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» 2007年07月25日 09時31分 公開

業績好調ながら、KDDIが抱える2つの課題 神尾寿の時事日想:

番号ポータビリティ後も順調にユーザーを伸ばし、好調なau。しかし夏商戦に入り、現場で聞かれるのは「auに勢いがない」という声だ。KDDIを悩ませる2つの課題とは……?

[神尾寿,Business Media 誠]

 7月23日、KDDIが2008年3月期第1四半期の決算を発表した。今期も同社の業績は好調で、売上高は前年同期比5.7%増の8441億円、営業利益は同15.6%増の1409億円で増収増益になった(7月23日の記事参照)

 記事にもある通り、引き続きKDDIの好業績を支えるのが携帯電話事業の好調だ。売上高は前年同期比5.5%増の6748億円、営業利益は同16.7%増の1513億円に達している。番号ポータビリティ制度(MNP)の恩恵もきちんと受けており、第1四半期の番号ポータビリティによる純増数は19.2万。携帯電話事業の国内シェアは6月末時点で29.3%となり、同社が目標とする30%への到達も間近である。

 このように結果だけ見れば、KDDI、特に携帯電話事業のauは順風満帆だ。しかし、同社の成長力の源であるauを取り巻く“風向き”は、微妙に変化し始めている。

今夏のauは勢いがない!?

 「auに、思っていたほどの勢いがない」

 今月、筆者がヒアリングをした販売店関係者の多くが、そう首を傾げた。特に3キャリアすべての端末を扱う家電量販店や併売店からは、「au(の販売)が今ひとつパッとしない」という声が相次ぐ。

 むろん、auの成長が止まったわけではない。純新規ユーザーとMNPによる転入ユーザーの獲得は着実にできている。だが、販売サイドの“期待値”に比べると、auの伸びは今ひとつ。夏商戦モデルの投入でも、市場のテコ入れ、MNP利用の活性化が不首尾だという。

 「夏商戦期に入りましたが、携帯市場全体が思ったほど活性化せず、冷え込んでいるという感触です。ドコモはもちろん、auも伸び悩んでいて、年末から春先にかけての勢いがパタリとなくなりました。一方、ソフトバンクモバイルは伸びていますね。こちらは純新規とMNPによる転入が増え始めていることと、2台目新規という新たな市場を取れている点が、(成長の)底上げになっている」(販売会社幹部)

 MNP開始から春商戦までの“お祭りムード”から一転して、販売現場では全体的に停滞感が漂い始めている。これまでのauは、そのような雰囲気の中でも力強く売れる勢いがあったのだが、それが落ちてきているようだ。これは挑戦者であるはずのauにとって、あまりよい兆候とは言えないだろう。また“勢いがない”というイメージが店頭と消費者の間に定着すると、その払拭には長い時間がかかる。市場全体の停滞感を吹き飛ばすだけの魅力作りができるかは、今年に後半に向けたauの大きな課題だ。

価格競争をいつまで避けられるか

 もうひとつ、auにとって頭の痛い課題が「価格競争」だろう。

 これまでauは、「料金が安い」という消費者のイメージとは裏腹に、単純な料金値下げには最も消極的なキャリアだった。“料金が安い”というイメージ作りには熱心だが、一方で、新たなビジネスや収益モデルを積極的に導入し、高収益体制を維持し続けてきた。誤解を恐れずに言えば、「安いと消費者を喜ばせながら、トータルで高く売る」ことに長けていたのだ。むろん、その背景には、KDDIのサービス開発能力の高さやコスト削減へのたゆまぬ努力がある。安売りをせずにお得感を打ち出し、なおかつ高収益を維持する手腕は高く評価できるだろう。ここが、同じ割安感の訴求でも、“単純な安さ”で勝負するソフトバンクモバイルとの大きな違いであった。

 しかし、ここにきてauも、新たな料金値下げプランの導入に動き出した。既報の「誰でも割」(7月19日の記事参照)がそれであり、2年契約をすると基本料金が初年度から半額になるというものだ。これはドコモが新たに投入する割引サービス「ファミ割MAX」と「ひとりでも割」に対抗するものだ(6月26日の記事参照)

 23日の決算発表の席上、KDDIの社長兼会長の小野寺正氏は、従来からの「単純な値下げはしない」「ソフトバンクモバイルを意識した料金プランや割引サービスは考えていない」という姿勢を崩さなかった。これは小野寺氏の本音であろう(7月23日の記事参照)。収益の悪化を神経質なまでに嫌がるKDDIにとって、200億円の減収覚悟で導入した今回の「誰でも割」は、かなり思い切った判断だったと筆者は思う。

 一方で、auが今回料金値下げに踏み切ったことにより、業界全体の価格競争に緊張感が出てきたのは間違いない。今年の冬商戦に向けて、ドコモやソフトバンクモバイルが新たな料金プランの導入やパケット通信料金の見直しをする可能性は十分にあり、KDDIが「価格競争を可能なかぎり避けて、高収益体制を維持する」姿勢を取り続けるのは次第に困難になってくるだろう。“単純な値下げ”を避けるだけでなく、その時代に向けた新たな収益モデルを模索する必要もあるのではないだろうか。

新たなエンジンに火が入れられるか

 厳しい見方をすれば、今のau好調は、MNPに向けた取り組みが奏功し、その勢いによって“慣性の法則”が働いている状況と言える。今のところ堅調に契約者を獲得しており、同社が打ち立てた3G時代のビジネスモデルはうまく回っている。だが、そろそろ「シェア30%以上」の時代に向けた成長のエンジンに火を入れる必要がある。それができなければ、KDDIはシェア30%止まりのキャリアで終わり、ドコモとソフトバンクモバイルの狭間で、ゆっくりと、だが着実に苦しい戦いを強いられることになるだろう。今年の年末商戦にかけては、KDDIが新たなステージに進めるかの試金石になりそうだ。

 “勢いのあるau”が再び市場を席巻するか。KDDIの今年後半戦を、期待をもって見守りたい。

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