ダイソンがこだわる「デジタルモーター」とは何か(2/2 ページ)
ヘアドライヤーや新コードレス「V8シリーズ」と相次いで新製品を投入したダイソン。いずれも新世代のモーターを搭載しているのが特徴だが、そもそもダイソンのいう「デジタルモーター」とは何なのか。
500円玉サイズでF1エンジンの5倍の速さ――「V9」
もう1つの新世代モーターが、「Dyson Supersonicヘアードライヤー」に搭載された「DDM V9」だ。こちらはDDM V6やV8に比べてかなり小さく、13枚のブレードを持つ羽根(インペラー)は500円玉サイズ。モーター自体も手のひらにすっぽり収まる大きさで、重量はわずか49gとなっている。
小型であってもDDM V8と同等の最大11万rpmを実現したDDM V9。この11万回転という数字は、「F1エンジンの5倍、ジェットエンジンの10倍の早さ。一番小さく軽い、効率化したモーターだ」と担当者は胸を張る。
一方で、高速回転するモーターには、それに見合うだけの高い精度が求められる。例えば、ほんのわずかでもインペラーの重量バランスが崩れていたりすると、回転時の遠心力によって増幅され、大きなトラブルにつながりかねない。このためダイソンでは、最小製作時公差を人間の髪の毛の4分の1程度という±3μm以内に収めるようにしている。もちろん人の手で製造できるものではない。
高度に自動化されたモーター工場
ダイソンのモーター製造拠点は、シンガポールにある「West Park工場」だ。2015年に1億ドルを投じて効率化を図ったという最先端のモーター工場で、世界初というインペラー製造用マシンルームに加え、376台の産業用ロボットが常時稼働しているなど高度に自動化されている。オペレーターの数は最小限で、10の製造ラインには1ラインあたり2〜3名しか人がいない。
V9モーターの製造は、航空機にも使われる軽く固いアルミ素材(2000シリーズ)を切断することから始まる。長い棒状のアルミ材を1cm程度にカットしたあと、専用の計測器を使って回転させながら各方向から厚みをチェック。この時点から誤差は3μm以下に設定されており、基準に満たないものは除外される。
合格したアルミ材は、洗浄後にマシニングセンタで切削加工。激しくクーラントを吹きつけて冷却しながら羽根の部分を削り出していく。1つあたりにかかる時間は約60秒。ここでは1日に4000個のインペラーを製造できる。
モーターのアセンブリ(組み立て)ラインでは、ラインを1往復する間にマグネットやインペラー、ローター、フレームといった部材が組み付けられていく。ローターなど回転するパーツはバランスチェックも重要な工程だ。各エリアに検品用のセンサーとカメラが設けられ、規格外品は即座に取り除かれる。フレームとローターを組み合わせたら、最後にPLC(programmable logic controller)回路基板をハンダ付けしてV9モーターの完成となる。
一方のV8モーターラインも同じように製造と検品が交互に行われている。バランスが大事なローターは毎分2000回転で回しながらのバランスをチェック。ウエイトオフセットは100mg以下に抑えられているという。
West Park工場は24時間稼働し、年間で最大1100万個のモーターを製造する能力を持つ。また、240個ものモーターを3カ月以上も“回しっぱなし”にしている部屋など各種耐久テストも行っており、製造と同時に開発拠点としても機能している。「インハウスでモーターを開発するメリットは大きく2つあります。1つはIP(知的財産)を守ること、もう1つは仮に何かあっても即座に対応できること」(同社)。なお、ダイソンが18年にわたるモーター研究を通じて取得あるいは出願中の特許は264件に上る。
新製品のヘアドライヤーを見れば分かるように、ダイソンの製品開発は掃除機や扇風機といった既存の製品ジャンルに縛られてはいない。同社の持つ「空気を動かす」技術が問題解決に役立つ分野であれば積極的に打って出る考えで、今後4年間で100の新製品を投入するという。より多くの空気を動かすことができる高効率のモーターは、同社の製品開発を支える重要な要素、あるいはインフラのような存在になっている(※取材協力:ダイソン)。
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