ネットカフェ難民が“住居”を失った理由

» 2008年05月26日 07時34分 公開
[Business Media 誠]

 厚生労働省によると、住居を失いネットカフェやマンガ喫茶などで寝泊まりしながら不安定な仕事を続けている、いわゆる“ネットカフェ難民”は、全国で約5400人に上ると推計される。またここ数年、日雇い労働者向けの簡易宿泊所が密集している大阪のあいりん地区に、日雇い経験のない若者が増加傾向にあり、特にネットカフェを“住居”にしている人が増えているようだ。

 NPO釜ヶ崎支援機構は、ネットカフェなどを寝泊りの場所として利用している100人を対象に聞き取り調査を行った。調査場所はネットカフェまたは漫画喫茶(43人)、自立支援センター(41人)、NPO釜ヶ崎支援機構(11人)、ファストフード店(5人)。調査時期は2007年6月から12月まで。

ネットカフェ難民の実態

 「ネットカフェ難民」と聞くと、年齢は10代後半〜20代前半、日雇いの仕事に就き、ネットカフェで寝泊まりしている若者を想像するが、これはマスコミによって流布されたイメージであり、実態とは異なるという。

 調査に協力した65人の内訳を見ると、30〜34歳が20人で一番多く、35〜39歳が14人、25〜29歳が12人。20歳代後半〜30歳代が中心であることが分かる。40歳以上も13人おり、このうち7人は50歳以上だ。

 彼らがネットカフェなどを住居にしている原因は何だろうか。最も多かったのは「失職し、住み込み先を出なければならなくなった」で35%、次いで「失職し、家賃を払えなくなった」(29%)、「日雇派遣または非正規で働いていたが家賃を払えなくなった」(20%)ということが、NPO釜ケ崎支援機構の調べで分かった。

 日雇派遣または非正規で働いていたにもかかわらず、なぜ住む場所を失ったのだろうか。「仕事の準備をして出かける前に『今日は(仕事が)なくなりました』と突然言われる」や「少ないときは週2〜3回、多いときは週6日と仕事にばらつきがある」といった意見があった。また日給は6000〜9000円が多かったが、交通費や作業着代などを天引きされるケースが目立つ。仕事が不安定なために就労日数も少なくなり、働いても1日の収入は数千円。低賃金の上に交通費なども出ないため、野宿などを余儀なくされるケースが多いようだ。

 例えば日雇派遣で働く、ある20代後半男性の場合。彼は現在、家賃3万8000円のワンルームマンションを借りているが、昨年の12月末ごろから家には帰らず、ネットカフェでの生活になったという。彼が仕事で得られる日給は6000〜7000円、月に約20日勤務しており、月の収入は約13万円。支出は、家賃が3万8000円、食費が約4万円、ネットカフェの宿泊費が約1万円、携帯電話代が約2万円、その他ゲーム・雑誌代が約1万円。毎月ぎりぎりの生活をしており、貯蓄もほとんどない。彼がネットカフェ生活を始めた理由は、奈良・京都方面の仕事が増えて家まで帰るのがつらいためだという。

(出典:NPO釜ケ崎支援機構)

給料から寮費などが引かれるため、アパートを借りるのが困難

 何らかの理由で仕事を失い、住み込み先を出なければならなくなった人の日給は、8000〜1万円(深夜勤務含む)が相場。ただ寮費などが差し引かれるため、自分でアパートを借りることは困難な状況にあるようだ。住込みで新聞配達をしていた人からは「配達、集金、勧誘の仕事をすべて行い、研修期間のうちから誤配率3%未満、集金率も97%達成しないと給料が出ない」といった意見があった。また「(自動車メーカーで)2年11カ月期間工として働いた(最高でこの期間しか働けない)。戻りたくても、辞めてから半年たたないと戻れない」との声もあった。

 寮といっても個室ばかりではなく、3LDKに3人、2LDKに2人といったケースもあった。このため「人間関係の問題も生じ、それが早期に仕事を辞めて派遣会社の寮を出る要因になっている場合もある」(NPO釜ケ崎支援機構)

 大阪市立大学の島和博教員は「1990年代の中頃から社会問題化した『ホームレス問題』は、豊かな社会の“終わりの始まり”であった。10年以上経過した現在、もはやかつての分厚い中間層は存在しておらず、社会の安定も不確かなもにとなるだろう」と見ている。

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