課題も残るがデキは上々――HDR対応4Kテレビ、東芝「58Z20X」とシャープ「LC-70XG35」を徹底比較:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(3/3 ページ)
この秋に発売される4Kテレビの中でも注目の2機種を比較視聴。HDR対応を含むUHD BDサポートに加え、広色域化など隙のない機能強化を果たしたが、一方で最新4Kテレビの課題も浮き彫りになった。
今年のイチオシ、シャープ「LC-70XG35」
シャープの70V型機「LC-70XG35」は、先に発売された80V型モデル同様、「4K NEXT」というキャッチ・フレーズが付けられている。採用された液晶パネルは70型4K/4原色タイプのVAパネルだ。RGBの3原色にイエローのサブピクセルを加えた4原色パネルの特質を生かした水平倍密駆動と、視野角を広げるために上下にサブピクセルを並べたMPD(マルチ・ピクセル・ドライブ)配列を利用し、 120分の1秒ごとに垂直分割駆動することで4つの輝度ピークを生成、超解像技術を最適化することで8K解像度表示を実現している。文章にすると少し分かりにくいかもしれないが、これは実に興味深い画期的なアイデア。この手法の詳細を聞き、ほんとうに頭の柔らかいスマートなエンジニアがシャープ社内にはいるのだナ、と感心させられた次第だ。
4Kコンテンツの本格化もやっとこれからという状況だが、それでも70V型クラスの大画面には8K表示が必要というのがシャープの考え方だ。映画などの優れた映像作品を観賞する際、視野角によって臨場感が決定されるというテーゼに従えば、2〜3H(画面の高さの2〜3倍)の近接視聴が必要。そうなると70〜80型クラスの大画面では、4K表示でも画素密度が足りないというわけである。
しかし現状のメインソースは、いうまでもなくハイビジョン(2K)。8Kはハイビジョンに対して16倍の解像度となるわけで、そのアップコンバート性能がきわめて重要となる。その信号処理を受け持つのが「X8 Master Engine PRO」。斜め線を滑らかに表現できるように超解像技術を磨いたという。確かに通常のハイビジョン放送や映画BDを観ても、本機の高精細ぶり、映像のタッチの繊細さは見事なもので、70型以上の大画面テレビを近接視聴するには、シャープのいう通り、8K表示が必要なのかもしれないという思いを抱いた。
本機は冒頭で述べた通り、直下型バックライトを採用したローカルディミング採用機である。画面を細かく分けてエリアごとにきめ細かく輝度を制御することで、黒の黒らしさと階調表現の両立を目指しているわけだ。黒輝度(漆黒の表現)はわずかに「Z20X」に及ばない印象だが、暗部階調の表現は精妙で、映画の夜のシーンなどでも安心して観賞することができた。
また、本機はローカルディミングによって抑えた電流を白ピークの突き上げに利用しており、輝度表現にも十分な余裕がある。その特質を生かして、UHD BDのHDRコンテンツ用PQカーブを用意するというのもこれまた先述の通りだ(ソフトウェアアップデートで対応)。
本機はまた色再現にも独自の魅力を持つ。イエローのサブピクセルを加えた4 原色パネルであることに加え、青色LEDに赤と緑の蛍光体を組み合せて発光させる広色域バックライトを採用し、同社独自の高演色リッチカラーテクノロジーを掛け合わせることで、デジタルシネマ規格「DCI」をフルカバーする色再現能力を秘めているという。
もっとも気になる点がないではない。これは東芝「Z20X」も同様なのだが、視野角が狭すぎることだ。近接視聴で家族3人が横並びでこの2モデルに向き合ったとき、両端の2人は黒が浮いたような、色があせたような画質での観賞を強いられることになるのである。この両モデルの画質のよさを存分に味わうには画面正面に座るしかなく、これはリビングルームの大画面テレビとして決定的な瑕疵(かし)になりかねない。大画面化、高解像度化、ハイコントラスト化を着実にこなしてきた液晶テレビだが、この狭視野角は最後に残った大問題といわざるを得ず、いち早くその改善を願いたい。それが実現できなければ、液晶テレビは画質改善著しいLGの有機ELテレビなど自発光ディスプレイに高級ゾーンで太刀打ちできなくなるのではないかとすら思う。
さて、筆者が「LC-70XG35」をチェックして画質同様驚かされたのが、音のよさである。シャープにとって本機は8年ぶりのサイドスピーカー搭載機。ディスプレイの両サイドに60×60ミリのアルミ製四角柱エンクロージャーが美しく配置されているのだが、そのまとめ方が実に巧く、そのスピーカーが奏でる広がり豊かなステレオサウンドに思わず聞き入ってしまったのだった。
エンクロージャー中央に配置されたシルクドーム・ツィーターの上下に2基のミッドレンジユニットが対向配置され、ディスプレイ背面に向かい合わせにした2基のウーファーを配置するという3Way仕様のシステムで、この広がり豊かなサウンドは、対向配置されたミッドレンジユニットから放射される音波をツィーター上下のデフューザーで拡散させるという巧みな設計あってのことだろう。また画面両サイドのこのスピーカー18度内振りに固定されているが、これは3H(画面高さの3倍の距離)の場所に座ったときにツィーターの音軸が視聴者の耳の位置で交差する角度だそうだ。
このサイドスピーカーの設計はほんとうに見事だ。小口径ユニットを2基用いることで振動板面積を稼ぎながらエンクロージャーの横幅を狭くしてスマートなデザインを実現させ、デフューザーに音波をぶつけて指向性を広げる……。音質担当にも実にスマートな設計者がいるのだナ、とおおいに感心させられた。リストラの嵐吹き荒れるシャープだが、(老婆心ながら)こういう豊かな発想力を持つ精鋭エンジニアを、会社としてぜひ大事にしてほしい。
実際に3Hの場所でライブBD「トニー・ベネット&レディ・ガガ/チーク・トゥ・チーク・ライヴ!」を観てみたが、ステージで歌う二人の口許から声が発せられている強固なイメージが得られ、なおかつホールの響きがディスプレイ全体を包み込む見事なサウンドを聴くことができた。声の質もきわめてよい。この秋の高級大画面テレビの一押しは間違いなく本機だと思う。
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