「環境負荷の軽減」と「安全性の飛躍的な向上」。この2つは、21世紀に自動車産業が生き残る上で、避けて通れない重要なテーマになっている。特に今年に入ってからは原油価格の高騰も手伝い、EV(電気自動車、参照記事)やプラグインハイブリッド車(参照記事)など、クルマの環境技術への注目がエコロジーとエコノミーの両方で高まっている。
しかしその一方で、交通事故による負傷者・死亡者のさらなる低減も急務だ。クルマが“安全で賢い乗り物”になるために、今、どのような取り組みが行われているのだろうか。
今日の時事日想は特別編として、8月8日に日産自動車が行った先進技術の試乗会から、同社の“ぶつからないクルマ”実現に向けた先行開発の最新事情を紹介する。
クルマの安全技術は、大きく2つの領域にわけられる。
1つは「パッシブセーフティ」と呼ばれるもので、事故発生後に乗員や衝突相手のダメージを軽減し、生存率を上げるための技術だ。例えば、クルマが衝突エネルギーを緩和するように“効果的に壊れる”衝突安全ボディなどは、この代表といえる。
そしてもう1つが、事故を未然に防ぐための「アクティブセーフティ」である。こちらはレーダーや各種センサー、車載コンピューター(ECU)を使って危険を感知。ドライバーへの警告やクルマの安定走行支援、事故直前には自動的にブレーキをかけるなど、様々な機能で事故そのものを防ぎ、事故のダメージを少なくするための働きをする。現在、重要視されている「ぶつからないクルマ」の礎となるのが、このアクティブセーフティ分野の技術だ。
そのような中、日産自動車は独自の先進安全技術のコンセプトとして、「セーフティシールド」を掲げている。これはクルマの全方位をカメラやセンサーが監視し、危険な状況が近づくとドライバーに警告したり、緊急時にはコンピュータが危険回避支援や事故ダメージ軽減の走行介入を行うというもの。“見えない繭のように、クルマを安全支援システムが取り囲む”というビジョンだ。
セーフティシールドは予防安全技術の複合体であり、そのなかのいくつかはすでに実用化・販売されている。今回の技術説明会で紹介されたのは、車線変更時の運転支援システム「サイド コリジョン プリベンション」と、後退時の運転支援システム「バックアップ コリジョン プリベンション」だ。これらはクルマの斜め後ろから後方にかけてをミリ波レーダーによって監視し、衝突危険要因が接近すると警告するというもの。ミラーの確認や目視では死角になりやすい“斜め後ろ”をサポートしてくれるセンサーの眼である。
なかでも特筆すべきは、車線変更時に斜め後ろから接近するクルマやバイクを検知し、衝突を未然に防ぐサイド コリジョン プリベンションだろう。類似したコンセプトの先進安全装備としては、ボルボの死角情報システム「BLIS(ブラインドスポットインフォーメーションシステム)」などがあるが、日産のサイド コリジョン プリベンションはそれよりさらに1歩踏み込んで、危険を検知した後のインフォメーションの出し方にもこだわっている。
具体的には、サイド コリジョン プリベンションが斜め後ろから接近するクルマを検知すると、Aピラー※車内側に設置されたインジケーターが警告音とともに明滅。さらに車線に近づいていくと、横滑り防止装置である「ESC(エレクトロニックスタビリティコントロール)」が各タイヤのブレーキを個別制御し、接近するクルマに近づけないようにするヨーモーメント※※を発生させる。もっと感覚的にいうと、危険が接近する車線に出ないように“やんわりと押し戻す”ような運転感覚を、クルマがドライバーに与えるのだ。
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