7月31日、北京市交通情報センターと日産自動車が、中国都市部の交通渋滞を改善するため、新交通情報システムの開発プロジェクト「STAR WINGS(中国名称:星翼)」システムの構築と車載ナビゲーションのプロトタイプを開発したことを発表した(参照リンク)。
同システムは2006年末から実証実験が行われてきたもので、走行中のクルマの位置と速度情報を通信経由で収集し、センターサーバーで渋滞情報を生成する「プローブカー(別名:フローティングカー)」の仕組みを利用している。プローブカーは、日本では本田技研工業の「インターナビ」が世界で初めて商用サービス化を実現し、その後、トヨタ自動車や日産自動車も相次いで商用化していた。
今回、北京市で運用が始まるSTAR WINGSでは、市内を走る1万台のタクシーから、車両の位置、速度などのプローブ情報を収集する。集められたプローブ情報は北京市交通情報センターのプローブカー交通情報システムでリアルタイム交通情報になり、携帯電話ネットワークを通じてユーザーの車載ナビゲーションに送信される。カーナビ側は受信した交通情報をもとに、目的地までの最速ルートを探索するという仕組みだ。このシステムでは、ナビゲーションがリアルタイムの交通情報と過去の交通情報を蓄積した統計交通情報を総合的に処理することで、より正確な最速ルートを探索し、目的地までの走行時間を大幅に短縮する。
また、渋滞回避機能によるCO2排出量低減効果も見逃せない。今年1月から実施してきたSTAR WINGSの走行実験によると、平均で約20%の走行時間短縮が確認できたという。今後このシステムが普及すれば、北京市の渋滞が改善し、走行車両の平均燃料消費率が向上することで、CO2排出量の削減効果が期待できる。大気汚染が深刻化する中国の都市部において、渋滞改善は環境面でも重要な取り組みである。
北京市交通情報センターと日産によると、両者は今後連携を強化し、「2008年の北京オリンピック開催までに、システムの実用化を目指す」(プレスリリース)。また、オリンピック期間中、北京市交通情報センターは北京市内のタクシーへ、日産は一般車両へ、それぞれこのシステムに対応したナビゲーションを搭載することを検討している。さらに両社は、今回開発した新交通情報実験システムを、中国国内の他の都市にも拡大する考えだ。
日本では、道路上にセンサーを設置して渋滞情報を把握する「VICS(リアルタイム渋滞情報システム)」が、警察庁、郵政省(現・総務省)、建設省(現・国土交通省)の主導で発足。1996年から商用サービスが始まった。渋滞情報は“道路が集める”形で、VICS対応カーナビが普及した。そのため、その後登場したホンダや日産、トヨタのプローブカーシステムは、より高精度・広域の渋滞情報を収集・提供する“VICS補完サービス”という位置づけになっている。
しかし、世界的に見ると、道路インフラにセンサー網を設置し、全国的にそれを収集するシステムを立ち上げられる国や地域は少ない。日本でVICSが成立した背景には、日本の通信インフラ整備が進んでいたことと、官主導で道路インフラの整備に投資しやすい環境があったからだ。ある自動車メーカー幹部は、「VICSと同じレベルで道路に渋滞情報収集ネットワークが構築できる国はシンガポールくらいしかない」と話す。
走行する車両から情報を集めてリアルタイム渋滞情報を生成するプローブカーシステムは、道路インフラの整備を伴わないため、安価かつ短期間にリアルタイム渋滞情報システムを構築できる。携帯電話の急速な普及に伴い、モバイル通信インフラの整備が進んでいることも、この分野の追い風だ。日本ではVICS補完のプローブカーシステムが、海外では主役になる可能性が高い。
海外では都市部を中心に渋滞問題は深刻化している。
特に顕著なのは北京や上海など中国を筆頭にアジアの大都市であるが、欧州や北米でも都市化が進み、渋滞問題は深刻化している。リアルタイム渋滞情報システムとナビゲーションによる渋滞回避サービス潜在的なニーズ・市場は大きく、「渋滞改善ビジネス」は今後の拡大が予想される。日本の自動車メーカーやカーナビメーカーはこの分野の技術開発で先行しており、今後の海外展開には注目する価値がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング