
年末調整時期が近づくと「またあの煩雑な作業が始まるのか」と頭を悩ませている人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。大量の紙書類の配布・回収、記入不備のチェックや差し戻し、そして手作業での計算。毎年繰り返されるこの業務は単なる季節業務ではなく、企業の業務プロセス改革を阻む大きな課題です。
しかし、その悩みはまとめて「年末調整システム」で解決できるかもしれません。クラウド型(SaaS型)サービスを活用すれば、今年の年末調整に間に合わせつつ、業務の自動化とペーパーレス化を実現し、担当者も従業員も双方の負担を大幅に軽減できることでしょう。
本記事では、2025年末に向けて対策する年末調整とその効率化システムの選び方を徹底解説。おすすめのSaaS型製品10選から失敗しないための導入ロードマップまで、担当者が本当に知りたい情報を網羅的にお届けします。
この1ページで解決!年末調整システムの主な機能、メリット/デメリット、選定ポイントを徹底解説
目次
まだ紙で消耗? 年末調整業務に潜む深刻な課題
多くの企業で「大変」「面倒」と課題となっている年末調整業務。システム導入を検討する前に、まずは現状の業務にどのような問題が潜んでいるのか、具体的に見ていきましょう。担当者であれば1つは思い当たる項目があるはずです。
- 膨大な書類の配布・回収・催促にかかる手間と時間
- 手作業による計算ミスや記入不備による差し戻し
- 問い合わせ対応でコア業務が中断されるストレス
- 大量の個人情報を紙で保管するセキュリティリスク
課題1:膨大な書類の配布・回収・催促にかかる手間と時間
年末調整は、扶養控除申告書や保険料控除申告書といった各種書類を従業員へ配布し、保険の控除証明書などを準備してもらうことから始まります。
従業員数が増えれば増えるほどこの作業だけで大きな負担となります。さらに大変なのがこれらの書類の回収と管理です。提出期限を守らない従業員への催促、紛失したという従業員への再配布やフォローなど、進捗状況の把握と個別対応に追われるケースは少なくありません。
課題2:手作業による計算ミスや記入不備による差し戻し
回収した申告書は一枚一枚内容をチェックする必要があります。特に保険料控除申告書では、証明書の金額と申告書の記載が一致しているか、控除額の計算は正しいかなど、細かな確認作業が発生します。
ここで記入不備や計算ミスが見つかれば従業員本人に差し戻して修正を依頼しなければなりません。双方にとって大きな手間となります。
課題3:問い合わせ対応でコア業務が中断されるストレス
年末調整の時期は従業員からの質問が急増します。「この項目はどうやって書けばいいの?」「どの書類を提出すればいいの?」といった問い合わせがひっきりなしに寄せられます。その都度担当者のコア業務は中断されてしまいます。特に兼任担当者の場合、この時間的損失は深刻な問題です。
課題4:大量の個人情報を紙で保管するセキュリティリスク
年末調整で扱う書類には、従業員のマイナンバーや扶養家族の情報、年収など、極めて重要な個人情報が記載されています。これらの書類を紙で管理・保管する場合、紛失や盗難、のぞき見といった情報漏えいのリスクが常に伴います。
また、書類保管スペースの確保、7年間の保管義務に対応するための管理コストも無視できません。
なぜ「Webシステム化」なのか? 導入が急務である2つの理由
前述のような課題は、多くの企業が長年抱えてきたものです。しかし今、これらの課題解決が「推奨」ではなく「急務」となりつつあります。その背景には、避けて通れない2つの大きな変化があります。
この章では、なぜ今、年末調整のWebシステム化が必要不可欠なのか、その理由を解説します。
理由1:【法改正】デジタル庁が推進する電子化の波
働き方改革とデジタル化推進の流れを受け、デジタル庁を筆頭に国全体で行政手続きのオンライン化が進められています。その一環として、年末調整手続きの電子化も強力に推進されています。
特に大きな変化が、2021年1月から適用が開始された「電子申告の義務化」です。具体的には、資本金1億円超の法人や、前々年の法定調書の提出枚数が100枚以上の企業は、特定の法定調書についてe-Taxなどによる電子提出が義務付けられました。
これには源泉徴収票も含まれるため、対象となる企業は年末調整プロセスの電子化が必須となります。
理由2:【電子帳簿保存法】ペーパーレス化とコンプライアンスの両立
もう一つの重要な法改正が「電子帳簿保存法」です。この法律は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールを定めたものです。
年末調整においても、保険料控除証明書などを電子データで受領・保管するケースが増えていること、あるいはハガキや封書で届いた控除証明書をスキャン(電子化)して提出するニーズも増えており、電子化を進める上でこの法律への対応は不可欠です。
Webシステムを導入することは、単に申告が楽になるだけでなく、こうした法改正に準拠した形で書類を適切に保管・管理する体制を構築することにも繋がります。
おすすめ「まだ間に合う?」「何が違反になる?」改正電子帳簿保存法のQ&A
メリットは担当者だけじゃない! SaaS型年末調整システムの多角的な効果
年末調整Webシステムを導入するメリットは年末恒例の激務に追われる担当者……だけが享受するものではありません。担当者、従業員、そして経営者という異なる立場にもそれぞれ大きなプラスの効果をもたらします。ここでは、それぞれの視点から具体的なメリットを掘り下げていきましょう。
- 【担当者】業務の自動化で「楽」「確実」になる
- 【従業員】PCやスマホで申請が完結でき、手続きが「楽」になる
- 【経営者】業務プロセス改革による、生産性とガバナンスの向上が見込める
【担当者】業務の自動化で、コア業務に集中できる
システム導入による担当者の大きなメリットは、業務の自動化による負担の大幅な軽減です。
申告書の配布や回収、催促はシステムが自動で行い、従業員の進捗状況もリアルタイムで一覧把握できます。控除額の計算なども自動化されるため、面倒な計算作業や人為的なミスから解放されます。不備があればシステムが従業員に直接アラートを出すため、差し戻しの手間も削減。
これにより従来比で業務時間を80%以上削減できたという導入事例もあるようです。
【従業員】PCやスマホで申請が完結でき、手続きの負担が軽減される
従業員にとってもWebシステムの導入は歓迎すべき変化です。システムの多くはマルチデバイスに対応しており、PCはもちろん、スマートフォンやタブレットからでも、いつでもどこでも申告手続きが可能になります。
多くの年末調整システムではアンケート形式の簡単な質問に回答・記入していくだけで適切な書式の申告書が自動作成されるため、記入方法に悩む必要はありません。
保険会社から送られてくる控除証明書も、データ(XMLファイル)、あるいはスマホのカメラで撮影した画像をアップロードするだけで済むため、作業の手間は極めて軽減されます。
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の年末残高等証明書など、企業の運用によっては原本提出が求められるシーンもありますが、この場合も多くの場合、システム側で「別途、このようにこれをいつまでにここへ送付してください」といった案内が示されます。
【経営者】業務プロセス改革による、生産性とガバナンスの向上
経営者視点では、システム導入が人事労務領域における業務プロセス改革の第一歩となる点が重要です。
ペーパーレス化による直接的なコスト削減はもちろん、担当者の生産性向上はより戦略的な業務へリソースを再配分することを可能にします。また、システム上で申請・承認のログが記録され、アクセス権限も厳密に管理できるため、内部統制や情報セキュリティといったガバナンスの強化につながります。
年末調整システムのデメリットは? 導入前に知っておきたい注意点と対策
もちろんメリットだけではありません。導入前に考慮すべきは、主に「導入・運用コスト」と「従業員への定着」が挙げられます。しかしこれらは事前の対策で十分にカバー可能です。
- 導入・運用コスト: クラウド(SaaS)型は多くの場合、月額または年額、ユーザー数(従業員数)などに応じた利用料が固定コストとして発生します。しかし、前述のコスト削減効果や生産性向上を考慮すれば、費用対効果は非常に高いといえます。複数の製品の料金プランを比較し、自社の規模に合ったものを選択することが重要です。
- 従業員への定着: 従業員の中には、PC・デジタル機器の操作に不慣れな人/事情によってできない人もいるでしょう。この場合、一時的に問い合わせが増える可能性があります。これに対しては、世間一般的な「スマホの使い方」「ネットバンキングの使い方」「マイナンバーについて」のような対処と同様と考えられます。導入時のサポートが手厚い製品を選んだり、自社で分かりやすいマニュアルを用意したりすることで対応していきましょう。
2025年の年末調整に間に合わせるための逆算ロードマップ
「まだ夏だよ」「システムの導入を検討したいが、いつから始めればいいのだろう?」そうお考えの方も多いかもしれません。結論から言うと、11月の実務開始にSaaSで余裕をもって間に合わせるためには、まさに今、7月中に計画をスタートすることが成功の鍵です。
多くの企業で従業員への申告依頼が本格化する11月下旬から逆算して、具体的な作業フローと必要な期間を考えていきましょう。

STEP1:【7月~8月】課題洗い出し・情報収集・比較検討(所要期間:約2カ月)
ここまで逆算すると、自社の課題を整理し、各社製品の情報を集め、機能や料金、操作性をじっくり比較検討する期間は、7月~8月の2ヶ月間しか残されていないことがわかります。特に、複数の製品の無料トライアルを試し、自社に本当にフィットするかを見極めるには、ある程度の時間が必要です。
STEP2:【9月】最終選定・稟議・契約(所要期間:約1カ月)
導入する製品を最終的に決定し、社内での承認(稟議)プロセスやベンダーとの契約手続きを進める期間です。企業の規模やルールによっては、この稟議・契約で1カ月以上を要することは珍しくありません。そのため、9月中には導入する製品を決定し、承認プロセスに乗せる必要があります。
STEP3:【10月】導入決定・社内準備・初期設定(所要期間:約1カ月)
従業員への周知やマニュアル準備、システムの初期設定(従業員データの登録など)には、少なくとも1ヶ月は見ておきたいところです。つまり、10月中には導入作業を完了させておくのが理想です。
おすすめ「SaaSを導入したが活用できていない」が3割も!? SaaS導入前に考慮しておくべき3つの基本ポイント
失敗しない年末調整Webシステムの選び方 5つの比較ポイント
自社に合った年末調整Webシステムを導入するためには、どのような基準で製品を比較・検討すればよいのでしょうか。ここでは、導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないための、5つの重要な選定ポイントを解説します。
- ポイント1:操作性|担当者も従業員も直感的に使えるか
- ポイント2:機能|必要な機能は網羅されているか(証明書連携、アラートなど)
- ポイント3:連携性|既存の給与計算ソフトや労務管理システムと連携できるか
- ポイント4:サポート体制|導入時や繁忙期に安心して相談できるか
- ポイント5:料金体系|自社の企業規模や利用人数に適したプランか
ポイント1:操作性|担当者も従業員も直感的に使えるか
重要なポイントは、感覚的にはなりますが「操作性の高さ」です。
ITに詳しくない担当者やPCが苦手な従業員でも、マニュアルを熟読しなくても直感的に操作できる画面(UI)であることが望ましいです。
クラウド型製品の多くは、本契約前に一定期間無料で試用できる「無料トライアル」を用意しています。この期間を活用し、管理者画面と従業員画面の双方を実際に触って「自社にとって」の使いやすさを、自社利用者の目線で確かめましょう。
ポイント2:機能|必要な機能は網羅されているか(証明書連携、アラートなど)
年末調整業務を効率化するための基本機能が揃っているかを確認します。
「年末調整システム」あるいは「年末調整のための機能を備えている」とうたう製品は、基本的に「対応しているはず」です。しかし製品の強みや特徴によって使い勝手・利便性など多少の差があることは想像されます。
具体的には、法令が定めるその年の要件に沿った申告書のWeb作成・提出、控除額の自動計算、進捗管理、未提出者への催促メール機能などは必須です。
さらに、マイナポータル連携による控除証明書データの一括取得や、入力不備があった場合の自動チェック(アラート)機能などがあると、より業務負担を軽減できるでしょう。
ポイント3:連携性|既存の給与計算ソフトや労務管理システムと連携できるか
すでに給与計算ソフトや人事労務システムを導入しているならば、それらと正しくデータ連携できるかどうかも非常に重要です。
年末調整で確定した年税額の計算結果などを既存のシステムとAPI連携、少なくともCSVでスムーズに取り込めるかを確認しましょう。連携ができなければ、結局は手作業での確認やデータ転記が発生し、効率化の効果が半減してしまいます。
ポイント4:サポート体制|導入時や繁忙期に安心して相談できるか
新しいシステムの導入には疑問や不明点が生じるものです。特に、操作方法が分からなかったり、トラブルが発生したりした際に、迅速かつ丁寧に対応してくれるサポート体制があるかも安心材料となります。
製品にメールやチャット、電話など、どのようなサポート窓口があるか、対応時間はどうなっているか、サポートがオプションならばその料金はいくらか、などを事前にチェックしておきましょう。
ポイント5:料金体系|自社の企業規模や利用人数に適したプランか
SaaS型のクラウドサービスは、主に利用する従業員数(ユーザー数)に応じた月額、または年額課金が一般的です。初期費用は無料(0円)のサービスも多くあります。
自社の従業員規模に合ったプランがあるか、将来的に従業員が増えた場合にも柔軟に対応できるかを確認しましょう。最低利用人数や契約期間縛りの有無なども比較検討のポイントです。
【2025年版】年末調整Webシステム比較|まずは検討したい王道サービス 5選
数ある製品の中から、まずは市場での代表性が高く、多くの企業にフィットする主要製品をご紹介します。自社の課題と照らし合わせながら、自社に合った製品を見つける第一歩としてください。(製品名 abcあいうえお順/2025年7月時点、以下同)
このほかにもおすすめの製品があります。搭載機能や特徴、評価/口コミ数などで絞り込み/並べかえができる「おすすめ年末調整システム一覧&検索&比較コーナー」、あるいは「勤怠管理システム製品一覧」「労務管理システム製品一覧」をぜひチェックしてみてください。またITセレクトでは、IT製品・サービス選定に詳しい専門スタッフに聞ける「ITセレクトのコンシェルジュ相談サービス(無料)」も用意しています。こちらもぜひご活用ください!
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概要: 導入社数数万社以上とうたうクラウド人事労務ソフト。年末調整はもちろん、入退社手続きから雇用契約、従業員データベースまで、あらゆる人事労務業務の効率化に貢献します。豊富な導入実績に裏付けられた、直感的な操作性を追求したというUI/UXが魅力です。他社システムとのAPI連携も充実しており、企業の成長に合わせて柔軟に活用できます。
公式サイト: https://smarthr.jp/
マネーフォワード クラウド年末調整
概要: クラウド会計・給与とのシームレスな連携が強み。バックオフィス業務全体を「マネーフォワード クラウド」シリーズで効率化したい、主に中小企業に適しています。直感的なUIと評価があり、初めてSaaS型システムを導入する企業でも利用しやすいとうたいます。マイナポータル連携にも対応しており、従業員の利便性も考慮されています。
公式サイト:https://biz.moneyforward.com/tax-adjustment/












