ハイブリッド、環境ディーゼル、直噴+過給器――自動車メーカーの模索は続く 神尾寿の時事日想

» 2007年04月06日 00時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 3月22日、フォルクスワーゲン グループ ジャパンがコンパクトミニバン「ゴルフ トゥーラン」のモデルチェンジを発表した(3月22日の記事参照)。今回のモデルチェンジの目玉はエンジンの載せ替えで、今年1月に発表した「ゴルフGT TSI」に続いて新開発エンジン「TSI」を搭載した。

コンパクトミニバン「ゴルフ トゥーラン」(写真はハイライン)

 TSIはスーパーチャージャーとターボチャージャーという異なる性質を持つ2つの過給器をガソリン直噴エンジンに組み合わせた、フォルクスワーゲン独自のツインチャージャーエンジンだ。エンジンの回転数が低い時に有利なスーパーチャージャーと、高い時に有利なターボチャージャーをコンピューター制御でシームレスに切り替えることにより、全回転域で違和感のない出力とトルクの向上を図っている。

 さらに注目なのは2つの過給器を搭載した狙いだ。これまでの過給器は単純に高出力を狙うスポーツ指向の車に搭載されることが多かったが、フォルクスワーゲンはTSIの狙いを「環境性能」に定めた。ツインチャージャーで出力とトルクを向上させながら、エンジンの排気量をこれまで主力だった1.8〜2リットルから1.4リットルに縮小。結果として、“高出力と低燃費”を同時に実現したのだ。エンジン排気量の拡大が進む中で、この「ダウンサイジング」は異例の取り組みといえる。

 フォルクスワーゲンでは以前から、グループ企業のアウディとともに直噴エンジン「FSI」の開発・普及に力を入れてきたが、今後は「TSI」を主力に位置づける。走る楽しさを失わない高出力・高トルクと、今や最重要課題になった低燃費の両方を実現することで、国際的な競争力を高める。

ハイブリッド、環境ディーゼル、直噴+過給器の競争

 高出力と低燃費の両立に取り組むのは、フォルスワーゲンだけではない。この課題の解決は今や、自動車メーカーにとって死活問題になっているからだ。

 ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたトヨタのハイブリッドシステム「THS」は、1997年に実用化された。初代プリウスへ搭載後、システムの進化と対応車種の拡大を着実に進め、今やトヨタの高級ブランド「レクサス」にも搭載される同社の看板商品に育った。特に「ディーゼル嫌い」な日本市場と北米市場の販売は好調で、トヨタでは2007年に約44万台の販売を計画している。カローラでさえ、北米の出荷台数は約36万台であることを考えると、かなり強気な数字と言える(2005年の出荷台数、参照先はPDF)

 現在、THSの主力搭載車種は中型セダンだが、すでにSUVやミニバンなど大型車にもTHSを展開済み。今年春に日本市場から投入される最上位車種レクサス「LS600hL」では、5リットルV8エンジンをハイブリッド化し、6リットルV12エンジン級の動力性能を実現しながらV6エンジン並みの低燃費になる模様だ。"大きく、そしてパワフルに"が正義だった高級セダンの世界にまで「高出力と低燃費」というコンセプトが進出するのは、象徴的な意味を持つだろう。

 トヨタ以外のハイブリッドシステムは、ホンダがすでに独自開発で市場投入を行っており、日産も2010年までに独自開発ハイブリッド車を市場投入する目標を掲げるなど、日本勢のリードが目立つ分野だ。ハイブリッドは「ストップ&ゴー」と呼ばれる停止と発進が繰り返される運転環境で特に低燃費効果があり、都市が多く、渋滞に悩まされる街が点在する北米やアジアの市場で優位性がある。

 一方、ドイツをはじめとする欧州メーカーは、コモンレール式(蓄圧式)ディーゼルエンジンの普及でリードしている。同エンジンは「環境ディーゼル」とも呼ばれ、コンピュータ制御できめ細かく燃料噴射・燃焼制御をすることで排出ガスのクリーン化を実現。ディーゼルエンジンの強みである高トルクと低燃費、Co2排出量の少なさといったメリットを引き出したものだ。コモンレール式エンジンは平均車速が速い環境での低燃費・Co2排出量削減効果でハイブリッド方式より有利なことから、欧州市場で人気が高い。ガソリンエンジンのハイブリッドシステムで先行するトヨタやホンダも、海外市場向けとしてコモンレール式ディーゼルを開発、次世代環境技術の選択肢の1つにしている。

 欧州メーカーは環境ディーゼル分野でリードしているが、世界最大の自動車市場である北米ではガソリンエンジンやハイブリッド方式の方が好まれていることがビジネス上の課題になっている。フォルスワーゲンがこのタイミングで、TSIのようなガソリンエンジンの直噴化と過給器との組み合わせを主力技術に位置づけた背景もそこにある。また、今年3月にはBMWグループとダイムラークライスラーが高級車に欠かせない後輪駆動(FR)向けハイブリッドシステムの共同開発を発表するなど、ハイブリッド方式の開発・市場投入も急いでいる。

今そこにある環境技術がビジネスのテーマに

 自動車業界が手がける動力源の環境技術は多々あり、長期的な視野で重要視されているものに「FCV(燃料電池車)」や「EV(電気自動車)」「バイオ燃料」などがある。しかし、これらはクルマ本体の技術開発だけでなく、エネルギーの製造課程や供給インフラ整備まで抜本的に見直さなければならないため、実用化には時間がかかる。自動車ビジネスおよび関連技術分野・ビジネスへの波及効果が、現在の研究開発レベル以上に拡大してくるのは2012〜2015年以降になりそうだ。

 一方で、世界的な地球温暖化に対する意識の高まり、消費者・市場における環境商品ブームは今後も続き、自動車メーカーの国際競争力を左右するテーマになる。その点で、“当面の環境エンジン”であるハイブリッド、環境ディーゼル、直噴+過給器の市場競争は注目である。また、自動車メーカーは歴史的に基幹部品であるエンジンの内製化を重視するが、これら環境エンジンは電子制御が今後さらに進み、センサー情報や外部情報の必要量も増えることが予想される。関連分野の拡大からも目が離せないだろう。

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