山車復活(や例大祭の革新)は、神社革新であると同時に赤坂の街おこしであり、まさにWin-Winを指向していた。さらに言えば、今春の赤坂サカスへの山車の巡行は、赤坂の街と赤坂サカスのWin-Winへの第一歩であった。
Win-Winを実現する上で難しい点は、効用のバランスである。こちらは、そのつもりで提案していても、相手からすれば、自分たちのメリットの方が薄いように見えることも多い。立場が変われば、物事の見え方も自ずから変わってくるからだ。その点で、恵川氏のバランス感覚は絶妙だったのだろう。
9年間に及ぶビジネスの現場での体験がここに生きている。神社はこうあるべし、街おこしはこうあるべしという大局的・経営的視点はすべての前提として必要だが、それだけで物事を成就させることはできない。「些事に神宿る」と言われるように、一見取るに足らないような現場レベルでのささいな環境変化の中にこそ、物事の本質、ないしは問題解決への糸口が隠れている場合は多い。そうした変化を敏感に感じ取り、即応してゆくことで初めて、大局的視点も生きてくる。
こうした大局的視点を鳥瞰図的視点、現場レベルの些細な環境変化から本質を読み取る視点を虫瞰図的視点と呼ぶが(図表参照)、恵川氏は、その両者を両立させたからこそ、Win-Winのバランスを実現し得たのではないか。
日販で、いくつかのタイプの異なる現場業務に従事していた恵川氏。そこでの体験の数々は、彼に現場の業務プロセスというものを骨の髄まで叩き込んだ。それが結果として彼を、経営的な鳥瞰図的視点と現場的な虫瞰図的視点の両立した戦略経営タイプへと成長させたと言えるのではないだろうか?
鳥瞰図&虫瞰図的視点の両立によるWIN-WINの実現と並んで、恵川氏の組織抵抗克服を促進した要因――それは、Swan Cycle型アプローチ(参照記事)であった。
WIN-WINを巧みに仕掛けるにしても、その提案内容にハッとするような驚きや魅力がなければ、人を動かすことは難しい。
気がつきそうでいて、しかし誰も気がつかなかったような斬新なアイディアは、それに接した瞬間「自分が今までずっと欲しかったのは実はこれだったのだ!」と思わせるようなトキメキを感じるものだ。そして実際にそのアイディアが実現した時、人は深い感動に身を浸す。
レストランウェディングとのアライアンスにも、例大祭の革新、あるいは江戸型山車の100年ぶりの復活巡行にも、そうした“トキメキ”や“感動”が存在している。
いずれの場合も、恵川氏ならではの独自で、他の人とは全く異質な、そして、今までにはなかった新規なSeeds(シーズ、種)を、顧客層のWAnts(ウォンツ、潜在欲求)へと訴求することで、トキメキを喚起し、WantsをNeeds(ニーズ、顕在欲求)へと転換させ、そこで生じる感動が、それら新規プロジェクトの爾後の発展を決定づけている。まさに「SWAN Cycle型」アプローチ、ヒット商品創出のセオリーを、地で行っているといえよう。
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