究極のエコカー「EV」の可能性 神尾寿の時事日想

» 2007年05月11日 09時31分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 5月8日、ジーエス・ユアサコーポレーション、三菱商事、三菱自動車の3社が、電気自動車(EV)に使用可能な大容量かつ高性能なリチウムイオン電池を製造する合弁会社設立に向けて具体的な協議を開始したと発表した。三菱自動車によると、「今後、半年以内をめどに細部を詰め、新会社の設立を目指していく」という(プレスリリース)

 出資比率はGSユアサが51%、三菱商事34%、三菱自動車15%となる模様。新会社設立が実現すれば、第1段階として30億円規模の設備投資が行われ、2009年までにGSユアサ京都本社工場内に年産20万個の大容量リチウム電池自動量産ラインが設置される見込みだ。

大型リチウムイオン電池 LEV50(セル)
LEV50のモジュール

 三菱自動車は電気自動車(以下、EV)の市販化に特に熱心な自動車メーカーだ。同社は2006年10月、次世代電気自動車「MiEV(ミーブ、Mitsubishi innovative Electric Vehicle)」を発表、東京電力および中国電力、九州電力など電力会社と共同で、今まさに市販化に向けた検証を行っている。2007年秋にはMiEVの検証実験に、関西電力及び北陸電力も加わる予定である(プレスリリース)

 三菱自動車はMiEVの開発ベース車両になった軽自動車「i(アイ)」において、当初からEV用の電池設置を念頭に置き、エンジンや燃料タンクを車体中央に配置するミッドシップレイアウトを採用したという。小型車向けの環境技術として、同社がEVに賭ける想いは“本気”だ。実際、同社は2010年までにMiEVを市販化すると表明している。

i MiEVの車両レイアウト図

ハイブリッド需要が、EVの追い風

 クルマの環境技術は今、トヨタが普及を進めるハイブリッドシステムを筆頭に、環境ディーゼル、直噴+過給器、FCV(燃料電池)、水素エンジン、バイオ燃料エンジンなど、市販化・普及に向けて様々な技術が進んでいる(4月6日の記事参照)。EVもその1つであり、排出ガスゼロという点では極めてクリーンなものだが、電池の大きさ・重さ、製造コスト、航続距離の短さなどが課題とされてきた。

 しかし、ここにきてEV市販化に追い風が吹き始めた。その最大の要因が、北米市場を中心に広がる“ハイブリッドカー人気”である。

 ハイブリッドカーは燃費向上を果たすために、モーターによる動力アシストを行う。このモーターを動かすには、電池やインバーターが必要だ。乱暴な言い方をすれば、ハイブリッドカーは従来からのクルマに“小さなEV”を組み込んだものであり、燃費を良くしていくために、EVの要素技術を高めていくことになる。市場ニーズによってハイブリッドカーが普及することで、EV向け技術も進化し、電池をはじめとする部材コストは量産効果で値下がりするのだ。

 実際、今回のGSユアサが製造する新型リチウムイオン電池は、トヨタ自動車などメーカー各社が開発に注力する「プラグイン-ハイブリッド車(P-HEV)の要求にも応えられる潜在能力がある」(三菱自動車)としている。

 EVは航続距離の短さが最大のネックであり、実用化が技術的に可能でも、売れるクルマに仕立てる“商品化”が難しいとされてきた。EVの本領が発揮されるのは、近距離の日常利用だが、こういった使い方がされる軽自動車や小型車市場のユーザーは価格にシビアだ。プリウスやレクサスのオーナー層のように、環境に「プレミアム価格」を支払ってくれる人は少数派だろう。

 しかし、それでもハイブリッドカー需要の波及効果が大きくなれば、EVが新分野として根付く可能性はゼロではない。低騒音・無公害の新たなクルマとして、都市部のモビリティとして受け入れられる可能性もある。今後の動向に注目しておいて損はないだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.