“付加価値競争”が激化――国内長距離旅客市場神尾寿の時事日想

» 2007年05月25日 00時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
次世代新幹線のN700系

 7月に東海道・山陽新幹線にデビューする新型車両「N700系」が公開された(5月23日の記事参照)。東海道・山陽路線で長年活躍した「700系のぞみ」の後継となるN700系は、従来の500系・700系「のぞみ」に比べて5分の短縮を実現するとともに、客室内の遮音性や快適性も向上している。

 また、PCや携帯電話の充電用として、約6割の席に電源を備えている。JR東海では約350億円を投資して、東海道新幹線区間の列車無線をデジタル方式に改め、2009年春には列車内からインターネットに接続する無線LANアクセスサービスも始める予定だ。N700系は、ビジネス客から旅行客まで、快適・便利に移動できる空間作りに配慮している。

プレミアム席で勝負する航空業界

 新幹線のライバルである航空業界では、国内線の“プレミアム席”で付加価値戦略を展開している。

 今年1月17日、日本航空(JAL)が国内線に最上位クラス「ファーストクラス」を設置すると発表した。現在提供中のプレミアム席「クラスJ」と併存する形で、2007年度に導入する。JALによると、クラスJの利用率は平均85%で、同社の収益に大きく貢献しているという。さらなる高級化や快適性のニーズを見込み、ファーストクラスを導入する考えだ。

 JALのファーストクラスは本革張の豪華なものになり、センターコンソール(席の前に設置してあるパネル)は木目調。機内で食事や飲み物の提供、優先カウンター、手荷物の優先返却、搭乗時の上着預かりサービスのほか、充実した“おもてなし”を検討しているという。

JALの国内線ファーストクラスの座席

 全日空(ANA)は、すでに提供中の国内線プレミアム席「スーパープレミアムシート」のPRに力を入れている。スーパープレミアムシートはゆったりとした席に、機内での食事や茶菓の提供、専用優先カウンターに優先搭乗、手荷物の優先返却、搭乗時の上着預かりサービスなどをすでに実施しており、サービス内容ではJALの現行「クラスJ」を上回っている。筆者も国内出張でスーパーシートプレミアムを使っているが、主要路線では予約分で満席になるケースを多く見かける。国内路線のプレミアム展開において、ANAが先行する感じる部分だ。

 一方、ビジネス利用客向けのPC利用やインターネット接続は、空港内でのサービス提供が中心だ。国内線航空機の場合、ノートPCが利用できる巡航時間があまり長くない。また航空機内インターネット接続サービスも、国際線向けとして登場したボーイング社の「Connexion by Boeing」(CBB)が事業化で失敗した(2006年6月の記事参照)。そのため飛行時間がさらに短い国内線向けでは、提供される可能性は少ない。むしろ、搭乗前や搭乗後の利便性を高くするため、空港ラウンジのビジネススペース拡充や電源提供、インターネット環境の整備などが進んでいる。

鉄道と航空の付加価値競争

 景気回復と東京の一極集中化、さらに団塊世代の旅行需要増加の流れなどを受けて、国内の長距離旅客市場は拡大傾向にある。その中で、鉄道業界と航空業界では利便性や快適性を向上させる“付加価値競争”に躍起だ。また、マイレージプログラムやハウスカードによる囲い込みも激しい。スピードや料金以外の“付加価値”をどのように作っていくか。今後、注目のポイントといえそうだ。

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