モバイルセントレックスとは何か

» 2004年12月18日 03時00分 公開
[吉岡綾乃,ITmedia]

 モバイルセントレックスとは何か、一言で言ってしまえばそれは「企業の内線電話を携帯電話で取れるようにするシステム」である。この従来固定電話だったり、構内PHSだったりした企業の内線電話を、法人契約の携帯電話に置き換えていこうという動きが、最近活発になっている。主役のプレイヤーは携帯キャリア各社だ。

 NTTドコモのPASSAGE DUPLE(パッセージ・デュプレ)、KDDIのOFFICE WISE(オフィスワイズ)、ボーダフォンのVodafone Mobile Office(ボーダフォンモバイルオフィス)とを比べると、それぞれかなり性格の異なる商品になっている。「携帯電話で内線」というゴールは同じでも、アプローチの仕方は、各社さまざまなのだ。

法人契約を増やしたい携帯キャリア

 モバイルセントレックス商品が急に立ち上がった背景には、法人契約を増やしたいという携帯キャリアの思惑がある。これまで個人向けを中心に携帯電話は普及してきたが、契約者数は11月末で8497万8400人。契約者数も増加を続けてはいるが、徐々にそのペースは落ちてきている(12月7日の記事参照)

 そこで、携帯電話の新たな市場としてクローズアップされてきているのが法人市場である。私物の携帯に加えて、内線用の携帯も持ってもらえれば(後述)契約者数は大きな伸びが期待できる。法人で大口の契約が取れれば、相当数のユーザーから毎月一定の収入が得られる。携帯キャリアにとって、非常に魅力的な話であることが分かるだろう。番号ポータビリティ導入を2006年に控え、法人顧客を囲い込めるのもメリットだ。

IPセントレックスとモバイルセントレックスの関係

 もう1つの背景が、IPセントレックス普及の動きである。従来、企業の内線電話はPBXベースだった。すなわち、企業がビル内にPBX交換機を置き、公衆回線と接続したり、内線電話同士の通話ができるようにする。事業所が離れている場合には、PBX同士を専用線でつないで、広域の内線電話網を敷設する仕組みだ。PHSをワイヤレス内線電話として利用する(構内PHS)企業も多い。

 これに対し、バックボーンをIP網に変えたのがIP-PBX。さらにIP-PBXのインフラをアウトソーシングするのがIPセントレックスである。加えて企業の電話もIP電話化して、電話システム全体をIP化しようとする仕組みが普及しつつある。企業にとってみれば、今までビルごとに設置・管理していたPBXを外に出し、しかもサーバの運用は事業者に任せられる。IP化すれば、遠隔地同士でも内線は無料でかけられるなど、大幅な通信コスト削減が期待できる。

 IPセントレックス導入に際しては、従来のPBXベースのシステムから大幅な変更が行われ、内線電話もIP電話にリプレースされることが多い。そこで内線電話を携帯にしようとするなら、携帯キャリアとしてもリプレースのタイミングに合わせて、あるいはその前に「携帯電話を内線にしては?」という提案をし、対応サーバを導入してもらわなくてはならない。内線網のIP化にタイミングを合わせる必要があるという点では、PASSAGE DUPLEも、OFFICE WISEも事情は同じだ。

企業にとってのメリットは?

 さて、企業にとってモバイルセントレックスを導入するメリットとは何だろう。どこのキャリアも挙げるのは「他人の電話を取り次がなくてよくなる」「外出の多い相手とでも連絡を取りやすくなる」といった点だ。オフィスに固定されている電話に縛られなくなれば、いつでもどこでも社員は仕事ができる、企業にとっても業務効率が上がってありがたい、というわけである。また、音声通話だけでなく、メールやWebブラウザといった携帯の機能をそのまま業務に使えるといったメリットもある。

 とはいえ、Vodafone Mobile Officeを除けば、設備費用が数千万円単位でかかるなどイニシャルコストが高額なこと、選択肢が少ないなどの理由により、実際に導入に踏み切った企業はまだ少ない。ここ数年でシステムのリプレースを考えているというある企業のシステム担当者は「無線化のニーズも、コストダウンのニーズも高いので、無線VoIPに興味がある。しかし帯域は足りるのか、混信は起きないかといった不安も多い。モバイルセントレックスにも興味はあるが、まだ導入例も少ない。どちらにしろもう少し様子見かなと思っている」と話す。

 しかしVodafone Mobile Officeは2004年7月にスタート、PASSAGE DUPLEとOFFICE WISEは11月スタートと、各社いずれもまだサービスを開始したばかり。2005年はいよいよ、モバイルセントレックス本格スタートの年となりそうだ。この特集では、モバイルセントレックスのメリットとデメリット、導入事例などを詳しく見ていく。


モバイルセントレックスとは何か
ドコモ:PASSAGE DUPLE導入事例
KDDI:「OFFICE WISE」で好みのau携帯が内線に
ボーダフォン:日本全国が内線エリア〜Vodafone Mobile Office

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