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» 2008年11月28日 07時05分 公開

「世界は美しいものなんだな」と感じてくれる映画を作りたい――宮崎駿監督、映画哲学を語る(後編)“ポニョ”を作りながら考えていたこと(3/4 ページ)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

『となりのトトロ』は“絶対お客が来ない映画”だった

――映画が経済的にうまくいかなかった経験はありますか?

宮崎 ある時期まで「自分たちのかかわるアニメーションは経済的に成功しない」という自信を持っていた時期があります。それはそういうものだと思っただけで、自分たちの方針を変えたいとは思いませんでした。

 『となりのトトロ』※という作品の企画が通った時も、奇跡的に針の穴を通すような偶然がいくつか重なって実現したんです。あの映画はそれまでの日本映画の常識で言えば、“絶対お客が来ない映画”だったわけですから。

※となりのトトロ……田舎へ引っ越してきた姉妹と、不思議な生き物「トトロ」との交流を描いた物語。

――自分の作りたいものと、売れるものを作ってほしいと言われるプレッシャーとのジレンマを感じたことはありますか?

宮崎 アニメーションを作るのは個人的な努力だけではなくて、本当に面倒臭い仕事をいっぱいやらないといけないのです。個人的にも本当に膨大な作業量がなくてはいけないのです。それで「お金がもうからなくてもいい」というのは、嫌なことです。だから「これはもうからないな」と思ったものは手を出しません。みんなで不幸になる必要はないですからね。

 「みんなでやってよかった」というものを探す責任を私は背負ってアニメーションスタジオにいますから、もしそれを背負わなくていいというのならアニメーションスタジオにいなくてもいいんじゃないかと思います。だからジレンマはありません。

スタジオ・ジブリ

――宮崎さんは、これまで何度も映画の監督を引退するつもりだとおっしゃられていました。どうしてお考えが変わったのですか?

宮崎 もうすでに引退しているのだと私は思ってます。「みんなの好意で時々仕事をやらせてもらってるんだと思った方がいいな」と思って生きています。

 ただ、映画を作るというのは非常にリスクのあることです。むしろリスクを求めて私たちは映画を作っていますので、映画を作り終わるころには本当に力を出し切っています。だから、もう何にもやりたくないのです。「何もできないだろう」と自分で思えるのですね。それで、毎回ああいうこと(「引退する」)を言っていましたが、もうさんざん言いすぎましたので言わないことにしています。

――ロボット関係の仕事をする人は『鉄腕アトム』の影響を受けていると言われていますが、宮崎さんの映画を見た子どもは将来どんな仕事を選ぶでしょうか?

宮崎 普通の人になってもらえればいいと思います。

――宮崎さんが成功した本当の秘密はアマチュア志向にあるように思えます。アマチュア志向であることはアニメで成功するために重要ですか?

宮崎 「商業的に成功することは、大して意味がないんだ」と本当は思っています。仕事を続けるために一定の商業的な成果を上げなければなりませんが、それは目的ではありません。

 ですから私たちは「30年はお客さんに見捨てられない映画を作りたい、それができたら素晴らしい」と思っています。映画というのはそれ以上の時代を超えていくのは不可能だと私は思っています。歴史的な意味はあるかもしれないですが、30年前のフィルムを楽しむ大衆はいません。ですから、自分たちの仕事の限界と、自分たちのできる範囲の両方を忘れないようにしながら仕事をしています。

――30年以上前の映画でも、『風と共に去りぬ』や『白雪姫』など素晴らしい映画はいっぱいありますよね。そういう作品をどう思いますか? 『カサブランカ』を知っていますか?

宮崎 (『カサブランカ』は)もちろん知っています。自分にとって大切な映画は、自分の生涯の友にはなると思います。しかし今、『カサブランカ』を公開したからといって、たくさんのお客さんが来るわけじゃないという意味です。

 小津安二郎の作品がありますが、それを一般公開しても日本では1つの映画館しか埋まらないでしょう。ほかの映画館でやるわけにはいきません。

 私は小津安二郎をものすごく尊敬しています。それは少しも変わっていません、なぜなら私は(小津安二郎の作品を)見て感動したから。それは商業的な成功とは無関係だと思っています。

 『カサブランカ』のリメイクをするのはもっと愚劣なことだと思います。映画はやっぱりその時代のものなんだと思います。

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