2000年に策定された「運輸政策審議会答申第18号(以下、18号答申)」で描かれている首都圏の鉄道構想を追っていく連載記事の3回目。今回も前回に引き続き東京エリアを取り上げる。
→どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(2)東京エリア編その1
→どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(最終回)成田新線・新交通編
タイトルに付いている【数字】は18号答申で振られている数字を示す。また、「○○の現状」では筆者の所感を多分に含んでいることをご承知願いたい。地図はGoogle Mapsより引用し、将来どのように鉄道が走るかを大まかに示した。
東急大井町線を延長する形で田園都市線の二子玉川−溝の口間を複々線化する。合わせて大井町線を改良し急行運転を実施する。将来的には鷺沼まで複々線化する計画である。本記事では大井町−溝の口間までを紹介する。
東急田園都市線は、東急グループが開発した多摩田園都市エリアと都心を結ぶ路線だ。沿線開発の進ちょくに合わせて延伸し、順調に輸送量を増やしてきた。地下鉄半蔵門線に乗り入れてますます便利になり、沿線開発は成功し発展し続けている。
しかし、皮肉なことに通勤通学客数が田園都市線の限界を超えてしまった。延伸が中央林間駅に到達したところで、今度は小田急江ノ島線からの乗り換え客が流入した。田園都市線の乗客は、2025年まで増加し続けるという予測もある。
10両編成の列車を2分おきに走らせても混雑は収まらず、乗降時間が延びて遅延が常態化する。定時性を確保するため、東急は田園都市線の朝ラッシュ時に、二子玉川−渋谷間の地下区間で急行運転を取りやめた。「都心まで○分」というキャッチフレーズは不動産開発では重要、鉄道路線のブランド力向上にもなる。それを取りやめるのは、東急にとって苦渋の決断だったはずだ。ゆえに、早急な輸送力増強が必要である。
東急の本心は田園都市線自体の複々線化にある。しかし、二子玉川−渋谷間は地下路線であり、この区間を複々線化するには膨大な資金が必要になる。用地問題も深刻で、複々線化するとしても新線は地下深くになる。谷底地の渋谷のさらに地下深くでは、地上へアクセスしにくくメリットは少ない。そこで東急は、二子玉川駅から分岐する大井町線の輸送力を上げ、田園都市線の利用客を大井町線に誘導する計画を立てた。
大井町線の改良計画は、旗の台駅、等々力駅に追い越し設備を設けて急行運転を行うことを目的とする。これに受け皿となる大井町駅のホーム拡幅、自由が丘駅の乗り換え導線の改良が加わる。さらに線路を延長し、田園都市線の溝の口駅まで複々線化する。田園都市線の乗客の何割かが、溝の口駅または二子玉川駅で大井町線に乗り換えることになる。
大井町線に流れた乗客は、大岡山駅の同じホームで目黒線の目黒行き、旗の台駅で池上線の五反田行きに乗り換えられる。大井町駅で京浜東北線に接続する。東急にとってこの計画は、「田園都市線で渋谷駅に行き、そこから山手線の五反田、目黒、品川方面に乗り換えるお客を、ごっそりと大井町線にいただく」算段でもある。そのためには大井町線のスピードアップと、大井町線へ乗り換えやすくする導線の開発が必要だ。
急行運転開始は2004年を予定していた。しかし進ちょくは遅れ、やっと2008年3月から大井町線で急行運転が始まった。旗の台駅の追い越し設備は完了したが、等々力駅が未着手のままだ。等々力駅は地下化して急行通過設備を設ける予定だが、沿線住民から等々力渓谷の環境悪化を心配する声が上がったため工事が始められなかった。東急では等々力駅の工事について「等々力駅地下化工事技術検討会」を設置し、識者を交えて住民との話し合いを行っている。検討会は2005年12月に、地質調査やシミュレーションの結果を元に、地下水に影響を与えない工法についての報告書を提出した。しかし、その後の話し合いがもたれた様子がない。そこで東急は急きょ、上野毛駅の上り線に通過線を設置して、なんとか急行運転にこぎつけた。ゆえに大井町線は予定していた性能を発揮できていない。
一方、溝の口方面の延伸は順調に進んでおり、2009年6月に完成する予定だ。大井町線は溝の口駅発着となる。複々線の途中の高津駅と二子新地駅は内側が通過線となる。これは列車種別ごとに使い分ける予定で、大井町行き、渋谷行きとも停車列車と通過列車が設定されるとみられる。線路の構造上、大井町線はさらに田園都市線方向へ乗り入れ可能だ。しかし、10両編成でさばききれない区間に、通勤時間帯に6両編成の大井町線が入ることは無いだろう。その後の動きは大井町線の等々力駅完成を待つことになる。
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