ホンダはなぜF1から撤退するのか?――社長会見を(ほぼ)完全収録(4/5 ページ)

» 2008年12月06日 07時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

途中撤退だが「新しい時代に入った」

――第一報が外電で流れた理由を教えてください。また、オールホンダと言いながらもロス・ブラウンさんなどの外人がリーダーシップをとっていた意味、そしてこの決定でF1でのホンダの印象が傷つけられたとも思うのですが、どのようにお考えですか。

福井 われわれはさまざまな方面に配慮をして、発表しないといけないわけです。まず第1に直接レース活動をしている英国のHRF1の従業員数百人、彼らにきちんと説明するのが第一だと思いました。当然それ(HRF1)のリーダーシップをとったロス・ブラウン、ニック・フライにもきちんと説明した上で、従業員にブレイクダウンをしたわけですが、たぶんその関係で外電に先に入ったのだろうと思います。日本に対しては、今日この場でご説明しようと思っていました。

 第3期の成果という観点では、私自身としては大変残念だし、きちんとした成果は得られない途中撤退という認識です。あえて申し上げますと、最高峰のF1というレースという場で8年間戦ってきた、例えそれがロス・ブラウンの指揮下にあったとしても、栃木研究所のホンダのエンジニアが最前線で戦ってきた経験は、非常に大きなものがあると思っています。2、3年で(配置が)変わりますから、この8年間でF1レースに関わった人間は延べ千数百人になると思います。そういう人間の財産は1つ大きな成果だと思います。車体関係にしろサスペンションにしろ、駆動系にしろ、制御系にしろ最先端の領域の技術が磨かれたというのは大きな成果だと思っています。

 第3点のご質問は、きちんとした最終的な結果が出せなかったために、そういうダメージが多少あったと思います。それ(を挽回できるか)はこれから1年後、2年後、3年後にホンダがどういう商品を出していくか、それにかかってくると思います。

――F1はホンダの文化とも言われ、企業イメージ向上や技術開発、人材獲得で大きな役割を果たしてきました。そうした大きな核を失うという点について、どうお考えでしょうか。また、撤退費用はいくらくらいになるのでしょうか?

福井 最初の質問は先ほどのご質問に近いのですが、それほど自動車産業を取り巻く環境が厳しいという風に理解していただきたいと思います。これは経済危機、マーケットが冷え込んでいるというだけではなくて、われわれの認識では自動車産業が新しい時代に入ってきた(と感じています)。1年くらい前からそういう兆候はあったわけですが、そういう時代の変わり目に経済危機が来たと理解しています。

 従って、この経済危機を良い形で生き抜いていくだけではなくて、その間にきっちりした仕込みをして、新しい時代に適合した商品なり技術を開発することが非常に重要だと認識しています。今、言われたような批判はあるとしても、それは3年後、5年後にきちんと再評価されるべきだと思っています。

大島 費用そのものの額は、今の段階でいくらということはお話しできません。ただ、今決算年度に与える影響はそれほど大きなものではないと、今のところは思っています

INSIGHT(ホンダ公式Webサイトより)

――先ほどから「新しい時代に入った」と何度も強調されていますが、もう少し具体的にどういう時代なのか教えてください。

福井 私は、私だけではなくてホンダの内部で大体意見は合っていますが、直近の経済危機で、多少原油(価格)が下がったり、原材料(価格)が下がったりという変化はありますが、これは経済が回復すれば当然また(価格が)高い状況に行くわけです。この数年間、BRICs諸国の経済発展が非常に目覚ましく、地球上の資源の需給バランスが大きく変化したとわれわれは認識しています。

 従って新しい時代では、原油が高い、原油が使えない、原材料もそれほど豊富に使えない、高い原材料を使わないといけない(という状況を考えなくてはいけない)。これは、従来とは全く違った価値観で車を作る技術が必要なのだと思っています。

 具体的に申し上げますと、来年タイミングよく出すINSIGHT(インサイト)みたいな車が1つの例です。ホンダにとってはフィットが一番下のクラスですが、これよりも下のクラスの、小さくて燃費も良くて原材料も使わない車の開発が急を要する。

 あるいは欧州の燃費規制に対応したような(クルマ)、あるいはインドで必要な小型のディーゼルエンジン。現在2.2リットル(のディーゼルエンジン)しかホンダは持っていませんが、もっと小さなディーゼルエンジンの開発などは、非常に緊急を要していると思っています。これに対しては、F1にたずさわっているエンジニアが、非常に大きな力を発揮すると思っています。

――撤退の最大の要因は、経営状況が厳しくなる見通しが出てきたからか、技術開発へのリソース展開を考えてのことか、厳しい環境下で数百億円をモータースポーツに投じるという社会的な見方に対する対応を考えてのことなのか、どれですか?

福井 3つともすべて考えなければならない項目だと思いますし、それを全部配慮した結果です。

 特に11月のマーケットの販売状況、日本もそうですがマーケット全体(が不調)、これが1年間続くとひどい状況に自動車業界全体がなると思います。我々楽観論でビジネスをやるわけにはいきませんから、最低この状況が続く、もっと悪くなるかもしれない(と考えて経営していかなければなりません)。おまけに日本から見ますと、為替で円だけが厳しい状況(円高)になっています。世界中でビジネスをしているホンダにとっては、米国だけではなくて欧州も含め、各国のビジネスが全部厳しい状況を迎えている。そういうインパクトが、これからますます加速するということですね。

 それからF1の直近の変化で言えば、数年前までですとF1のレースチームは100億円もあれば運営できたと思います。たばこ産業(のスポンサー収入)を含めれば、大体ペイしていた。(しかし)直近いろんな変化があって、100億円で済まなくなりました。現地のオペレーションだけでも、200億円ぐらいかかるのではないかと思っています。(収益でも)今はたばこ産業が抜けて、スポンサー収入がほとんどない。各チームみんな厳しい状況だと思います。

 それが直近の事情ですが、これだけではなくて時代が変わって1年、2年これをしのいだとしても、その先に新しい展望が開けないと、新しい自動車産業で勝ち残っていけない。むしろ私としてはこちらの方が危惧(きぐ)として大きいと思います。3番目の社会(の目)とか、株主(の目)という話も当然ありますが、一番大きいのはやはり「開発リソースを有効に使うべき」と思ったからです。

――昨日、(ホンダが)期間工の削減をされるという報道が一部でありました。本日、F1の撤退発表があったわけですが、このほかのリストラ策などがあればお教えください。

福井 今日現在でまだお話しする段階にはありませんが、F1撤退の意思決定と同じ次元で、すべてのビジネス計画を見直しているところです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.