若き“イケメン”蔵元の力で日本酒は変わるか――「和醸和楽」設立

» 2007年07月17日 09時17分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 「和醸和楽に参加している蔵のお酒です、飲んでみてください。おつまみもどうぞ」

 差し出されたのはおちょこではなく、涼しげなガラスのグラス。中には大きくカットしたキューブの氷と日本酒が注がれている。「日本酒に氷を入れて飲むなんて珍しいなあ」と思いながら、おつまみを口に入れると、こちらも意外な味。チーズを揚げたフライだった……。

メンバーはみな30代、40代の若手

 7月13日、東京・銀座のレストランを貸し切って「和醸和楽(わじょうわらく)」という団体の設立発表会が行われた。和醸和楽は、全国16県20社の蔵元と14都道府県23社の日本酒を扱う酒屋が集まってできた、日本酒の啓蒙・普及と地位向上を目指して設立された団体だ。日本酒の啓蒙団体はこれまでもいろいろあったが、蔵元と酒販店が一緒に活動する団体はこれが初めてだという。「次世代を担う若手が中心。斬新なアイデアで、日本酒の既存のイメージを変えていきたい」

和醸和楽のロゴ(左)。写真右から、和醸和楽会長の西田司氏と副会長の小倉秀一氏(右)

 蔵元はそうそうたる顔ぶれで、銘柄を聞けば「黒龍」「十四代」「天狗舞」「磯自慢」「醸し人九平治」「東洋美人」など、特に日本酒に詳しくなくても知っている名前が並ぶ。代表の西田司氏をはじめ、テーブルに並んだ幹事の顔ぶれは皆若く、ほとんどが30代である。

 和醸和楽の目的は大きく2つある。1つは、新しく日本酒のファンを開拓すること。若い人や“ワインは飲むけど日本酒は飲まない”という人に、日本酒の美味しさを知ってもらい、ファンになってもらおうという狙いだ。「日本酒好きの人のための啓蒙活動ではなくて、これまで好んで日本酒を飲まなかった人のための活動をしていく。0を1や2にしていくための活動です」(西田氏)

 もう1つは、日本酒関係者のプロ意識を向上させることだ。フランス料理店に行けば、料理とワインの組み合わせを考え、お客に薦めるプロがおり、ソムリエという資格がある。しかし日本料理店に行っても、料理と日本酒の相性を考えて客に勧めてくれるプロは、まれな存在だ。「食中酒としての日本酒のあり方を、改めて考えていきたい。飲食店と組んで、日本酒に合う料理を考案するなどの試みをしていきます。また、これまでにはなかったセミナーも行います。例えば『グラスの形で同じお酒の味がどう変わるか』とか、チーズ専門店と一緒に『チーズと酒の相性』とか」(西田氏)

 また、世界に向けて日本酒の魅力を発信していくこともテーマだという。「日本酒は国酒だと言われているけれど、たとえば宮中の晩餐会で、大使館の行うパーティで、乾杯に日本酒が使われているのを私は見たことがありません。日本酒で乾杯をしてほしい、お客様のおもてなしを日本酒でしてほしい――そういう気持ちが、強くあります」(西田氏)

和醸和楽に参加する蔵元の酒。有名な地酒ばかりだ(左)。蔵元も酒販店も、メンバーはみな30代〜40代と若い。司会のアナウンサーはしきりに「イケメン」と繰り返していたが、たしかに言われなければ何の集まりだか分からないとは思う(右)

日本酒の地位向上を

 日本酒の消費量は1973年がピークで、その後減少傾向にある。日本で消費されるアルコールは、ビール類(ビールの他、発泡酒などを含む)が圧倒的に多い。とはいえ、日本酒はビール類の次につけていたのだが、本格焼酎ブームで焼酎に抜かれ、ここ数年消費量3位に甘んじている。

 しかし和醸和楽の活動は、広報・PRが中心で、出荷量の増加や販売ルートの見直しなどは対象となっていない。メンバーは大量生産ではない地酒を作る蔵が中心ということもあって、販売量を増やすことではなく、日本酒の地位を向上させることを目的としているのだ。

「例えばフランスなどに行くと、自国のお酒をちゃんと保護する法整備をしています。なにより、酒を作る人・飲む人が自国のお酒に誇りを持っている。日本とは何と違うのだろうと、海外に行くほど思い知らされる」(萬乗醸造・久野九平治氏)

 和醸和楽の出発点となっているのは“このままでは日本酒文化はダメになってしまうのではないか”という危機感だ。「若い蔵元はみな、危機感を持って酒を造っている。守るばかりではなく、業界のことを考えて、未来へ攻めていかないと……」(黒龍酒造・水野直人氏)

和醸和楽副会長の水野直人氏(黒龍酒造、左)と、萬乗醸造の久野九平治氏(右)

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