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» 2007年05月24日 09時58分 公開

ブルドックソース、4つの選択肢――ホワイトナイトの可能性は低い? 保田隆明の時事日想

スティール・パートナーズが、ブルドックソースへのTOBを開始。絶妙なタイミングで日経ビジネスに登場し、友好的投資者だとインタビュー記事でアピールしている。ブルドックソースが取りうる選択肢は大きく4つだ。果たしてどの手を取るのが賢いのか……?

[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv。ブログ:http://wkwk.tv/chou


 米系投資ファンドのスティール・パートナーズは5月16日、大手ソースメーカーのブルドックソースに対してTOB(株式公開買付)を行うことを発表した。TOB価格は発表直前1カ月間のブルドックソースの平均株価に対して18.0%のプレミアムを乗せた水準だ。スティールが明星食品に対して行ったTOBでは直前1カ月の平均株価に対して14.6%のプレミアムだったので、それに比べると高い。

TOBの概要

明星食品の時よりは高いTOBプレミアム

 通常、TOBの時に付されるプレミアムは20%〜30%程度とされており、18%のプレミアムであればさほど遜色はない。明星食品の時は、わざとプレミアムを低く設定し、ホワイトナイト※が登場しやすいようにしたのではないかと言われていた。実際、日清食品がホワイトナイトとして登場し、スティールはめでたく持分を売却できたが、それでは単なるグリーンメーラー※※ではないかという議論が巻き起こった。今回のブルドックソースに対するTOBプレミアムからは、そのような批判をかわす狙いも透けて見える。

※ホワイトナイト……敵対的買収を受けた際、買収対象となっている企業の株を友好的に買い取る第3者または第3者企業。
※※グリーンメーラー……株式を買い占めた後に、標的とした企業にその株を高く買い取らせることを狙う買収者のこと。

 同様に、現在スティールがサッポロビールに提出中の買収提案の中では、直前1カ月の平均株価に対して17.9%のプレミアムを付してTOBを行いたいとしている。

冷静なブルドックソース経営陣

 スティールのTOB開始に対して、ブルドックソースの対応は落ち着いて見える。今まで投資ファンドや他社に株式を大量保有されたり、TOBを仕掛けられた企業の経営陣はすぐに反射的に「反対表明」を掲げていた。上記明星食品やサッポロのみならず、阪神電鉄、北越製紙、TBSなど、いずれも共通している。しかし今回のブルドックソースの場合はまず、「相当の懸念を有して」いるとは表明したが、スティールの意図を確認してからTOBへの態度を明らかにするとしている。そして5月21日には財務アドバイザーに野村證券を起用することを発表した。

 スティールがブルドックソースの株式の取得を開始したのは5年前の2002年。しかし、ブルドックソースは敵対的買収防衛策を導入していない。スティールという、一般的には好まれざる株主を抱えておきながら、買収防衛策を導入してこなかったのは、防衛策が結局は機能しないことを分かってのことか、あるいは、株主価値最大化のためであればあらゆる買収提案は検討してしかるべきという考えを同社が持っているからではないかと想像する。

 スティールがブルドックソースの株式を取得するまで、同社の株価はほぼ横ばい状態が続いていた。それが、この5年間で株価は右肩上がりで2倍以上になっている。スティールが継続的に株式を保有し、経営陣がスティールとつかず離れずの関係を保つことが一種の株主価値最大化策になっていたわけだ。

ブルドックソースが取りうる選択肢は4つ

 ブルドックソース経営陣の選択肢は、大きく分けて4つある。1つは、自分たちに引き続き経営を任せてくれればTOB価格を上回るぐらいの株価まで株式価値を高めることができるので、TOBには応じないでほしいと株主にアピールし独立維持を狙う。2つ目は明星食品のようにホワイトナイトを連れてくる。3つ目はTOB価格を上回る株価で経営陣がMBOを行う。そして4つ目の選択肢は、スティールのTOB提案への賛同、受け入れである。

 以下、それぞれの選択肢について考えてみよう。

 1つ目の選択肢は、敵対的買収を仕掛けられたときに企業経営陣側が取る防衛策としては王道といえる。敵対的買収者と現経営陣のどちらが株主価値を高めることができるかを株主に対してアピールしあい、選んでもらうという構図だ。実際に、HOYAとの経営統合案件で一騒動中のペンタックスの新経営陣は、この作戦を取っている(4月12日の記事参照)。ペンタックス新経営陣は、独力で生き残るプランを発表し株主に問うたが株主からの結果は冷たいものだった。やむなく新経営陣はHOYAからのTOB受け入れに方向転換することとなる。

 ペンタックスの事例はある種“クーデター”がらみなので、一般化するには最適な事例ではないが、現経営陣が取りうる経営戦略は事前に株式市場はある程度折り込み済みであり、敵対的買収の提案を受けてから急場しのぎで作る独自生き残りプランを提示されても株主はなかなか納得できないと思われる。したがって、ブルドックソースの場合もこの1つ目の選択肢が機能する可能性はあまり高くないだろう。

ホワイトナイトは可能性が低い

 2つ目のホワイトナイトは可能性としては当然あるだろうが、明星食品の時ほどには簡単ではないと思われる。明星食品の場合はカップラーメン市場に明星食品よりも規模の大きい企業が存在し、競争も熾烈だったので明星食品が単独で生き残っていくのはそもそも厳しい状況だった。ゆえに、大手企業(日清食品)に買収されることも選択肢としてはアリ、と経営陣は判断したのではないか。

 一方、ブルドックソースは日本のソース市場で最大手である。業界の2番手以下の企業にホワイトナイトをお願いするぐらいならば、スティールの買収提案を受け入れて独立路線を保った方が、まだ従業員のモチベーション的には有効だろう。今までソース市場に参入したことのない大手食品系企業にホワイトナイトをお願いすることもできるが、その場合も大手食品会社の軍門に下ることと、スティールの買収提案の受け入れとどちらがいいか微妙なところであろう。業界最大手ゆえに、簡単にはホワイトナイト案へはなびかないと思われる。

本命は対抗MBO?

 3つ目の選択肢であるMBOは可能性が高い。業種、業界での市場シェア、安定した収益、外部からの資金調達があまり必要ないことなどMBOをしやすい企業であることは間違いない。MBOを行いじっくり中長期的な企業の方向性を見極めて、再上場か他社への転売か、あるいはじっくり借金を返済して非上場企業として存続させるか経営陣が自ら判断することが可能である。ただし、過去5年間で2倍になってしまった株価と、MBOをすると経営陣自らがスティールパートナーズへ株式売却の機会を提供することとなり、経営陣がスティールのことを快く思っていないならば、盗人に追い銭状態となってしまうことはMBOのネックになりうる。

 スティールにとっても、ブルドックソース経営陣によるMBOは悪くない話だ。一旦ここで株式を売却して売却益を確保し、MBO後のブルドックソースの株式の一部を保有できるように交渉すれば、再上場時、または将来の転売時にもスティールは利益を得ることができるので1粒で2度おいしい。

 4つ目のスティールの提案への賛同、受け入れという選択肢は、過去のこういう類の案件では存在しなかったが、今回ブルドックソースが感情的な反対表明を即座にしなかったこと、敵対的買収防衛策の導入もしていなかったことから、可能性としてはあると思われる。特に、スティールは所有と経営の分離をプレスリリースの中でうたっているので、それをそのまま解釈するのであれば可能性はゼロではないだろう。ただ、ファンドは最終的には持分を売却する存在なので、売却時にどこに売却されるか分からないという状況ではやはりスティール案の受諾は厳しい。スティールからの提案を受け入れる場合は、スティールが株主となった後、経営陣と株主の関係はどうなるのか、経営陣の意向をどの程度株主が受け入れるのかなどを事前に確認する必要がある。

 そのためには両社間での協議や質問状と回答のやり取りなどが必要となってくるが、TOB終了期日まで残された期間は約1カ月しかない。時間的に信頼関係を築けるほどのコミュニケーションが取れるか、微妙なところだろう。

スティールは経済誌インタビューで友好的演出

 狙ったようなタイミングで、日経ビジネスの最新号(5月21日号)にスティール・パートナーズ・ジャパン代表ウォーレン・リヒテンシュタイン氏のインタビュー記事が掲載されている。そこでリヒテンシュタイン氏は、自らを友好的な投資者だとアピールしている。

 グリーンメーラー的にホワイトナイト登場を期待してブルドックソースにTOBを仕掛けたのであれば、わざわざ経済誌経由で友好的な演出をする必要はない。ひたすら経営陣に嫌われるように仕向ければいいだけの話である。しかし、このタイミングでのインタビューであること、そして経営陣から好かれようというような内容であることは、スティールが単なるホワイトナイト誘発型のグリーンメーラーではない可能性を示唆している。

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