海外メディアの目に福田政権はどう映るのか藤田正美の時事日想

» 2007年10月01日 01時58分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」


 7月末の参院選で惨敗したのに続投に固執した安倍晋三首相。結局、9月12日になって政権を投げ出してしまった。急遽、後継の首相となったのが、福田赳夫元首相の長男、福田康夫元官房長官である。

 この新しい内閣をどう見るか。外国メディアは概して好意的であるように見える。最初の支持率が50%台の後半に達したことについて、それが“意外な数字”と報道したところはないようだ。また福田首相の政治手法が、必ずしも旧来の自民党に戻ったというように見ているわけでもない。

福田赳夫元首相譲りのアジア外交の姿勢を評価

 外国メディアの見方に大きな影響を与えているのが、アジアとの関係においてハト派であるという事実だ。総裁選の中でも、北朝鮮の拉致問題について「自分の手で解決したい」と明言する一方で、圧力を強調する麻生氏に対して、対話を強調する立場を取った。中国や韓国との友好関係を念頭に、靖国神社に参拝しないともいう。このようなアジア諸国との関係強化は父親の福田赳夫元首相譲りである。赳夫氏は、日中平和友好条約を締結したほか、東南アジアの外交について1977年に福田ドクトリンを発表している。

 そうした意味では、中国や韓国との関係を極端に冷却化させた小泉首相や、中韓との関係は改善させたものの、北朝鮮に関しては強硬路線を取り、「戦後レジームからの脱却」を唱えてナショナリスト的な政策を取った安倍首相よりは安定感があるという見方だろう。

“協調”で民主党に勝つ?

 しかし英エコノミスト誌は「かつての自民党の体質に戻っているという民主党の批判は、否定できない事実である」とも書き、少なくとも大胆なリーダーシップを期待することはできそうもないと言う(参照リンク)。そのため、民主党との政治的な戦いでは、対決ではなくむしろ「協調」によって民主党に勝とうとするだろうとも書いている。これは面白い観点である。7月末の参院選で民主党は、児童手当や農家への戸別所得補償を掲げることで勝った。この政策は本来、自民党が得意としてきた政策である。つまり民主党にお株を奪われた形なのだが、自民党はそのお株を奪い返そうとするのか、それともむしろ改革を進めようとするのか。ここのところは海外メディアがいちばん見通しのつけにくいところであるようだ。

「日本は昔には戻らない」

 実際、英国の新聞「フィナンシャル・タイムス」は、Japan's Fukuda calls for changeと題する記事の中で、昔には戻らないと明言していることを挙げ、福田政権が旧自民党的な体質に戻ることはないだろうと紹介している(参照リンク)

 これは海外諸国にとって非常に重要なところだ。なぜならGDP(国内総生産)の1.5倍を超えるような累積債務を背負っている国は先進国にはない。たまたまこの債務を背負っているのがほとんど日本国内の投資家(金融機関や個人)であるために、この債務が巨額に上っていることがあまり問題にはならない。とはいえ、もし何らかの理由で金利が上昇するような局面になれば、こうした債務で巨額の評価損が発生する恐れがある。それが日本経済に大きな負担となる可能性は十分にあるからだ。

 そしてこれまで世界経済を牽引してきたアメリカは、サブプライムローン問題などで、景気後退懸念も強まっている。いまはアメリカだけが世界経済を引っ張る機関車ではなく、中国というもう1台の機関車があるが、日本はまだ完全に健全な経済を取り戻したとはいえず、逆に足を引っ張る可能性が消えたわけではない。その意味では、小泉改革に対する世界の評価は高かった。その改革の影の部分を手当てするという名目の元に、改革にブレーキがかかったり、また昔のバラまき政治に戻るようなことがあれば、日本への信頼感が一挙に弱まる懸念も残っている。

 福田内閣がそのあたりをどうにらみ、政治をリードしていくか。外国メディアはおしなべて福田首相を「有能」と評価しているだけに、その期待のハードルも高いことを認識しておかなければなるまい。

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