが携行しているAndroid端末上で使えるヒアリングシートとしてまとめたという。これにより、ヒアリング内容に基づき営業スタッフは、客先に提案する機器の選定から構成変更、そしてコストの提示までが可能になった。「持ち帰って検討する必要がなくなり、初回提案のスピードと品質が向上した」という。

 ただし、こういった成果を上げるためには「ステークホルダーとの事前調整が重要だ」と小泉氏は説く。UIを先行して設計することで、ともすれば業務プロセスの変更に保守的な部署との間にも合意形成しておけば、プロジェクトがスムーズに進むという考え方だ。

 とはいえ、Android、iOSというスマートデバイスのプラットフォームに加え、タッチUIを前提としたWindows 8のリリースにより「業務システム向けのWebアプリケーションにおいては、プラットフォームをまたいだ開発負荷が課題になる」と小泉氏は読む。アクシスソフトが提供する開発環境「Biz/Browser」は、プラットフォームやデバイスの違いを吸収し最小限の負荷でクロス環境の開発ができるという。

コンビニ市場を取り巻く環境変化にスマートデバイスで対応

ローソンのITステーション システム基盤、高原理彦部長 ローソンのITステーション システム基盤、高原理彦部長

 およそ1600台ものAndroidタブレットを導入したユーザーとして、本イベントのクロージングセッションを務めたのはコンビニエンスストア大手ローソンのITステーション システム基盤、高原理彦部長である。

 高原氏は冒頭、女性客やシニア客の急速な増加など、コンビニを取り巻く市場環境の変化を紹介する。こういった市場環境の変化に対応するため、店舗の経営指導をするスーパーバイザー(SV)が果たす役割が重要になってきているという。「SVの業務を、フランチャイズ店にとって価値ある経営指導に特化させることで、さらなる変化対応が可能な強いチェーン店を目指す。これがタブレット端末の導入背景だ」(高原氏)。

 高原氏によれば、SVは店舗とローソン本部のハブなのだという。「これまでも、SVを介することで両者間の情報共有を密にしようと取り組んできたが、タブレット端末によって情報展開のスピードと密度が劇的に変わった」というのが高原氏の評価だ。具体的には、テレビ会議をフル活用してSVの店舗巡回効率を上げたり、カメラ機能を活用し“良い売り場”のヨコ展開を行ったりしているという。「できないサイクルからできるサイクルへ。これが大きな変化だ」(高原氏)。

 ローソンはなぜAndroidを選んだのか? 高原氏によれば大きく2つ。1つはOSソースコードが公開されておりJavaで開発できるという開発自由度の高さで、もう1つは各ハードウェアベンダが端末を扱うことによる価格競争力だという。「iOSは既存システムとの親和性に難があったWindows 8も検討したが、ライセンスコストがかさむ」(高原氏)。以前から従業員にAndroidのスマートフォンを貸与していたため、トレーニングの必要が少ないことも要因だという。

 「今後はスマートデバイスを核にした、店舗情報のリアルタイム活用に取り組みたい」というのが高原氏の計画だ。ビジネス環境の変化に追随するにはITが重要。ITで経営のイノベーションを主導していく」(高原氏)

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