答えは仮説の下で探し出そう―捜査技術の第4条「仮説の下で探し出す」―:ビジネス刑事の捜査技術(9)(2/2 ページ)
答えを探す際に、何も考えないでやみくもに探し回るのと、仮説を立ててから探し出すのでは答えにたどり着く速さなどが格段に変わってくる。今回は捜査の技術第4条「仮説の下で探し出す」について、試験問題の解き方に例えて考えてみる。
「探し出す」か「作り出す」か、それが問題だ
捜査の答えは選択候補の中から絞り込むものである。決して作り出すものではない。
犯人を作り出すことは捏造(ねつぞう)である。われわれがやるべきことの中には、「作り出す」べきことと、「探し出す」べきことの2つが存在する。この連載では「作り出す」ことはテーマにしていない。捜査の技術は「探し出す」ための技術である。いま、やらなくてはならない問題が目の前にあるとき、まず考えるべきことは、その問題が「作り出す」べきものなのか、「探し出す」べきものなのかということである。
最近は「作り出す」問題も入学試験や就職試験などで出されるようになっているようだが、通常は「探し出す」問題だろう。顧客を捜すことは「探し出す」に当たるだろうが、売れる商品を作ることはどうだろうか。顧客すら知らない、気付いていない機能や便益を持つ商品を企画するのであれば「作り出す」に当たるだろうし、それを買う顧客ですら「作り出す」ことが必要になるだろう。
「探し出す」か「作り出す」かを決めるのはあなた自身であり、それによって説くべき問題の意義自体が変わってしまうのである。
捜査は選択候補の中からの絞り込みである
捜査の技術は「探し出す」問題を対象にしている。「探し出す」問題を解くということは、正解、真実にたどり着くということである。先の例のように、「探し出す」問題を「作り出す」問題と勘違いしてしまうと、正解にたどり着くことは難しい。
うまく「探し出す」ためには、手当たり次第、探し回るのではなく、あり得る選択候補を洗い出して、可能性の高いものから当たっていくことが必要である。可能性が高いと思うものを答えを正解として置いてみて、周りの状況と適合するか検証し、満足できなければ次に可能性の高いと思うものを試してみるという、仮説の設定と廃棄の繰り返しが真実へと接近させていく。初めに選択候補として十分なものが挙げられるかは、知識と経験の問題である。
試験問題でも初めに想定していた選択候補を順番に当てはめていっても、正解が得られないということも起こり得る。大変厄介な状況だが、この場合、考えられるのは選択候補のどれかについて、捜査上の見落としがあったか、あるいは選択候補自体に正解がなかったかである。捜査者はそのどちらであるかについて知ることができないため、捜査ミスがなかったと確信できるまで再捜査することになるだろう。
情報がなければ「探し出す」問題は解けない
会社の検討会議や企画会議で、意見をいわない社員がいる。意見を押さえ込む上司がいる。
社内問題の解決策について話し合ったり、販売てこ入れのための販促方法など、「探し出す」問題について話し合うのであれば、どんどん意見や情報を交換するべきである。
「作り出す」問題の場合は、やみくもに会議するよりは、皆でそれぞれ考えてみることが必要だが、「探し出す」問題では1人で黙って考えるより、皆で選択候補を出し合って、正解かどうか話し合うことが大変効果的だ。
仮説と廃棄の繰り返しが活発であればあるほど、正解への接近が早くなる。当たり前だとかばかげているとか頭の中で先に考えていわないでおいたことが、実は正解だったという経験はないだろうか。どんなに小さな情報でもベテラン刑事はおろそかにしない。
会議で新人や未経験者の意見を封じ込めるような人がいる会社は、心配した方がよい。会社を適切にかじ取りするために必要な情報が途中で消えてしまっている危険がある。経営者が抱える問題の多くもまた「探し出す」問題である。意思決定すべき選択候補も不足し、正解かどうかを判断するための情報も途中で消されてしまうというのでは、まるで戦時中の日本軍のようである。
今回は、捜査の技術第4条「仮説の下で探し出す」についてご説明した。次回は、捜査の技術第5条「足元を固める情報収集活動がターゲット像を絞り込ませる――やみくもに探しても見つからない」について説明する。
組織図や顧客リスト、資源台帳などが作成されていない、あるいは更新されていない会社がある。自分の緯度経度も分からず航路を決めることは不可能である。
何事がなくても毎日確実に記録されていく出荷記録があるから、いざというときに回収のための追跡が可能となる。ビジネス捜査では業務の記録化(ロギング)が非常に重要な意義を持つ。
筆者プロフィール
杉浦 司(すぎうら つかさ)
杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役
京都生まれ。
- 立命館大学経済学部・法学部卒業
- 関西学院大学大学院商学研究科修了
京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。
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