「楽になった分は、サボっていいよ」 老舗建設社長が社員にアプリ3000個自作させたワケ特集「AI時代の全社横断DX」(1/2 ページ)

» 2026年02月26日 07時00分 公開
[中根ほづ美ITmedia]

 「最初は従業員から猛反対されました。“社長対従業員”の戦いのようなものでしたよ」

 山形県米沢市で創業100年を迎えた建設会社・後藤組の後藤茂之社長は、同社のDXプロジェクトをこう振り返る。

 プログラミングができるIT人材が一人もいない中、「全員DX」を掲げ、現場の従業員がノーコードツール「kintone」(キントーン)を用いて3000個を超えるアプリを内製。そのアプリを他社に販売するまでに成長しており、経済産業省が中堅・中小企業のDX優良事例を選定する「DXセレクション2025」で、最上位のグランプリを受賞した。

 最初は従業員からの猛反対があったにもかかわらず、なぜここまでの成果を出すことができたのか。

 「楽になった分、サボっていい」──。その背景には、トップダウンで進める強い推進力と、「人間は得をしなければ動かない」と考え、成果を従業員に還元する設計まで描き切った覚悟があった。

photo01 後藤組代表取締役の後藤茂之社長(提供:後藤組)

猛反対の中で「社長命令」から始めた DXの第一歩

 後藤組がDXに取り組み始めたのは2019年。きっかけは社長がセミナーで耳にした「データドリブン経営」の必要性と、次世代を担う若手従業員を採用し続けられるかという危機感だった。

 長時間労働や休日出勤といった厳しい労働環境が課題となっている建設業界。後藤社長は新卒採用の現場で、学生の価値観の変化を感じていた。

 「『給料は高くなくていいから残業したくない』という学生が増えているのを感じました」と後藤社長。今のままではせっかく若手を採用してもすぐに辞めてしまい、遠からず経営が立ち行かなくなる――。DXで働き方を変える必要があると考えたという。

 しかし、現場の業務に追われる従業員に「DXを進める」とただ伝えるだけでは、簡単に賛同は得られない。「うちの会社はDXを進める必要がない」という声もあった。

 そこで後藤社長は「毎月1個、どんなものでもいいのでアプリを作ってくるように」とトップダウンで指示を出した。

 「“0から1”のフェーズは、従業員がDXの意義を理解していないため、自発性は期待できません。まずは“無理やりにでも慣れさせる”ために、あえて強制力を働かせました。毎月のアプリ作成の有無を賞与と連動させる工夫もしました」

 当初は、初心者が作った、業務では使えないようなアプリが量産されたが、これが同社のDXの第一歩となった。

社内DXが自走し始めた転換点

 「毎月1個アプリ作成」が3カ月続いた頃、後藤社長は次の指示を出した。それは「二重入力をなくす」アプリを作成すること。これが同社のDXを“1から2”のフェーズへと加速させる大きな転換点となった。

 例えば、同社のBtoC部門である住生活グループの業務では、毎日の顧客との面談内容を営業日報に入力。さらに同じ数字をExcelに再入力して会議用の資料を作る……。この作業に一人当たり月2時間、6人のチームで12時間を費やしていた。

 そこで、日報から自動で数値を反映し会議資料を作成できるよう、「kintone」と「Looker Studio」を連携させてダッシュボード化したところ、資料作成時間は「0分」になった。

 「人は損か得かで判断する生き物です。やってもやらなくても変わらないなら、やるだけ損。しかし、『これをやれば自分が圧倒的に楽になる』と気付いた瞬間、従業員は自走し始めたのです」

 その後、顔認証を用いた勤怠管理アプリや、紙を用いていた工事現場のチェックシートをタブレット入力にするアプリなど「業務を楽にするためのアプリ」が次々と誕生した。

photo02 「顔認証打刻アプリ」の事例(提供:後藤組)
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