物事の理を知れば真実は見ずとも分かる:ビジネス刑事の捜査技術(2)(3/3 ページ)
前回は、捜査の技術がビジネスの場で役立つことを説明し、実際に「求める顧客像をしっかりとイメージし、顧客になったつもりで行動パターンを推理する」というテクニックを紹介した。今回も捜査の技術を使った例の続きで、行動パターンの推理をもう少し詳しく考えないといけない例を考えてみる。
問題原因を追跡するためのトレーサビリティの重要性
自社内の問題の原因が、見えない因果関係に起因することが多い。裏返せば、競合先の強みもまた、見えない因果関係に答えがあるはずである。あるいは外注先の問題もまた、見えない因果関係に答えがあるかもしれない。
待ち行列は、発注側と受注側が出合うプロセスとプロセスのつなぎ目で発生する。会社と会社、部署と部署、担当者と担当者、今日の仕事と明日の仕事、休憩前の仕事と休憩後の仕事、仕事を分割していけばいろいろな単位のプロセスが存在することが分かる。見えない因果関係で起きている問題を追跡するには、目に見えるようにしなければならない。まずはフローチャートなどによって目に見える地図にし、そして次にそこで動いているものをレーダー表示させなければならない。
警察が使用する電話の逆探知も、指紋やタイヤ跡の鑑識もレーダー機能の1つである。ビジネス捜査では伝票などの記録がレーダー機能に当たる。企業間の注文書、納品書はもちろんのこと、部署間の依頼書、搬入書も重要なレーダー機能だ。しかし、レーダーとして働くためには、1つの顧客注文が社内でどのような経路にいつ通っていったかについて追跡できる必要がある。ISO 9000が要求するトレーサビリティがこれに当たる。
情報システムが完備されていれば、まさに電子化されたレーダー機能といえるはずである。納期遅れが発生した注文分が、社内プロセスをいつどのように通過していったかを追いかければ、どこかのプロセスで何らかの割り込みあるいは、停滞が発生していたことを突き止めることができるだろう。問題は、そのようなレーダー機能を持つことを意識して情報システムが構築されていないことである。それならば、飲み込み式の胃カメラのように、マーカー付きの注文を流して、詳細な記録を取りながら社内プロセスを1つ1つ点検して回るのも手かもしれない。マーカーが人間の場合、それは刑事捜査における尾行なのである。
次回の予告
次回は、商品が売れないという事件について捜査してみたい。あらかじめ商品を買ってくれる顧客像を知ることができれば、もっとうまく商品を売ることができるのではないだろうか。マーケティングリサーチというデータを駆使した科学的捜査について紹介したい。
profile
杉浦 司(すぎうら つかさ)
杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役
京都生まれ。
- 立命館大学経済学部・法学部卒業
- 関西学院大学大学院商学研究科修了
京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援等に従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンク社など、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。
- チャンスやリスクには、兆しがあるもの―平穏なときこそ情報収集のためのパトロール活動を―
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