社内恋愛がなくなる時代!? キャスター・目黒陽子の「今、これが気になる」:

» 2007年06月04日 07時00分 公開
[目黒陽子,Business Media 誠]

著者プロフィール:目黒陽子

フリーアナウンサー(ライムライト所属)。大和証券SMBCを経て、資格ファイナンシャルプランナーを取得後、キャスターへ転向。NHK総合「お元気ですか日本列島」「BSニュース」などを担当し、政治・経済など、情報を伝えることの大切さと難しさを学ぶ。現在は日本テレビ系列で土曜朝8時から放送されている情報番組「ウェークアップ!ぷらす」(読売テレビ制作)にて司会を担当している。同じくアナウンサーの滝川クリステルは従姉妹にあたる。ブログ:http://www.fpcaster.com/


 ご存知でしたか? 6月は「男女雇用機会均等月間」。厚生労働省が、職場における男女平等を広く認識してもらおうと定めているのだそうです。

 実は2007年4月1日から、改正男女雇用機会均等法が施行されました。性別を理由にした退職・雇用の推奨や、出産・妊娠による解雇を禁止するなど、その内容はさまざま。女性にとっては援軍とも思える法律です。

 一方で、今まで女性に限ってきた性的差別を男女関係なく禁止する、いわゆる“逆セクハラ”も今回から対象になりました。男女平等の流れはゆっくりとはいえ、確実に進んでいるようですね。

 最近は友人の中にも、男性部下を抱える女性、女性上司を持つ男性が増えてきて、いろいろな話を聞くようになりました。かくいう私も30歳を過ぎ、周りを見渡せば自分より若い男性が職場に多くいることに気付く今日この頃。コミュニケーションが必要だと感じる一方で、不要・過剰なコミュニケーションは誤解されるし、困った世の中ともいえそうです。どれだけ親しい間柄であれ、男女とも職場ではやはり一線を引いた付き合いがふさわしいのでしょうか。

改定版男女雇用機会均等法では、何がセクハラになる?

 4月からは、今までセクハラとされなかった行為も、セクハラとみなされる可能性があります。それでは、こんな場合はどうでしょうか?

(1)カラオケで、女性上司Aが「新人のB君、一緒にデュエットするわよ♪」という。

(2)アフターファイブで、男性上司Cが「新人のD、お前も男だろ! 一緒に風俗に行くぞ」という。

 正解は、(1)も(2)も×です。(1)女性上司→男性部下、(2)男性上司→男性部下へのセクハラのいずれも禁止というわけです。

 えっ、これがセクハラ? と思う方も多いでしょう。一部男性からは「そんなことを言われたら、むしろ喜ぶのでは?」なんて意見も出ていました。

 改定版男女雇用機会均等法では、“男女”を対象にセクハラ禁止となりますから、同性同士でも禁止です。つまり、これからは「男性→女性」だけでなく、「女性→男性」「男性→男性」「女性→女性」のすべてのパターンのセクハラがあり得ることになります。

男性側の意識も変わってきている

 では従来、女性がセクハラに対して感じてきた嫌悪感と男性のそれとは全く同じなのでしょうか? 一般的に、性的なことは女性の方がよりダメージを受けやすいと想像しがちですが……。

 時代の流れなのか、最近、男性の性的な言動・行動に対する考え方に変化が出てきているような気がします。実際、若い男性のセクハラ相談件数は確実に増えています。しかもセクハラ“される側”としての悩み相談だというのです。まだ少ないとはいえ、女性上司に対して裸を見られたからと訴えを起こした若い男性のケースや、男性上司が若い男性の部下に対して下ネタを強要したなどのトラブルもあります。

 昔の銭湯ではガキ大将が素っ裸で走り回って大人に怒られていたものですが、最近はタオルを腰に巻いて友達とお風呂に入る子供が増えているそうです。トイレに座って上品に用を済ます男性が増えているという話にも何か通じるものがあるのでしょうか。今の若い男性は“以前の男性”とは感覚が違うのかもしれません。

 そこで、私の身の回りにいる30代男性に、実際にセクハラと感じた体験を話してもらいました。以下、なんとも涙涙のお話です……

女性上司を持つ男性がセクハラと感じる事例

  1. 「男のくせに声が小さい」「男のくせに気が小さい」と言われる
  2. 男だからという理由で、女性より残業を強いられる
  3. 女性より、休日勤務をさせられる
  4. 同じ失敗をしても、女性より厳しく怒られる
  5. 「女より多く残業して当たり前」と思われる、言われる
  6. 難しい客の接待によく呼ばれる
  7. 飲み会で多めに払わされる
  8. 飲み会では「飲んで当たり前」とされる
  9. 女性を褒めざるを得ない状況に置かれる
  10. オフィシャルな場で「かわいい」と言われる

 確かに、私も含め女性から見ても、かわいそうに、と思うことばかりです。しかし父親世代に聞いてみると、“男子たるもの”こんなこと全く気にはならないというのです。それどころか「これがセクハラか?」と憤っていました。

“男らしさ”の崩壊?

 従来の“男らしさ”“男子たるもの”とはどういうことなのでしょう。

 私の父などの時代は、世の中は圧倒的に男性中心社会でしたよね。男子たるもの、一生かけて外で豪快に働く。それが男らしさだったと思うのです。そして女性は家を守り、家事を行うのが当然だったし、それが幸せな形とされていました。

 ところが、最近はどうでしょう。リストラ、終身雇用制度・年功序列制度の崩壊。女性の社会進出も著しく、女性上司も続々増えてきています。さらには、出産・育児をこなし、かつ外に出ればリーダー的存在になって働く精神的にたくましい女性、昔でいうところの“男勝り”な女性が頼られる世の中です。

 会社は男性の世界、家庭は女性の世界。ゆるがぬ男性の居場所だったはずの会社が、もはや絶対的ではなくなっていることも、背景としてあるのかもしれません。

どうしてセクハラって悪いの?

 考えてみると動物同士のコミュニケーションは、何でも“弱肉強食”で片付いてしまいますよね。力のある雄は雌を支配し、強い雄は弱い雄を見下して追い出す、それでスムーズにいく社会だと聞きます。

 しかしそれは人間のセクハラの概念とは真逆の関係にあると気付きます。だって、そもそもセクハラとは、社会的立場の弱い女性を守るために、1997年の男女雇用機会均等法の改正で作られたものですから。それが2007年になって、女性の社会進出や男女平等が進む中、男女お互いが快適に働く権利として、救済する対象を“女性”から“男女両方”に拡大したのです。昔より弱くなってしまった男性を救おう、という面もあるのかもしれません。

そもそも目線が違うのでは?

 セクハラが起こる背景として、「職場のコミュニケーションとしてこれはOKだろう」「相手がこれくらいのことをいやがるはずがない」などといった勘違いがあります。「これくらいは問題にならない、暗黙の了解だ」と誤解していることが、セクハラを生む原因だと思うのです。

 そもそも何はOKで何はNGなのか、男女間で全く目線が違っているのではないでしょうか。しかも最近はそれに加えて、同性間の誤解や、ジェネレーションギャップの問題も、社会に大きく影響しています。

 ある企業のセクハラマニュアルでは、「用もないのに相手をじっと見つめない」と書いてあるそうです。セクハラを予防する意味で、相手を無駄に見つめない! 先回りしているのでしょう。しかしこういったことが度を超して「セクハラが怖くて、社員同士のコミュニケーションが取りづらい」という社風・社会になってしまうようでは心配です。相手を見つめることから始まる社内恋愛が、このままでは風化してしまうのでは? 男女平等を意識しすぎた結果、“みんながひとりぼっち”の社会になってしまうのだけは避けたいですね。

最後に一言……

 今回は、男女雇用機会均等法の改正で、セクハラの範囲が広くなる、という話をしました。しかし驚くことに、現状の法律上では、セクハラに対しての罰則は特にありません。セクハラ問題が起きた場合、その責任は各企業に任されており、解決しない場合は企業名を公表するというリスクを、企業は負っているだけなのです。


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