前回までは、「運輸政策審議会答申第18号(以下18号答申)」で、「2015年までに整備を検討すべき路線」について紹介した。18号答申ではほかにも「今後整備について検討すべき路線」として挙げられた路線がある。
「検討すべき」という指針の結果として、とりあえず検討だけされた路線、検討したが廃案になった路線、具体的に動き出した路線がある。そこで、今回は未来編として「今後整備について検討すべき路線」の短信や、具体的な動きが出てきそうな路線を紹介する。
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相模鉄道いずみ野線を現在の湘南台駅からJR相模線方面へ延伸する計画である。現在、神奈川県が中心となって、湘南台駅から倉見駅までの交通整備が検討されている。
相模鉄道いずみ野線は横浜市の二俣川駅で相模鉄道本線と分岐し、藤沢市の湘南台駅までを結ぶ11.3キロメートルの路線だ。ほぼすべての列車が二俣川駅から相模鉄道本線に乗り入れ、横浜駅まで直通する。
いずみの線の沿線は緑園都市やいずみ野、湘南台などの大規模ニュータウンがあり、横浜方面への通勤通学輸送を担う。また、湘南台駅で小田急江ノ島線に接続しており、小田急江ノ島線や小田急本線から横浜へ連絡する役目もある。
本来、いずみの線は湘南台駅の先へ延び、慶應義塾大学藤沢キャンパス、JR相模線寒川駅付近を経由して、JR東海道本線平塚駅を結ぶ計画だった。相模鉄道では鉄道敷設免許も取得している。この計画は1966年に策定された運輸政策審議会答申第9号に盛り込まれていた。
整備の理由は当時、輸送量が飽和しかけていたJR東海道本線を補完するためだった。しかしその後、品川−鶴見の貨物線がJR横須賀線として旅客化され、第9号答申で目指した東海道線の輸送力を補完する必要が薄れたこと、またバブル景気によって建設予定地が値上がりしたことで計画は停滞した。
この計画は神奈川県内の新幹線新駅構想のおかげで、再び注目された。神奈川県はJR相模線の倉見駅付近に東海道新幹線の新駅を誘致し、周辺道路の整備も含めた衛星都市「ツインシティ」の整備計画を2000年に策定した。その整備計画の一環として、東海道新幹線倉見新駅と横浜方面へのアクセス路線として、いずみの線の新しい延伸計画が位置付けられた。
新計画では湘南台駅から慶応大学藤沢キャンパスまでは旧計画のままとし、そこからは当初の計画を変更し、真西へ延伸して倉見新駅を結ぶ。高速鉄道は整備費用が大きくなるため、相模鉄道単体ではなく、周辺自治体も参加した第三セクター方式として検討されている。
ただし、2007年5月に神奈川県によりまとめられた新計画では、相模鉄道いずみ野線の延伸に固執せず、同ルートをLRT※で結ぶ案も合わせて検討していく。これは建設費用面でのメリットを重視したと思われる。また、倉見新駅と横浜駅の移動なら、新幹線で新横浜駅を経由したほうが速くなる。JR相模線の茅ヶ崎駅乗り換えのほうが到達時間が早い。ゆえに新延伸ルートには横浜駅と連携する意味が薄いという判断もあるようだ。
確かにLRTのほうが建設コストが安い。新計画の開業40年間の見通しによると、LRTは黒字化できるが、鉄道では償却後の黒字化は見込めないという。
しかし、筆者は本路線について、2つの理由から普通鉄道の整備が有効と思われる。その理由の1つは、相模鉄道いずみ野線に乗り入れ、ツインシティと既存のニュータウンとを結ぶ利点だ。相模鉄道いずみの線は将来の平塚駅延伸に備えて、急行運転ができるようにいずみ野駅と緑園都市駅に追い越し設備を設けている。従って、沿線のニュータウンや横浜駅付近とを高速で連絡することが可能になる。
もう1つは、現在進行中の相模鉄道とJR東日本、東急電鉄への乗り入れ計画との連携だ。神奈川県の計画ではLRTと相模鉄道との乗り入れも視野に入れているようだ。しかし、普通鉄道とLRTの機能の違いを考えると現実的ではない。
新計画では2007年5月時点の鉄道建設に関する公的支援制度を元にしている。しかし、5カ月後の2007年10月に『地域公共交通の活性化及び再生に関する法律』が施行されている。これに基づく新たな枠組みを検討すると、鉄道案にも実現性が出てくると思う。もっとも、これらの進ちょくは東海道新幹線倉見新駅の実現性にかかっているのだが。
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