スマート焙煎機の機能と未来
The Roastのハードウェア部分となる家庭用焙煎機「AE-NR01」は、パナソニックが英国のベンチャー企業IKAWAと技術提携して開発したものだ。もちろん自社開発も検討したが、今回は素早く事業を立ち上げることを優先したという。パナソニックアプライアンス社の井伊達哉氏に立ち上げの経緯を聞いた。
「The Roastは、生産者や職人の技をお届けしたいという考えから生まれた企画です。2000年頃から“コーヒーの第3の波”などが盛り上がってきましたが、その頃、社内のスタートアップ技術などに常に注目する部署が、イギリスに面白い焙煎機があることを見つけていたこともあり、“自家焙煎”に挑戦してみようとプロジェクトを立ち上げました」
技術提携を進める上で、最初に課題となったのが電圧の違いだった。ベースとなったIKAWAの焙煎機は230Vで動作するが、日本は100Vと半分以下だ。当然火力も半分以下になってしまうので、それではしっかりとした焙煎ができない。「温度や熱風のコントロール、正確さでIKAWAの焙煎機は優れていましたが、電圧の違いで火力不足になってしまうことは否めません。後藤さんからも、『6分でイタリアンローストができる火力に改良してほしい』と求められていたので、基板の配置から熱風が通る風路まで、ほとんどを日本向けに設計し直しましたね」
火力を高めることには成功したが、社内に焙煎のノウハウがないという課題は残っていた。そこで開発陣も自らコーヒーを学び、中にはコーヒーマイスターの資格を取る者まで現れたという。
一方、操作面を担当するスマホアプリの開発も同時に進めた。開発担当者は当初、プロファイルをダウンロードして焙煎機に送るだけでいいと考えていたが、開発を進めるうちに考えが変わったという。「『The Roast』が提案する世界観を考えると、単に操作できるだけではなく、よりコーヒーを楽しんでもらえるアプリにしたいと考えるようになりました」。最終的にコーヒー豆の産地情報や豆の豆知識など、読み物を盛り込んだコンテンツに仕上げた。
最後に1つ気になっていたことを聞いてみよう。それは、本気のコーヒー好きだったらもっと自分で細かく焙煎の設定がしたいはず。より自由度とカスタマイズ性の高いアプリを提供する予定はないのだろうか。
「実は、もともとIKAWAの焙煎機はプロユースのアイテムで、とても細かい設定が可能です。しかし、われわれが1000回以上も焙煎した結果、最初から自由に焙煎設定が行える状態で提供しないほうが良いと実感したのです。それほど焙煎という作業は難しい。ただし、IoT機器ですから自由度の高い設定機能を後で追加するなど、進化させることができます。まずは、コーヒーを焙煎しておいしく飲むという体験を多くの人にしてもらい、その後で、ユーザーの声を聞きながら機能追加なども検討していきたいと思います。The Roastは、まだ始まったばかりですから」
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