どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(3)東京エリア編その2近距離交通特集(3/4 ページ)

» 2008年10月17日 23時11分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

【20】京浜急行電鉄空港線と東京急行電鉄目蒲線を短絡する路線の新設

蒲蒲線の概要

 東急の蒲田駅と京浜急行の京急蒲田駅を結ぶ路線だ。2つの蒲田駅は約600メートル離れている。2つの蒲田駅を結ぶことから蒲蒲線と呼ばれる。計画では東急多摩川線を地下化してJR蒲田駅を潜り、京急蒲田駅、さらに大鳥居駅まで延伸する。大鳥居駅ではホームの配置を工夫し、京急空港線に乗り換えしやすくする。18号答申では東急目蒲線となっているが、これは答申作成後、東急が目蒲線を目黒線と多摩川線に分割したためだ。

蒲蒲線の現状

 地元では昔から2つの駅を結ぶ電車ができたら蒲蒲線だ、という冗談が交わされていた。東京都大田区ではかねてより蒲田付近を活性化させる案として、両蒲田駅を結ぶ鉄道整備を検討していた。1989年にその検討結果を「大田区東西鉄道網整備調査報告書」として発表した。しかし、計画はそれ以上進まなかった。全区間が地下駅になるため建設費がかさみ、費用対効果の面で慎重になっていたのだ。

 計画が動き出した理由は、1998年11月に京急空港線が羽田ターミナルに乗り入れる見通しが立ったからだ。蒲蒲線を「大田区東西交通」だけではなく、京急空港線大鳥居駅へ接続することで、羽田空港アクセス路線の役割を持たせる。首都の空港アクセス路線となれば、国の支援も得やすい。

 そこで大田区は2002年から2004年まで基礎調査を実施し、蒲蒲線整備計画素案をまとめた。国も都市鉄道調査などを通し検討を重ねた。その結果、多摩川線−目黒線−東横線−地下鉄副都心線経由で、東武鉄道や西武鉄道沿線からも羽田空港アクセスするメリットが見えてきた。蒲田駅の開発は蒲蒲線に配慮したものとなった。例えば、現在の大田区役所は民間企業の建物を購入したものだが、この建物の地下には蒲蒲線のための空間が確保されたという。

 2005年8月には「都市鉄道等利便増進法」が施行された。これは「蒲蒲線」の整備手法の裏付けともなる制度で、整備事業費の3分の2を国と地方自治体が補助できる。補助を受けた鉄道整備主体は、残る3分の1を借入金などでまかなう。蒲蒲線が大田区主体の第三セクターで建設された場合は、初期投資資金は必要資金の3分の1となり、金利が経営を圧迫しない形を作れる。

 以上で建設費がまかなえるため、乗り入れる東急と大鳥居駅を改造する京急の負担は小さい。大田区としては早急に建設計画と経営計画をまとめて、都市鉄道利便増進事業の適用を国土交通省に申請する必要がある。現在の進ちょくは以上で、この後の動きはない。

 大田区の整備計画素案によると、東急多摩川線の矢口渡駅−蒲田駅間から単線を分岐し、現在の蒲田駅地下に単線の駅を造る。同じホームで乗り換えられる形で単線を敷設し、京急蒲田駅、大田産業プラザ付近に南蒲田駅を造る。南蒲田駅は列車のすれ違いが可能な配線とする。さらに単線を延ばし、京急空港線に合流し大鳥居駅に至る。18号答申案では東急多摩川線を延ばし、大鳥居駅で接続する形になっている。しかし大田区案は蒲田新駅での接続となった。これはコスト的にも運用的にも、かなり現実的な提案だ。

 もともと多摩川線と空港線は線路の幅が異なるため、直通させるためには空港線を3線式または4線式※に改良するか、線路幅を可変できるフリーゲージトレインを開発する必要がある。直通できたとしても、京急は車両が18メートルで、それを前提とした路線設計だから、東急、東武、西武側の20メートルクラスの車両は入れない。本当は全区間直通が望ましいが、現実的にはどこかで同じホームで乗り換える必要がある。

※3線式、4線式……線路のレールをそれぞれ3、4本使う方式

 大田区案は乗り換え駅を蒲田地下駅に設定し、ここから東側を京急の別線という位置づけとした。これなら大鳥居駅から先、空港まで列車を運行できる。東急池上線やJRから蒲蒲線に乗り換える客が、乗り換えなしで空港へ行ける。18号答申案では利用者全員が大鳥居駅で乗り換えなくてはいけない。また、多摩川線が大鳥居駅へ延びることで京急の利益が脅かされる。これでは京急の協力を得にくい。

 蒲蒲線は全区間が地下となる。そのため建設コストが膨大で、短距離路線としては回収が難しい。そこで都内の新規路線計画としては異例の単線整備とした。運行計画では蒲蒲線を1時間あたり6本、目黒線、東横線直通列車を1時間あたり4本と見込んでいる。

 蒲蒲線計画は設備投資の主体が大田区であり、運行会社となる京急と東急には負担が小さい。都市鉄道利便増進事業が適用されれば、すぐにでも工事が始まりそうだ。ただし、大田区の目論見通りに東武、西武からの乗り入れを行うとすれば、東急は多摩川線を改良する必要がある。多摩川線は4両編成が限界だが、目黒線・東横線の乗り入れ車両は10両や8両である。多摩川線のホームを延長するか、多摩川駅で列車を分割する必要がある。多摩川線内をノンストップで走らせてもいい。しかし、その場合は多摩川線内に追い越し設備を造る必要もあろう。まずは多摩川線のみの運用で開通させ、改良工事は様子を見ながらという形に落ち着くのではないか。

 羽田空港アクセス路線は蒲蒲線の他にも、JR貨物の線路を活用する案、川崎からのアクセス案などがある。JR京浜東北線と空港アクセスという面で見ると、蒲蒲線は川崎エリアからのアクセスも容易である。大田区案はかなり現実的なアイデアだと言えそうだ。また、負担は3分の1とはいえ、大田区にとっては大きすぎるという意見もある。事業主体としては大田区、東急、京急が第三セクターを設立する形になるだろう。その上で、大田区の負担を減らすための京急や東急との連携が注目される。

南蒲田(京急蒲田付近)から大鳥居駅までは、京急空港線の北を通るルートと環状8号の地下を通るルートが検討されている

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.