どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(2)東京エリア編その1近距離交通特集(1/4 ページ)

» 2008年10月10日 11時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 前回に引き続き、2000年に策定された運輸政策審議会答申第18号(以下、18号答申)で描かれている首都圏の鉄道構想を追っていこう。今回取り上げるのは東京エリアだ。

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(1)横浜エリア編

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(3)東京エリア編その2

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(4)東京駅周辺編

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――(最終回)成田新線・新交通編

 →どうなる、こうなる首都圏の鉄道網――未来編

 →どうなる、こうなる近畿圏の鉄道網(前編)

 →どうなる、こうなる近畿圏の鉄道網(後編)

 タイトルに付いている【数字】は18号答申で振られている数字を示す。また、「○○の現状」では筆者の所感を多分に含んでいることをご承知願いたい。地図はGoogle Mapsより引用し、将来どのように鉄道が走るかを大まかに示した。

【09】東京1号線の東京駅接着

都営浅草線改良工事の概要

 都営浅草線の宝町駅と日本橋駅から東京駅への分岐線を造り、東京駅で合流させる計画。線路の形はデルタ線状(Δの形)になる。新設する都営浅草線の東京駅はJR東京駅の直下とし、乗り換えの便を良くする。合わせて都営浅草線の蔵前駅に追い越し設備を作る。これにより、都営浅草線、さらに乗り入れ先の京成電鉄を経由した成田空港行きの特急を東京駅から走らせる。同様に、東京駅から都営浅草線、京急電鉄に乗り入れて、羽田空港行きの特急列車を走らせる。

都営浅草線改良工事の現状

 この計画は単なる都営浅草線の改良ではなく、首都東京の空港アクセス政策に関わっている。都営浅草線、京成電鉄、京急電鉄は長きにわたる相互乗り入れの実績があり、京成電鉄は成田空港、京急電鉄は羽田空港に通じている。しかし、都営浅草線内に追い越し設備がないために、それぞれの空港へ向かう速達列車※が設定できない。そもそも都営浅草線が都心からやや逸れているため、せっかくの空港接続路線が生かされていない。そこで地下深くを利用して、都営浅草線から東京駅への連絡線を造ろうというわけだ。

※速達列車……急行や快速などのように、通過駅を持つ列車のこと

 しかし、国土交通省は2008年8月と9月に新たな案を発表した。8月案は宝町駅と三田駅に追い越し設備を造る計画だ。試算では都営浅草線部分だけで約400億円とみられている。羽田空港と成田空港を1時間で結ぶという構想で、京成電鉄が進めている成田新線の開業に合わせて整備したい考えだ。

 9月案はもっと大胆に、都営浅草線の押上―泉岳寺間に新たな特急用の複線を作るというもの。これは単なる複々線化ではなく、東京駅を通るバイパス線となる。当初のデルタ線計画では東京駅と両空港のアクセスしか改善されないが、バイパス線式の新案では羽田空港−成田空港間のスピードアップにもつながる。総工費は約3000億円とみられており、一部の報道では国交省が2009年度予算の概算要求に2000万円程度の調査費を計上したという。

京急−都営−京成の空港アクセスが生きる

 京急、都営、京成は都営浅草線内を通過運転する「エアポート快特」を運行しているが、追い越し運転ができないため速度は抑えられている。このルートで羽田空港と成田空港とを移動するには2時間程度かかり、リムジンバスの約75分に対して競争力がない。羽田空港発、京急経由品川乗り換えの成田エクスプレスでも、約90分かかる。建設費のめどが立てばバイパス案が最も良いことは明白で、今後はバイパス案が18号答申案に代わる計画として検討されるだろう。願わくは、この工事に合わせて京浜急行も改良したい。バイパス線の南側を、泉岳寺駅ではなく、北品川駅の南側まで伸ばせば、八ツ山橋付近の急カーブによる速度低下を解消できる。

 ただし、この計画は国の航空路線政策の影響を受ける。

 現在、羽田空港の再拡張計画により国際線ターミナルを建設中で、羽田の再国際化が進んでいる。10月1日には米ノースウエスト航空の会長が会見し、羽田乗り入れを目指す意向を示した。北米線、欧州線にも羽田空港が解放されれば、羽田空港のみで国内線と国際線の乗り換えができることになる。そうなると、成田空港−羽田空港間の需要予測は下がる。

 国土交通省が地方空港について、海外の航空会社の乗り入れ規制を緩和したことも影響するだろう。現在、韓国系航空会社によって、日本の地方空港から仁川経由で世界各地へ移動できるルートが整備されている。仁川ルートを利用すれば、荷物を担いで羽田から成田に乗り継ぎ、飛行機を乗り換える必要がない。羽田空港や成田空港が世界の航空市場で対抗するためには、国策として成田空港と羽田空港の役割の見直しが行われるはずだ。成田空港−羽田空港間のアクセスについても再検討されることになるだろう。

 日本の首都空港の機能が現状のままであれば、羽田空港−成田空港アクセスの意味は薄れる。しかし、都心から両空港のアクセスについては改善する必要がある。そうなると、結局は低コストで済む18号答申案に落ち着く可能性もある。東京都では鉄道路線建設だけではなく、長大な地下道に動く歩道を整備する案を含め、さまざまなプランを検討している。

赤線は国土交通省9月案、青線は18号答申案
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