なぜ、いまTD-CDMAなのか ~技術の生みの親に聞く(前編)
今年、ADSL業界で最も気になるトピックの1つが、「TD-CDMA」だ。同方式は、IMT-2000で定められた3G規格の1つ。現在は、各ADSL事業者とも実験(記事参照)段階だが、将来的には、この技術を用いてIPモバイル電話が登場するとも言われている。
3G規格には、携帯キャリアが採用して、サービスを提供中の技術もある(下表参照)。いくつかある“CDMA”(Code Division Multiple Access:符合分割多重接続)方式の中で、TD-CDMAはどんな特徴を持っており、どう優れているのか。
TDD方式TD-CDMATD-SCDMAFDD方式DS-CDMA(W-CDMA)MC-CDMA(cdma2000)IMT-2000では、複数の3G規格が規定されている(各方式の説明は後述)
国内でいち早く同方式を提案し、「TD-CDMAの生みの親」とされる、慶応義塾大学理工学部情報工学科、工学博士の中川正雄教授に話を聞いた。
発表当時は「あまり反応がなかった」
中川氏は、1991年に国内の学会でTD-CDMAを発表した人物だ。
当時の背景として、米Qualcommが提唱するFDD(Frequency Division Duplex)方式のCDMAが、標準化されようとしていた。そのためか、国内の学会で発表したときも、また米国の学会で発表した際も、さほど大きな反響はなかったという。
しかし、1993年にスイスのジュネーブで発表した時は、「説明が終わると、すぐに10人ほど質問の手が上がり、時間終了後も数人に取り囲まれた」。欧州としては、米国との差別化を狙う観点からも、TDD(Time Division Dultiplex)方式のTD-CDMAを気にいったようだという。その後CDMAといえば、FDD方式とTDD方式が並立するようになる。
国内でいえば、NTTドコモのDS-CDMA(用語)や、auのMC-CDMA(用語)はFDD方式だ。これらは、「音声中心のストラクチャ」(中川氏)。一方で、“データ通信をメインに考える技術”として、TD-CDMAが浮上してきたわけだ。
FDDとTDDの違い
ここで、そもそもFDDとTDDが根本的にどう違うか、おさえておこう。
ポイントは、「上りと下りの帯域をどう使い分けるか」にある。まずFDDは、日本語で「周波数分割双方向伝送」と呼ばれることから分かるように、上り/下りに利用する周波数帯を、それぞれ別に分けてしまう。
実際に、国内でFDD方式CDMAがどう帯域を割り当てられているか、確認した方が分かりやすいかもしれない。図でいうと、1919.6~1980MHz帯が、上り帯域。2110~2170MHz帯が下り帯域となる。ガードバンドを挟んで、上下それぞれ60MHz幅が用意されている。
一方TDDは、日本語でいうと「時分割複信」。通信の際、時間軸をミリ秒単位で分割して、“上り通信の時間帯”と“下り通信の時間帯”とを用意する。これにより、同一の周波数帯域を利用しながら、上り下りを使い分けることが可能になる。国内では、2010~2025MHz帯が空いていることから、ここがTD-CDMA用として使われる見込みだ(上図を参照)。
TD-CDMAでは通信時間を15からなる“スロット”に分割する。たとえば、上りに7スロットを、下りに8スロットを割り当てる……といった要領だ。このとき、下りに8スロット以上を割り当てる(つまり下り通信の時間帯を長くする)といった変更も柔軟に行えるため、下りの最大伝送速度を向上させられる。
これにより、「ADSLと同じように、上り下りの通信速度を非対称にできる」(中川氏)。これが、一般にいわれるTD-CDMA方式のメリットだ。「FDDでは、下りだけ高速化しようとすると、上りの帯域が余ってしまう」(同)。
パワーコントロールのメリット
TD-CDMAが優れている点は、ほかにもある。中川氏が挙げたのは、「パワーコントロール」の部分だ。
CDMAでは、スペクトル拡散の技術を利用することで、複数ユーザーが同じ帯域を使用している。このため、基地局に近いユーザーがいると、「基地局から遠くにいるユーザーの弱まった電波が、マスキングされて排除されてしまう」(中川氏)という問題が起こる。これは、FDD方式でも、TDD方式でも共通の問題だ。
このため、基地局の近くにいるユーザーの電波は、弱めてやるといった具合に、送信電力を調節する必要がある。これを、パワーコントロールと呼ぶ。
具体的には、基地局への上り信号を見たうえで、端末への下り信号を用いて、「送信電力が強いので、絞れ」といったフィードバックを各端末に行う。移動体では当然ながら、基地局と端末の位置関係が流動的なので、上記のフィードバック作業は絶え間なく行う必要がある。
ここで、FDDとTDDでは差が出る。FDDでは前述のとおり、「上り/下りが別帯域で、相関がない」(中川氏)ため、一連のフィードバック手続きに手間がかかる。一方、TDDでは上り/下りが同じ帯域であるため、より簡単にパワーコントロールができるのだという。
「パワーコントロールでは、TDDの方がFDDより、2~3デシベルほど精度がよくなる」(同)。
ほかのCDMAでも高速化計画が進むが……
TD-CDMAのメリットの1つは、比較的高速なデータ通信にある。前述のとおり、下りスロットの割合を増やせば、下り速度はメガビットオーダーになると見られている。
だが、1つ気になる点がある。それは、携帯キャリアが採用するFDD方式のCDMAでも、高速データ通信が可能になりつつあるということだ。たとえば、NTTドコモはDS-CDMAの次の通信方式としてHSDPAの開発を進めているが、これなどは下り最大14.4Mbpsを実現できるという。
次回は、こうした技術とTD-CDMAを比較しながら、両者の関係について中川氏に聞いてみたい。
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