連載
» 2007年07月12日 00時00分 公開

保田隆明の時事日想:スティール法廷闘争の余波で、村上ファンドは“グリーンメーラー”になるのか

グリーンメーラーに認定されたスティール・パートナーズ。過去の投資事例が“ゆすり”の類であったと判断された。スティール法廷闘争で村上ファンドは、カネボウはどうなる?

[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv。ブログ:http://wkwk.tv/chou


 スティール・パートナーズがブルドックソースの買収防衛策の差し止めを求めたが、東京高等裁判所は抗告を棄却した。今回の高裁の判断では、スティールがグリーンメーラーと認定された。以前、ニッポン放送VSライブドアの際に、グリーンメーラー相手であれば「買収防衛策の発動は可能」という裁判所の判断があったので、スティールの訴えは棄却された(7月5日の記事参照)

 グリーンメーラーとは簡単にいえば、保有する株式を高値で買い取るように会社に迫る、つまり“ゆすり”“たかり”の類の投資家ということである。地方裁判所の判断では、直接会社に高値で買い取りを迫った形跡はないので、グリーンメーラーとは言い切れないとされていた。しかし高裁の判断では一転し、過去のスティールの投資回収事例を踏まえ、「専ら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を獲得しようと」する可能性があるので、グリーンメーラーだと認定した。

 スティールは、以前にも指摘した通り、今回の防衛策が登場した時点で、経済的には利益が確保できる状態にあり、その点ではすでに勝っていた(6月14日の記事参照)。それをわざわざ法廷に持ち込んだのは、グリーンメーラーの汚名を返上したいからであったはずだ。法廷で負ける(買収防衛策の発動を阻止できない)可能性は考慮していたはずだが、まさかグリーンメーラーに認定されるとは思っていなかっただろう。その点、地裁の判断は想定内、しかし、今回の高裁の判断は完全に想定外だったと思われる。

 スティールは最高裁に上告したが、グリーンメーラーと認定されていなければ、高裁で負けた時点で矛先を納めた可能性もあったと思う。だが、グリーンメーラーと認定されてしまった以上は、それを打ち消すためにはどうしても最高裁に持ち込まざるを得なくなった。

スティールと村上ファンドの違い

 今回の高裁の理論だと、村上ファンドもグリーンメーラーと認定される可能性もある(5月7日の記事参照)。村上ファンドのインサイダー裁判の判決は、来週7月19日に出る予定だ。この裁判の中で村上ファンドがグリーンメーラーかどうかは直接的な争点になっていないものの、グリーンメーラーだから罰してもいいという感情論的な面を生み出す可能性がある。

 ただ、スティールと村上ファンドでは、経営権獲得後の経営方針についての対応が異なっていた。今回、地裁と高裁の両方で指摘されたのは、スティールは買収後の経営は現経営陣に任せるとし、買収後の経営方針が明らかでないのは、株主を不安にさせているということである。地裁の判断を引用すれば、「経営権取得後の経営方針や投下資本の回収方法を明らかにしていないのは、投資家としては必ずしも不合理ではないが、株主の多くに企業価値を損なうのではないかとの疑念を抱かせるのも無理ない」と言っている。

 その点、村上ファンドが過去に経営権の取得をも視野に入れたケースに、阪神電鉄の案件とニッポン放送の案件があった。それらでは事前に、社外取締役の選任作業に手をつけていた。社外取締役はあくまでも経営陣のお目付け役でしかないものの、経営方針に対しては口出しができる立場である。社外取締役候補を見ると経営方針を垣間見ることは可能である。

 また村上ファンドは、コーポレートガバナンスを機能させるための投資であることも主張していた。その点でもスティールとは異なる。

 このように考えると、確かにスティールは自らの投資行動を正当化するという作業において、怠りがあったかもしれない。

カネボウ、レックスホールディングスの少数株主に与える影響

 スティール側は、今回のブルドックの防衛策は株主平等の原則に反するとして差し止め請求を求めていた。しかし今回の高裁は、「会社法は、一部の株主を経済的にも、また、議決権比率の変動の面においても、差別的に取り扱うことを制度上否定はしていないということができる」と判断した。「株主平等の原則はあくまで原則であり」常に当てはまるわけではないとしている。

 これは、カネボウやレックスホールディングスの少数株主に影響を与えるかもしれない。カネボウの買収案件、レックスのMBO案件では、多くの株主が株式を売却して案件そのものは成立した。しかし一部少数株主は、株式の買い取り価格が不当に低かったと主張し、法廷で争う姿勢を見せている。彼らの拠り所は、株主平等の原則であるが、今回の高裁の判断はそれら少数株主にとってはネガティブとなるかもしれない。

 またカネボウやレックス以外の企業でも、今後M&Aが起こっていくだろう。その条件が少数株主にとっては、必ずしもベストではないケースも出てくるはずだ。そういうケースでも、少数株主はとりあえず株式を売らざるを得ない、ということにもなりうる。

他の投資ファンドへの影響は限定的

 今回の件が、他の投資ファンドの活動にネガティブな影響を与えるという意見もあるが、筆者はさほど大きな影響は与えないのではないかと考えている。過去の案件を見ても、スティールのように目立った形で投資を回収し、利益を上げたファンドは少ないからだ。

 また、TOBをかけたのに経営方針を示さなかったこともグリーンメーラー認定の材料となった。そうであれば、TOBをかけるなどの手法を取らなければいい、ということにもなる。村上ファンドが行ったように、社外取締役の選任作業を行うなどして、経営権取得後の経営方針を少し見せればいいということになる。このように投資ファンドにとっては、同じ罠にはまらずに投資をする術はたくさん残っている。今回の件がスティールと同様の投資手法を取る投資ファンドに、さほど大きなインパクトを与えるとは思えない。

最終的に割を食ったのは一般株主

 法廷闘争の結果がどうであれ、スティールは利益を確保することができる。他方、ブルドックの株価は、防衛策発動決定により乱高下しており、ほんろうされている投資家も少なくない。今回の法廷闘争は、あくまで経営陣の面子をかけた戦いとなっており、一般株主への配慮が小さい。結果として混乱した投資家に対して、今後経営陣がどのように対応していくかが重要となる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセスランキング
  • 本日
  • 週間

    Digital Business Days

    - PR -