あるがままの生き物の世界を――ビオトープで自然に親しむ松田雅央の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年09月02日 11時54分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」


 「ビオトープ」という言葉をご存知だろうか。自然を再生してホタルを呼び戻した川、昆虫や野鳥が棲みやすいよう工夫した庭、あるいは小学校に作られたトンボの飛ぶ池(下写真)などのことで、日本でも見聞きする機会が増えている。

 ビオトープはギリシャ語の「Bios(生命)」と「Topos(場所、空間)」を組み合わせたドイツ語の造語で、固有の生態系が保たれた空間のことを指す。この言葉が生まれた19世紀の終わり、ドイツでは工業化と都市化が急速に進行していた。そのため、深刻な環境破壊が引き起こされており、それがビオトープという考え方の生まれる背景となったのだ。

 ビオトープをあえて日本語に訳せば「生き物の棲むところ」となるが、これだと範囲が漠然としていて、どうもイメージがつかみにくい。広くとらえれば「地球」や「海洋」もひとつのビオトープといえるし、「1本の街路樹」(下写真)にも鳥や昆虫の生態系があり、「木の葉の表面」にも昆虫・細菌が生息している。変わったところではポケットに入れた「ハンカチ」や「ツメの垢」にも微小生物の生態系はあり、さらにコンクリートとアスファルトに覆われた大都会でさえもビオトープと言えるだろう。

 ただ、実際はある程度限定された空間を指し、例えば「水辺のビオトープ」「森のビオトープ」「草原のビオトープ」のように使われることが多い。今回はビオトープを「地域の自然環境に適した動植物が特定の生態系を保っている空間」と定義。身近な自然の大切さをアピールし、自然に親しむためのキーワードとしてドイツ社会でどのように使われているかを探ってみたい。

学校の庭に作られたビオトープの池(左)、プラタナスの街路樹(右)

街の貴重な緑地

 前回取り上げた屋上緑地(下写真)や壁面の緑もれっきとしたビオトープだ。

 ドイツの都市は日本の都市に比べ緑に恵まれてはいるが、それでも緑地の確保は切実な問題とされている。たとえ規模は小さくとも屋上緑地は貴重な街の緑、そして昆虫や野鳥の貴重な生息空間になっているからだ。

 屋上緑化を手がける施工業者から「屋上緑化は簡単だよ。土壌を敷くだけ!」と聞いたことがある。さすがにそれほど簡単ではないと思うが、確かに小石や軽量土壌を敷いた屋上緑地は至るところに見られ、気軽に行われている様子が分かる。工事後、何も植えずに風や鳥の運んでくる種の根付きを待ってもいいが、セダム類など目的とする植物の苗を植えるほうが緑地の安定は早い。

 日本でこういった屋上緑化をする場合、台風の時などに、強い風に土壌が飛ばされない工夫が必要になりそうだ。また、ドイツと同じようにセダム類を植えたところ、夏場の暑さと乾燥は大丈夫だったが、梅雨の長雨で根が腐ってしまったという話を聞いたことがある。当然、ドイツにはドイツの、日本には日本のビオトープがあり、その土地特有の自然環境に合わせて工夫しなければならない。

屋上緑地に咲く花
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