投信王1位「もりた」さんへの伝言山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年10月23日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 本誌の記事で知ったのだが、日興アセットマネジメントが主催するネット上の株式ポートフォリオ運用コンテスト「投信王」の2008年7〜9月期は、ハンドルネーム「もりた」さんという東京大学の学生が優勝した。参加者2358人中の1位で、同時期に日経平均株価が16.48%下がる中、プラス34.53%のパフォーマンスを上げたという。この成績は、掛け値なしに見事なものだ。

 →「中2でApple株を買った」――投信王1位の東大生に運用の極意を聞いてきた

運用力を評価するには1年でも短い

 投信王とはWebサイト上で、株式ポートフォリオを運用するゲームだ。仮想資金は10億円で、運用対象は東証一部上場の株式、1銘柄最大10%まで、銘柄数上限50銘柄までといった条件の下で、仮想資金の運用成績を競うというもの。結果の出る期間は3カ月で、1年通して成績上位5人に入ると「年間投信王」と認定されるのだという。

 先物や信用取引といったレバレッジや空売りは使えない。投資顧問会社で小規模な年金基金の株式運用を受託するような条件で、フィギュアスケートに例えると「規定演技」的な運用だ。投資顧問のファンドマネジャーは大体3カ月おきに運用状況を顧客に説明するので、実際の運用の仕事と、時間感覚などは案外似ているかもしれない。

 もっとも運用力を評価するには、3カ月はもちろん、1年でも短い。これは運用業界の常識だ。「年間投信王はファンドマネジャーとしての採用を検討する」という日興アセットマネジメントの言葉は、企画を盛り上げるためのリップサービスだろうが、企画に興味を持った学生が参加してくれるなら、学生採用のきっかけにもなるイベントかもしれない。

 実際の資金を使わずに、仮想売買をやってみるというのは、金融業界の実際の現場でも時々行われる新人教育の方法だ。例えば為替のディーリングルームでも、新人に仮想売買をやらせてみることがある。新人は仕事を覚えるために必死だから、一所懸命に参加するが、実際にお金を動かす場合と仮想資金の売買では随分感覚が違うので、仮装売買をあまり長くやるのは良くないと言われることが多い。なぜだ? と問われると根拠を説明するのは案外大変だが、「実際のお金が投入されている状況で、ものを考えるという経験を早くする方が無駄が少ないのだ」と答えておこう。

ファンドマネージャーは若い人に有利?

優勝者の「もりた」さん

 優勝者の「もりた」さんは、東京大学文科二類の学生(経済学部進学予定)で、「Agents(エージェンツ)」という株式投資クラブに所属しているという。Agentsは数年前に設立されたが、大学生の投資クラブの草分けであり、筆者は以前、創始者たちにお会いしたことがある。企業訪問やIRの研究も含めて、企業をしっかり研究するような真面目なアプローチをしている(占いもどきのチャート分析に凝るようなことはしない)サークルだ。また金融界で活躍するOBもいるので、作戦を考える上で仲間が役に立ったのかもしれない。

 もっとも「もりた」さんご本人は、中学校2年生の時に自分のお金でApple株を買ったのが最初というようなキャリアの長い投資家なので、株式投資に対しては既に、一家言(いっかげん)お持ちなのだろうと思う。記事でのコメントを読んでみても、相場全体が下落しているときに、プラスのリターンをあげる難しさをよくご存じのようで、「運が良かった」面があることも認めておられる。彼は十分「分かっている」のだ。

 一般論としては、運用と年齢・経験の関係は微妙で、ゲームとしての運用自体は体力を要するようなものではないし、経験や知識がプラスに働きそうな世界だから、ベテランが有利かとも思う。しかし現実的には基本が分かっていれば、若くて感覚が新しい方が、こだわりなく現状に適応したポートフォリオを持てることが多く、若いことが有利に働いている場合が多いような気がする。これはデータを調べたわけではなく、あくまで筆者の感覚だ。

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