「裁判所に来て下さい」――米国で陪審員に選ばれたロサンゼルスMBA留学日記

» 2008年03月17日 15時12分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 ある日、裁判所から一通の手紙が届いた。タイトルを見ると、「召喚状」(Summon)という恐ろしげな文字が書いてある。

 「誰かから訴えられたか、あらぬ犯罪の疑惑をかけられたか?」――と慌てふためいたが、実はこれは取り越し苦労。なんのことはない、「陪審員」候補に選ばれたので「裁判所にお越しください」という書類だった。

 もっとも、陪審員に選ばれたこと自体もよく考えれば一大事だ。何の法律知識もない日本人が、米国の裁判官と一緒になって事件を裁くプロセスに関わってよいものだろうか。また、召喚命令を拒むことは可能なのだろうか。関わるとすればどのような手順を踏むのか。

 陪審制度をめぐっては、日本でも司法制度改革に伴い、2009年から裁判員制度の開始が予定されている。いい機会なので、米国ではどのような状況なのか身の回りの人間に聞いてみた。

※本稿では必要書類を確認した上で米国の陪審制度を紹介していますが、州によって制度の細部が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

陪審員の給料、1日15ドル

 そもそも今回、なぜ陪審員候補に選ばれたのか、これは完全なランダムチョイスによるものらしい。召喚状に同封された制度の説明書類を読むと、「運転免許保持者」「選挙資格保有者」などから当局が保有するリストを取得し、ランダムに召喚状を送付しているという。筆者はカリフォルニア州が発行する運転免許を取得したから、そのときにリストに名前が加えられ、今回に至ったわけだ。

 周りに聞いた限りでは、相当数の学生が過去にこの召喚状を受け取ったことがあるらしい。5〜6人に聞いただけだが、召喚を受けたことがないのは1人だけだった。米国では珍しくない経験なのかもしれない。

 とはいえ、実際に有罪/無罪の判断に関わった人間となると数が限られている。召喚状を受け取った段階では“候補”に選ばれただけで、実際の裁判員になったわけではない。裁判所に行き、全員が集合した後で、そのうちの何人か(経験者の話によると12人)が陪審員として呼び出されるという。選ばれなかった人間はその場でお役ご免、「帰っていいよ」ということになる。

 友人によれば、朝早く出廷してから陪審員選びに移行するまでの時間が長かったという。「何もせず8時間も待たされた。いつ裁判官に呼び出されるのか分からず、万が一呼ばれたときにトイレに行っていると『出廷しなかった』と思われるかもしれないので、トイレに行くタイミングが非常に難しかった」と話す。

 最終的な12人の陪審員に、選ばれかけた学生もいた。選ばれかけた――というのは、一度選ばれても裁判官などが協議した上で「この人間は陪審員に不適格だ」と判断されると、やっぱり「陪審員にならなくてもいい」と言われることがあるため。この学生は「いやー、まったく危ないところだった」と語っていた。どうやら本音では、裁判に関わりたくなかったらしい。

 陪審員は審議に関わることで、きちんと給料(謝礼というべきか?)をもらえる。同封書類によれば、1日15ドル。2日間の裁判なら、30ドルだ。裁判の長さは事件によるが、たいていは2、3日〜1週間の長さに収まるという。なお、ほかに交通費として、裁判所からの遠さに応じて1マイルあたり34セントが支払われる。裁判員に選ばれなかったら、交通費だけもらって帰ることになるわけで、8時間待った友人は「数十セントもらって終わり。大切な時間を無駄にした」と毒づいていた。

召喚命令を無視すると、罰金1500ドル

 陪審員になるというのは、国家の中でも“司法”という重要な機能に一般市民が直接関わることができる、いい機会だ。とはいえ時間がかかり、かつ薄謝だということで、多忙な人間は陪審員になるのを「断りたい」と思うのかもしれない。だが、召喚状を受け取ったにも関わらずそれを無視して、何のリアクションもおこさないでいると、罰金を受ける。書類によると金額は最大で1500ドルとなっており、約15万円(1ドル=100円)にあたる。

 もちろん、正当な理由を付けて断ることはできる。健康面に不安のある者は、医師の診断書があれば陪審員になることを免除されるようだ。また、身近な人間を1日中ケアする必要のある者などは、その旨申し立てれば出廷を断れる。

 「ちょっと忙しいので……」というのは、やはり理由としては弱い。同封書類には「あなたの雇用主は、あなたが陪審員として働くことを認めなければなりません。これは法律で決められたことです」と書いてあり、「ちょっと職場を抜けられなくて……」という言い訳は使いづらい。ただ、多忙な人間は理由を見つけて断るという話もあるので、実際のところはよく分からない。

 ここまで書いてきたが、結局のところ筆者はどうしたか。実は、裁判所には行かなかった。というより、行けなかった。よくよく調べてみると、米国市民権のない者は、陪審員になる資格がない。何のことはない、そもそも陪審員になろうと思っても許されていなかったのだ。それなら「日本からの留学生に召喚状を送るなよ」と言いたくもなるが、完全なランダムチョイスで陪審員を選んでいるので、仕方がない部分もあるのかもしれない。

 ともあれ、今回の一件で多少なりと米国陪審制度に触れることができたのは有意義だった。知ることは、興味につながる。2009年5月までにスタートする日本での裁判員制度にも、興味をもって接していきたい。

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