「銀行ばかりに預けてはいけない」――勝間和代氏の考え方(中編)ベストセラーの著者が語る(1/2 ページ)

» 2008年03月07日 11時35分 公開
[フィナンシャルリッチ特集取材班,Business Media 誠]

勝間和代(かつま・かずよ)

東京都生まれ。経済評論家(兼公認会計士)。早稲田大学ファイナンスMBA、慶應義塾大学商学部卒業。当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得した後、アーサーアンダーセン(公認会計士)、マッキンゼー(戦略コンサルタント)、JPモルガン(ディーラー・証券アナリスト)を経て、独立。会計・ファイナンス及び少子化・ワークライフバランス問題に特に強みを持つ。2005年、ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の注目したい50人の女性」に選出されたほか、2006年、エイボン女性大賞を最年少で受賞。ブログ:私的なことがらを記録しよう!!


勝間和代氏に学ぶ、金融リテラシーの基本7カ条とは? (前編)

 「金融知識を持たなければ、ゲームのルールを知らずに試合をしていることと同じようなもの」という勝間和代氏は、金融リテラシーつまり金融の情報や知識を主体的に読み解くことの必要性を強調する。そして金融リテラシーを身に付ける一歩として、「分散投資」を挙げるが、これはどういう意味なのだろうか?

 分散投資とは自分の金融資産を複数の種類に分けて保有することを指す。投資の初心者の中には「どの銘柄が上がりそうですか?」「最初は投資信託から買えばいいですか?」といった質問をする人がいるが、勝間氏は「株式や債券などのリスク資産をどのくらいの割合で持つかということが大切です」という。

“なんとなく預金”は大きなリスク

 しかし日本人の金融資産を調べると、リスク資産の保有割合が低い。金融資産の50%以上は預貯金で占められているのに対し、株式の保有比率は8.5%、投資信託は6.2%に留まっている。前編でも触れたように、株式や債券で運用すれば統計上、年4.5%〜6.5%の利息が付く。一方で銀行の定期預金に預けても、金利は年0.4%程度。つまり銀行にお金を預けるか、株式や債券に投資するかで、自分の資産を増やせる可能性が増すのだ。

 銀行に預金を預けていれば、わずかな利息しか手にすることができない。それを分かっていて定期預金などに預けるということは「金融理論上、機会損失に当たります」と指摘する。機会損失とは何らかの利益を得るチャンスがあったにもかかわらず、自らその利益を手にしないことを意味する。

 例えば原油価格などの高騰を受け、生活必需品の値上げが相次いでいる。自衛策として10円でも安いスーパーで、買い物をしようと心がける消費者は多い。10円や100円でも安い買い物をすることは大切だ。しかし金融商品のことをじっくりと考えず、“なんとなく預金”をしていることは「手にできるお金を失っていて、しかも大きなリスクであることを認識してください」と話す。

リスクとリターン、“両にらみ”することが大切

 それでも「投資」と聞いただけで、“怖い”といったイメージを持つ人は多い。「自分が持っている株の価格が大きく下がった。株なんて買わないほうがいい」といった人が周囲にいれば、投資に対して警戒心を抱くのも当然かもしれない。ただ銀行預金と違って、株式や債券の価格は下がることも上がることもある。「下がる=損をする」痛みは精神的なダメージが大きいために“リスク回避型”となってしまうのだろう。

 そこで発想を変えてみてはどうだろうか。一般的に株価というものは、企業の利益や成長性、相場などで決まってくる。これに加えて「リスクプレミアム」と呼ばれる“おまけ”が付いてくるのだ。例えば定期預金にお金を預ければ、確実に金利を手にすることができるが、株式や債券に投資すれば利益は変動する。しかし中長期で平均すれば、定期預金の金利に加え、4〜5%のおまけ(利息)が付く――これをリスクプレミアム※という。「この仕組みを理解すれば、株式や債券に投資すると中長期的には利益を手にすることができる、ということが分かる。そうすれば株式や債券を購入することは、怖くなくなるでしょう」

※リスクプレミアム:一般的にリスクが小さい銀行預金と、リスクが大きい株式が同じ利益であれば、銀行預金を選択する。そのため投資家がリスクの大きい株式に投資を行うようにするためには、リスクの小さい銀行預金よりも利益が上回ることが必要となってくる。

 かといって銀行に預けている預金を「解約するべき」「いますぐ株式に投資!」というわけではない。「金融商品を選ぶ際に注意することは、どの程度のリスクを取れば、どれくらいの利益が期待できるかということを、“両にらみ”することが大切です」という。

定期預金と国債、どちらがお得なのか?

 ここで定期預金と個人向け国債(国債)、どちらがお得かを考えてみよう。国債とは日本国が発行していて、半年ごとの利息や満期時の元本を約束している金融商品だ。

 例えばA銀行のスーパー定期(300万円未満)の金利は5年もので年0.6%、これに対し国債を5年間預けると年0.887%(2008年2月現在)。2つの金利の差は0.287%。「たった0.287%の差しかないのか……国債なんて買ったことがないので、これまで通り定期預金を継続しよう」と考えていては、金融リテラシーを身に付けるのは難しいだろう。

 まずはA銀行と日本という国を比べた場合、どちらが安全だろうか? 当然、私企業であるA銀行よりも日本のほうがリスクは小さい。にもかかわらず、国債のほうが利息が高いことに注目してほしい。国債のほうがリスクが小さいのに利益が大きいことを考えると、定期預金に預けることが機会損失といえることが理解できるだろう。

 「金利に関しては、銀行の定期預金を基準にして考えるべきではありません。国債の利回りと比べ、その金融商品が割高か、それとも割安かを判断するべきでしょう」と指摘する。つまり銀行の金利と、国債の金利が違うということを確認することが大切で、「こういった訓練を積み重ねることで金融リテラシーを高めていくことができます」

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