現在、日本で一番「Edy」が使われているのはどこか、ご存じだろうか。
答えは沖縄である。日本列島の南、人口約137万人、50万世帯余りが暮らすこの諸島では、月間平均約45万件のEdy決済が行われており、Edy利用率No.1の県といいる。Edy加盟店は約2000店舗。沖縄の地元店舗のほか、沖縄だけでEdy決済を取り扱うナショナルチェーンも多い(吉野家など、(2006年10月の記事参照))。
Edyが広く一般の人々に浸透しているのも沖縄の特色である。Edy加盟店を訪れると老若男女を問わず、多くの人がEdyで買い物をしている。電子マネーを使うことが、“日常的な光景”になりつつあるのだ。
また沖縄ではEdyが先行的に普及したことにより、同じくFeliCaを使った決済方式である「QUICPay」など、FeliCaクレジットも広がり始めている。
今、沖縄ではEdyがどれだけ広がっているのか。さらにEdyなどFeliCa決済が普及したことで、どのようなメリットと課題が生じているか? 電子マネー先進地域・沖縄の状況をレポートしていく。
沖縄におけるEdy普及を見る上で、重要なポイントになっているのが「誰が普及を牽引したか」である。例えば首都圏におけるSuicaでは、利用の牽引役は通勤・通学のビジネスパーソンであり、特におサイフケータイ向けのモバイルSuicaではリテラシーの高い男性層が牽引の主体になっている。また、iDやQUICPayなどのFeliCaクレジットも、「利用者の多くが男性ユーザー」(クレジットカード会社幹部)なのが現状だ。
沖縄の場合、Edyの普及を牽引したのは地元の女性たちだという。「(沖縄で)Edyを始めた時は、本土からの観光客の利用が当初は中心であろうと考えていました。しかし、我々の予想よりも早く地域住民のニーズが立ち上がりました」(ビットワレット営業統括部沖縄営業所長の小暮雅夫氏)
なぜ、“地元のニーズ”が早々に立ち上がったのか。その鍵を握るのが、Edyと連携する全日本空輸(ANA)のマイレージプログラム「ANAマイレージクラブ」、通称AMCだ(2005年12月の記事参照)。全日空では早期からEdy機能付きのANAマイレージクラブのカードやおサイフケータイ向けアプリを発行し、マイレージプログラムとEdyを連携させてきた。AMCとEdyを組み合わせると、Edy支払い200円ごとに1マイルが「Edyマイル」として付与されるほか、貯めたマイルをEdyとしてチャージすることもできる。
このEdyとANAマイルの連携で、沖縄の人たちの心を掴んだのは「マイルが貯まる」部分だ。
「沖縄は他県に移動するのに必ず飛行機を使わなければなりません。だから(航空機会社の)マイルの価値が他の地域よりも高い。そこで『Edyで買い物をすればマイルが貯まる』というメリットが、沖縄県民にとって理解しやすかったのです。特に女性層には支持していただいています」(小暮氏)
沖縄はタクシーが多い。沖縄には鉄道がなく、軌道路線は那覇空港から首里までを結ぶ「ゆいレール」のみ。県民のアシはクルマであり、公共交通はバスかタクシーということになる。県内を走るタクシーの数は多く、初乗りは400円〜460円。学生が数人で相乗りする光景も見られるなど、日常的な公共交通手段になっている。
沖縄のタクシー会社大手で、Edyを導入するのが沖東交通グループだ。同社は2006年8月、小型タクシー355台すべてにEdy決済を導入。車体にEdyの表示灯も付けるなど利用促進にも積極的だ(2006年7月の記事参照)。
「沖縄はタクシーの数が多く、供給過剰。(タクシー会社にとって)競争環境が激しいんですよ。その中でEdyの広がりをみて、タクシーでも顧客の囲い込みになるのではないか、という考えから導入しました」(沖東交通グループ常務理事の東江一成氏)
沖東交通でEdyを導入してから半年以上が経つが、利用件数は毎月伸びているという。昨年12月段階での集計では1ヶ月のEdy利用件数は約1万件。滑り出しとしては好調というのが、沖東交通の評価だ。2007年度中にはこれを1ヶ月平均3万件の利用件数に伸ばしたいという。
「沖縄では『陸マイラー』が多いので、Edyマイルによる囲い込みや集客効果に期待しています。これはEdyだけが要因とは言い切れないのですが、無線呼び出しの件数が右肩上がりで伸びてきています。
また、Edyを使ったキャンペーンへの期待もあります。この分野では全日空が協力的でダブルマイルキャンペーンをやっています。また、(Edyを導入した)コンビニとの連携も考えています」(東江氏)
東京都内でもEdy対応のタクシーを多くみかけるようになったが、沖東交通の特徴は、「提灯」と呼ばれるタクシーの表示灯の隣りに、Edyの表示灯も付けていることだ。夜間はもちろん光る。沖東交通は会社のポリシーとして空港や飲食店前などでの“客待ち”をせず、街中を流していることが多いのだが、このEdy表示灯があることで走行中のタクシーでもEdy対応であることが一目で分かる。
また、Edy導入時に乗務員のトレーニングを徹底し、利用件数も多いことから、運転手もEdy決済の対応に慣れている。筆者は沖縄滞在中に10回以上沖東交通のタクシーを利用したが、乗務員が慣れていることもあってEdyの利用がスムーズだった。リーダー/ライターをセンターコンソール上に据え付けている車両が大半であることも、すばやい利用に貢献している。なお、導入しているEdyリーダー/ライターは二葉計器製だ(4月16日の記事参照)。
沖縄県は歴史ある地場企業が多く、今でも地元経済への影響力が高い。その中でも大手の1つに数えられるのが、リウボウインダストリーだ。同社は1948年に琉球貿易商事として創業以来、沖縄の流通大手として成長。現在は那覇市中心部の百貨店を軸に、スーパーマーケットのリウボウストア、沖縄ファミリーマートなどを展開する。
現在、リウボウインダストリーのグループとしては、リウボウ百貨店、リウボウストア、そして沖縄ファミリーマートがEdyに対応している。しかし、導入に至る経緯は、リウボウ百貨店およびリウボウストアと、沖縄ファミリーマートで別だったという。
「ほぼ同時期に、沖縄ファミリーマートにビットワレットから、リウボウ百貨店・ストアには全日空からEdy導入の提案がありました。そこで沖縄ファミリーマートと意見交換しまして、我々リウボウは沖縄の百貨店・スーパー・コンビニすべてを持っているわけですから、同時にEdy導入すればグループメリットが活かせるのではないか。そのような考えもあり、(リウボウグループ全体での)導入を決定しました」(リウボウインダストリー 営業部販売計画課長の親川純氏)
リウボウグループが期待したEdy導入のメリットは大きく2つある。
1つは顧客単価の向上だ。ここはスーパーマーケットであるリウボウストアと、コンビニエンスストアである沖縄ファミリーマートで重視したポイントだった。これはEdyを始めとするFeliCa決済導入共通のメリットであるが、リウボウグループでも導入後すぐに「顧客単価向上の効果は現れた」(親川氏)という。
もう1つの導入メリットは「Edyが使える」ことによる顧客の囲い込みとイメージの向上だ。こちらはスーパーと百貨店でのニーズが高かった。「沖縄では(ANAの)マイルを貯めたい、という人が多くいます。その中でEdyが使えることは大きな導入効果がある。グループ全体でEdyを導入することはイメージ戦略的な意味もありました」(親川氏)。
さらに百貨店ならではのユニークな現象も表れた。高額商品でのEdy決済のニーズである。
「高額商品をEdyで購入していただけば、それだけ多くのマイルが貯まります。リウボウ百貨店では衣料品はもちろん、ユニークなところではお中元やお歳暮でEdy取扱高が増える傾向が見られました」(親川氏)
Edyは少額決済で使われるイメージが強いが、マイル獲得の認知と需要が高ければ、高額商品でこそ使いたいというニーズが生まれる。この分野でも顧客獲得と囲い込みの効果は十分にある。
現在、リウボウ百貨店とリウボウストアでEdy利用率が高いのは、食品、婦人雑貨、書籍であり、Edy利用件数はグループ全体で月間約2万7千件('06年12月時点)だという。支払いにおけるEdy利用率は、グループ全体で4%弱、しかしスーパーとコンビニエンスストアでは5%強になる。「年々、Edyの利用率は上がってきている」(親川氏)段階だ。
「Edyをご利用いただいているお客様は7〜8割が女性ですね。しかも地元のお客様が多い。(女性のお客様の)口コミでEdyの利用が促進されている印象があります」(親川氏)
リウボウのEdy導入状況を見てみると、スーパーマーケットであるリウボウストアではほぼ全レジにリーダー/ライターが設置されているが、高額商品を扱うリウボウ百貨店では各フロアの主要レジへの設置になっている。これはEdyの決済件数に応じた措置であるが、「百貨店でもEdy対応レジを増やしてほしいというお客様の声は多い」(親川氏)という。
さらに利用者のニーズが高いのが、Edyチャージ機だ。これは全国的に言えるが、Edyの利用者はおサイフケータイよりもカード型が多い。特に沖縄ではANAマイレージカード内蔵のEdy機能を使う人が多く、買い物をする前に現金チャージをしたいというニーズが高いのだという。今回取材したリウボウ百貨店では、建物の入り口にEdyチャージ機があるほか、食品を扱うリウボウストアにもEdyチャージ機を設置していた。
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