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» 2007年08月29日 09時24分 UPDATE

神尾寿の時事日想:ペニンシュラがモバイルセントレックスを導入する意味――ワンボタン・コンシェルジュの可能性

9月1日に開業するザ・ペニンシュラ東京では宿泊客に携帯電話を貸し出し、ホテルの外にいても、ワンボタンで各種サービスを利用できるシステムを導入する。“コンシェルジュ付きの専用携帯電話”というアプローチは、ホテル以外のサービスにも展開する可能性がある。

[神尾寿,Business Media 誠]

 8月28日、日本電気(NEC)が9月1日に開業する「ザ・ペニンシュラ東京」(ザ・ペニンシュラホテルズ : 東京都千代田区)に対し、SIP対応のIPテレフォニーサーバ「UNIVERGE SV7000」による無線LANシステムと、NTTドコモが提供する法人向け音声サービス「PASSAGE DUPLE」用のFOMA/無線LAN対応デュアル端末「N902iL」を納入したと発表した(8月28日の記事参照)。ザ・ペニンシュラ東京では450台のN902iLを導入し、ホテル内では無線LANを利用したワイヤレス内線電話として、ホテル外ではFOMA端末として運用。宿泊客用に用意されるN902iLでは、ホテル内外のどこからでもワンボタンでフロントと連絡が取れるほか、ルームサービスやバレーコールなどのサービス申し込みなどが行えるという。

ay_pnnsl01.jpg 東京・有楽町で9月1日に開業する高級ホテル、ザ・ペニンシュラ東京

“宿泊客にも携帯を貸す”ことの意味

 無線LAN+IP電話と従来型の携帯電話ネットワークを統合した音声ソリューションサービスは「モバイルセントレックス」と呼ばれ、法人向け携帯電話市場の主力商品として各キャリアが力を入れている分野である(2005年2月の記事参照)。今回、ザ・ペニンシュラホテルズが導入するNTTドコモのPASSAGE DUPLEは全国500社に導入実績があり、基本的なシステムや端末はすでに普及しているものだ。

 しかし、今回の事例で目新しいのは、ホテル全館の音声通話とデータ通信を統合した無線LANネットワークシステムを構築し、従業員用の内線ケータイとして使うだけでなく、全客室に配備して宿泊者向けの携帯電話としても提供しているところだろう。これは一見すると客室電話を携帯電話に置き換えただけのようだが、N902iLはホテル外に持ち出しても“普通の携帯電話”として使えるのがポイントだ。その上で、ワンボタンでホテルのフロントや各種サービス窓口につながるので、宿泊中は時間・場所を問わずに様々なホテルサービスが利用できる。

 まだ開業前なので、サービス内容の詳細は分からないが、ザ・ペニンシュラホテルズのフロントサービスのクオリティから想像すれば、それはコンシェルジュが隣に控えているような感覚になるのではないだろうか。“ホテル直結の電話が持ち歩けること”は、見知らぬ土地に滞在中の宿泊客にとって、満足度の高いサービスになりそうだ。

ワンボタン・コンシェルジュの可能性

 ザ・ペニンシュラ東京の事例は、ホテルの客室電話をモバイル化することで、ホテルサービスを宿泊者がホテルの外にいる時にまで広げるというものだ。高級ホテルの競争環境において、設備の充実だけでなく、サービスの質が重要になる中で、そのタッチポイントを拡大する試みと言える。

 このようなコンシェルジュ付きの専用携帯電話というアプローチは、ホテル業界に限らず、今後広がる可能性がある。例えば、ホテルと同じトラベル&エンターテイメント業界ならば、旅行代理店が富裕層向けのツアーや会員制サービスに、ワンボタンでコンシェルジュに繋がる携帯電話を貸し出すといった展開が考えられる。旅先での細かなニーズに応えて、海外では通訳サービスも兼ねるという形ならば、団塊の世代の旅行需要増加にあわせたプレミアムなサービスとして受け入れられそうだ。

 また、コンシェルジュといえば、アメリカン・エキスプレス「アメックス・プラチナ」やJCB「JCB THE CLASS」、ダイナースクラブ「ダイナース・プレミアム」など、いわゆる“プラチナクラス”のクレジットカードサービスが有名だが、こういったプレミアムカードの発行会社が、MVNOで会員向け専用携帯電話サービスを始める可能性もある。今でも専用電話番号にかければコンシェルジュが様々なニーズに応えてくれるが、それがワンボタンで利用できるようになるのだ。ノキアのラグジュアリー携帯ブランド「Vertu」のように(参照リンク)、高級素材で作られた端末とクオリティの高いコンシェルジュをセットにすれば、日本でも富裕層向けの高額会員制サービスとして成立するだろう。

si_vertu03.jpg ノキアの「Vertu」は、ハンドメイド加工や宝石などをあしらった、数百万円の価格の携帯を販売するブランドだ。2008年秋には日本でも発売される予定

 高度成長期が終わり、市場全体が成熟期となった今、消費の大きな流れはモノ(ハードウェア)からコト(サービス・ソリューション)に移り変わっている。すでにハコやモノの魅力だけで消費者を引きつけるのは難しい。いかに消費者との接点を作り、濃密で満足度の高いサービス利用体験をしてもらうかが重要だ。

 そのような環境変化の中で、ユーザーとの対話を行うコンシェルジュは、そのクオリティ次第で強力なキラーサービスになりうる。しかもそれが携帯電話で、なおかつワンボタンでダイレクトに繋がるとなれば、なおさらである。コンシェルジュサービス付き携帯電話は、今後、さまざまな業種・業態が注目する分野になるのではないか。

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