目指せ、ブログ界の芥川賞――アルファブロガー・アワード2007

» 2007年12月01日 01時40分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 Business Media 誠を読んでいる……いや、インターネットを使っている人であれば、「ブログを見たことがない」という人はいないのではないだろうか。世界でもっとも多いのは日本語ブログというニュースが出るほど、日本は世界一のブログ大国である。

 今や個人が「ホームページを開く」といえば、それはブログを始めることとほぼ同義だと言っていい。HTMLファイルを書いて、サイト構造を考えて、FTPソフトでサーバにアップロードして……というあの面倒なプロセスを経なくても個人がインターネット上に情報を発信できるようになった結果、自分の知識や考え、テキストや写真を世界に公開する人の数は飛躍的に増えた。

 数え切れないほどあるブログの中から、良質なブログを探そう――そんなコンセプトで行われているコンテストがある。「アルファブロガー・アワード2007」(主催:アルファブロガー運営委員会)の運営に携わる、アジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦氏と、シックス・アパートでコーポレートマーケティングディレクターを務める清田一郎氏に話を聞いた。

アジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦氏(右)とシックス・アパートの清田一郎氏(左)

そもそも、アルファブロガーとは?

アルファブロガー・アワード2007(http://alphabloggers.com/

 アルファブロガー・アワードの開催は2007年が第1回目となるが、この前身となっているのは「アルファブロガーを探せ」という投票企画だ。この企画は、2004年から2006年まで3年間行われた。

 「アルファブロガーを探せ」のコンセプトはその名の通り、“アルファブロガー”を探し、世に知らしめることにあった。しかしそもそも、「アルファブロガーって何?」と思う読者も多いだろう。

 アルファブロガーとは何かを定義するのは難しいが、多少強引に説明するならば「良質なコンテンツをコンスタントに発信しており、たくさんの読者を抱え、ブログ界に一定の影響力があるブログ」といったところだろうか。もともとは米国で生まれた言葉で、“たくさんの読者を抱え、影響力のある有名ブロガー”という意味で使われていた。この言葉が日本に入ってきたのが2004年頃。日本では「実録鬼嫁日記」「眞鍋かをりのここだけの話」、ライブドア元社長堀江貴文氏の「livedoor 社長日記」(現在は削除されている)といった人気ブログが、マスコミに取り上げられたり、書籍化されたりして一般にも知られるようになった頃と重なる。

 2004年末、「アルファブロガーを探せ」というプロジェクトが始まった。上記のようなエンターテイメント要素が強いブログほどのアクセス数はないが、熱心な読者を一定数抱え、影響力がある“読まれているブログ”、すなわち日本版のアルファブログを探すことが目的だった。選ばれたのは、磯崎哲也氏の「isologue」、田口元氏の「百式」、コグレマサト氏の「[N]ネタフル」など。続く2005年末、2006年末にも「アルファブロガーを探せ」は開催され、数十人の“アルファブロガー”が世に紹介されることになった。このとき選ばれたアルファブロガーのリストはここで見ることができる。

 当時個人的なプロジェクトとして「アルファブロガーを探せ」を主催していた徳力さんは、3年間やってきて「もう終わりにしようかな」と考えていたという。「アルファブロガーを探せは、ある意味“頂上の人”を3年間探すプロジェクトでした。その間に、ブログを評価したり、影響力を測ったりする仕組みもいろいろできてきたし、もう終わりにしていいかなと思っていた」(徳力さん)

ビジネス関連も含め、さまざまなジャンルのブログがノミネート

 今年からスタートした「アルファブロガー・アワード」には、「アルファブロガーを探せ」と大きく違う点が2つある。1つは選出基準を変え、ジャンルを広げるように工夫をしたこと。そしてもう1つの違いは、もともとは徳力さんが個人で運営していたところに、シックス・アパートとアジャイルメディア・ネットワークという会社が、法人としてバックアップに付いたことである。

 「アルファブロガー・アワード」では、ブログの選出基準を大きく変更した。まずノミネートされるブログは、今までアルファブロガーとして選ばれてきたブロガー49人が3つずつ新しくブログを選出する形にした。選出にあたっては、これまでのアルファブロガーではネット系、テクノロジー系の話題が中心だったのを、できるだけジャンルを広くすることを意識してもらっているという。一般投票はノミネートされたブログに対して票を投じることができるほか、自由選出のブログも3つ推薦できる。

 ブログ黎明期にはどうしてもネット系、テクノロジー系の内容のものが多かったが、今や、あらゆるジャンルのブログがあると言える状況である。「今回ノミネートされたブログを見ると、とてもジャンルが広く、ビジネス系ブログも多く選ばれています。金融ネタを扱うブログとか、会計士の方のブログとか、ビジネス法務のブログとか。私自身も初めて知るものがたくさんありました」(徳力さん)

もっとジャンルを広げたい

 正直なことを言うと、記者は“アルファブロガー”という言葉があまり好きではなく、使うのにもちょっと抵抗がある。最も数が多いであろう“個人の日記ブログ”や、ニュースクリッピング系のブログを除いても、世の中にはさまざまなジャンルの人気ブログがある。例えば、ファッションやコスメの世界にはカリスマブロガーと呼ばれる人たちがたくさんおり、独特のブログコミュニティができている(別記事参照)。主婦がおいしいレシピを公開するブログもあるし、携帯電話で小説をつづるブログもあるだろう。写真ブログやデザイン系ブログの中にも、熱心な読者を多数抱えるブログはたくさんあるが、そういったブログの書き手が“アルファブロガー”と呼ばれることは、まずない。

 ブログとは情報を発信する手段に過ぎない。ブログを書いている人は老若男女さまざまなはずなのに、“アルファブロガー”と呼ばれる人たちとその周りの世界はあまりにも狭い。アルファブロガーはほとんど全員が男性で、世代的にも限定されているし、話題はいわゆる“テッキー※”なものが中心だ。その狭い世界の中で“あの人はアルファブロガーだ”“アルファブロガーのあの人は影響力がすごい”などとほめあうことは、あまりに視野が狭いと感じていたのだ。

※テッキー(techie)……“technology”の前半を取った米語のスラング。良く言えば技術、特にコンピュータに詳しい人を意味するが、悪くいえば“技術オタク”を指す。

 「(これまでのアルファブロガーは)ジャンルが狭いという自覚はあるんです。確かにテッキーなほうに寄りがちだった。それだけに今回選出されたブログはIT系に寄らないように心がけました。ブログのすべてのジャンルを網羅しているとはいいませんが、これまでに比べれば格段に幅が広がったと思います」(徳力さん)

 振り返れば、「アルファブロガーを探せ」が始まった2004年の時点ではまだ、今(2007年)ほどブログの数はなかったし、ジャンルも少なかった。「2004年と今との最大の違いは、ブログの数がものすごく増えた結果、ジャンルが細分化されたことです。各ジャンルごとに良質なコンテンツを書いている“有名ブロガー”が生まれた結果、テーマごとに、すごく有名なブロガーさんが1人や2人はいる状況にある。その人はそのテーマの中ではとても有名だけど、でも1つ隣のラインに行くと(どんな有名ブログがあるのか)分からない。自分が詳しくないジャンルの話題だと、どこから探していいのかも分からない」(清田さん)

もっとブログアワード企画が増えるといい

 これだけブログが増えた今、年に1度、優れたブログを選ぶ企画は、アルファブロガー・アワードが唯一ではない。例えば「このブログがすごい」「ブログ大賞」といった企画もある。

 「この手のブログ企画はいくつかあるんですが、しかし数年以上続いているものがあまりないのもまた事実です。ブログアワードにはどうしても主催者のカラーが強く出るので、もっと増えてほしいと思っている。アワードが増えるほど、さまざまな切り口で、いろんな優れたブログが紹介されるはず」(清田さん)

 「『これが頂点だ』ではなく『これが切り口だ』くらいじゃないと(アワードは)できないです。読む側にも多様な需要があるはずで、アワードはいろいろ増えたほうがいい」(徳力さん)

 また、ブログサービスを提供している企業がアワードを主催する例も多いが、この場合はどうしても、自社サービスを使っているユーザーのブログだけが対象になりがちだ。アルファブロガー・アワードの場合、そういった“縛り”がないため、幅広いブログがノミネートの対象となる。アジャイルメディア・ネットワークもシックス・アパートも、いずれも特定のブログサービスに寄るものではなく、広くブログ全体の活性化を目指す企業だ。こうしたアワードをバックアップするのがこの2社というのは、たしかにふさわしいと記者も感じる。

アルファブロガー・アワードはブログ界の芥川賞?

 インタビュー中、清田さんが何度も繰り返していたのは「真面目にブログを書いている人が評価される仕組みがあるといいよね」「人気があるよりも、質のいいブログを紹介したい」という言葉だった。

 実際、アルファブロガー・アワードの推薦文を見ていると、「面白いです」ではなく「参考になります」「価値あるブログです」というコメントが多いという。「PV(閲覧数)のような指標では、どうしたって芸能人ブログやエンターテイメント系のブログには勝てないですよね。そういう指標では埋もれてしまうけれど質が高いブログを、PVとは違う軸で選びたいと思っているんです。ブログ界の芥川賞的な、質の高いブログを評価したい」(徳力さん)

 アルファブロガーアワードに選ばれることは、そういう良質なコンテンツをこつこつと生み出し続けるブログのリストを作ることだ、と清田さんは話す。「(アワードの)『リストに入っていることがうれしい』とブロガーの方に思ってもらえたらいいなと思っています。別に賞金が出るわけでもありませんし(笑)。アワードのメインの目的は“いい仕事をしているブログのリストを残すこと”なんです。長くブログを書いていると、ふと徒労に感じられることがきっとだれにもあると思うんです。そういう努力が報われることがあったほうがいい」(清田さん)

 アルファブロガー・アワードでは、誰でも参加できるオンライン投票の結果に、Googleページランクやテクノラティ被リンク数などのオープンな指標を勘案して、最終的に5〜10名前後の「アルファブロガー」を選出する。オンライン投票の期日は12月2日まで、あと2日しかない。あなたが思う“アルファブロガー”に、是非1票を投じてみてほしい。

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