安倍首相と小泉前首相の違いとは――外から見た参院選

» 2007年08月06日 08時47分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

 7月29日に行われた参議院選挙。与党である自民党と公明党の大敗北は当然、海外メディアの注目も集めた。英エコノミスト誌は最新号(8月4日号)で、この選挙に関して2本の記事を掲載している(参照記事1記事2)。またニューヨークタイムズは社説で、安倍晋三首相の敗因を分析した(参照リンク)。これらの記事を読むと、外国から日本がどう見えているのかがうかがわれて興味深い。

安倍首相の政策は“軍国主義的なナショナリズム”?

 ニューヨークタイムズの記事は、安倍首相を「軍国主義的なナショナリズム」を推進してきたとする。彼らの目から見れば、「戦後レジームからの脱却」はすなわち「復古主義」ということになるのだろう。アメリカが導入した現在の憲法を自主憲法で置き換えるという主張や、慰安婦問題で「狭義の強制性はなかった」と分かりにくい説明で謝罪しようとしない姿勢も、そうした見方の根拠になっていると言えるだろう。

 この記事では、小泉純一郎前首相も軍国主義的なナショナリストにされている。靖国神社参拝などを指しているのかもしれないが、小泉前首相が軍国主義的であると思う人は日本人ではあまり多くはあるまい。そういう意味ではややピント外れと言えなくもないが、最後のほうでいいポイントを突いていると思われる一文がある。

「日本は戦後ほとんど自民党の一党支配だった。それが腐敗や無駄な公共事業などをもたらしてきた。小泉前首相が高い支持率を集めたのは、こうした政治風土に対決しようとしたからである。しかし安倍首相は対決するのではなく降伏してしまった。その政治的代償をまさに払ったのである」

 やや単純化しすぎだが、小泉前首相と安倍首相の違いを端的に言い表しているとも言える。

小泉前首相と安倍首相の違いとは

 安倍首相と小泉前首相の違いについては、エコノミスト誌も指摘している。

「安倍首相と小泉前首相はまったく違う。小泉首相は完璧なショーマンであり、庶民的な感覚に対する嗅覚もあった。しかし安倍首相は、首相になってからというもの、自信なさげで庶民の日常生活とはかけ離れた貴族的な人間であることを露呈している」

 同誌はこの安倍首相のパーソナリティが自民党大敗の一因としているが、その他にさらに2つの理由を挙げている。1つは、小泉前首相が自民党の集票組織を“ぶっ壊した”こと、もう1つは、今回は有権者が改革に背を向けたことを意味するという。小泉改革で日本は危機を脱したが、賃金は上がらず、公共事業がカットされて地方はますます疲弊している。これが民主党の小沢一郎代表にとっては追い風となった。農家への戸別所得補償など昔の自民党スタイルで票を集めた、としている。

 さらにエコノミスト誌は、一見、二大政党制に近づいているかのように見えるが、利害が対立するグループを内包している小沢民主党は、政権を担える政党であることを示していない、とも指摘している。

 いろいろな書き方はあるが、外国の新聞や雑誌でほぼ共通しているのは、この選挙の大敗が安倍首相の「リーダーの資質」に大きなクエスチョンマークを付けた、という見方だ。

 これで安倍首相が「挙党一致」の名の下に、いままでの自民党のような派閥人事に回帰するのなら、安倍首相は「反改革派」というレッテルを貼られるかもしれない。現在の段階で安倍首相は「派閥推薦は受け付けない」としているが、求心力を失いつつある首相の言葉だけにやや虚しく響く。

 少子高齢化時代に突入した日本が生き残っていくためには、改革はどうしても必要だ。しかしそれを続けていくのは、安倍首相なのか、それとも小沢民主党なのか。守旧派・抵抗勢力的な色彩が強まりつつある民主党に、本当に日本を改革していくことができるのか。日本の今後を、海外メディアも見守っている。

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