なぜマックは“高級バーガー”と言わないのか? クォーターパウンダーの売り方それゆけ!カナモリさん(3/3 ページ)

» 2008年12月01日 07時00分 公開
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11月26日 グリコ「ウォーキーウォーキー」のコンセプトの妙

 「コンセプト」はもはやカタカナの日本語ともいえるくらいに当たり前に使われる言葉になった。「コンセプトが固まらなくてね」などという会話もよく聞かれる。

 しかし、実際にはコンセプトとはどのように考えればいいのだろうか。「製品コンセプト」の一例をご紹介したい。

 ダイレクトマーケティングの父、レスター・ワンダーマンは「なぜ私に?に答えなさい」という名言を自著に記した。企業が顧客にアプローチするには、なぜオススメするのかという理由を明確にせねばならないということである。理由が明確でなく、疑問を抱けば必ず顧客はそっぽを向く。

 ダイレクトマーケティングのアプローチではなくとも、企業が販売する製品についても同様のことがいえる。誰に向けた商品なのか。それを用いると、どのようないいコトがあるのか。それが伝わらなければ、売れない。

 2008年11月21日付け日経MJの一面の囲み記事で、江崎グリコの「ウォーキーウォーキー」が紹介されていた。「<歩きながら食べるチョコ>お菓子のシーン広げる」とのタイトルだ。

ウォーキーウォーキー(出典:グリコ)

 同商品は、カップ入りのチョコレート菓子で、缶ジュースのように片手でもって、粒状のチョコレートを口の中に流し込んで食べる新しい菓子とある。PCを触る仕事中や本を読みながらなど、手を汚したくないときでも食べられるのが好評であるとのことで、発売以来2カ月、売り上げは好調のようだ。

 この商品、記事では歩きながら食べられることをコンセプトに開発したとあり、10〜20代の若者に人気が高いと分析されている。

 しかし、この商品はもっとすそ野が広がるのではないか。結果として現在、若者に受けているのであって、「若者を攻略しよう!」と開発された商品ではないように思える。

 製品コンセプトを「5W1H」的に考えてみよう。「誰が、いつ、どこで、どのようにして利用すると、どのようなベネフィット(便益)があるのか」というフレームだ。

 まず、「誰が」は「若者」ではなく、記事にあるように「手を汚したくない仕事や用事をしているが、ちょっと気分転換にお菓子を食べたい人」だ。手でチョコレートをつかんでもティッシュで拭けばいいようなイメージではなく、何らか手がふさがっている時を想像した方がいい。その意味では「歩く」ことにフォーカスしたネーミングに疑問が残る。

 「いつ」は、誰がともかぶるが、「手が放せない用事の最中」だろう。「どこで」は、ネーミングからすると「外出先で」となるが、「仕事や用事の席で」の方が需要がありそうだ。

「どのように」は、製品の特性である、「ふたを開けて口に流し込むようにして」ということになる。

 そして、「ベネフィット」は「手を汚さないで手軽に食べられる」となる。前述の通り、ネーミングとの若干の食い違いが、筆者個人としては感じられなくもないが、コンセプトがはっきりした、お手本のような商品といえるだろう。

 景気の失速によって、消費者の商品の選択眼はますます厳しくなる。いかにコンセプトがはっきりしているかは、その選択眼にかなう最低条件だ。好事例として参考にしたい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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