カメラマンに見る、デジタル時代の仕事事情山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年12月25日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 カメラマンという職業は現実に目指したことはないが、昔から「いいなあ」と思っている職業の1つだ。クリエイティブな仕事だし、何よりカメラのメカが好きだった。そういった訳で筆者は、ずっとカメラ雑誌の愛読者だし、少なくともカメラ製品動向は大まかに把握している(よくいるカメラ好きのオヤジの1人なのだ)。

 一方、仕事の上では、恥ずかしながらよく写真を撮られる。雑誌のインタビューなどで、ここ数年、毎週1回程度、写真を撮られている。某政治家(さる自治体の首長だ)は、記者には丁寧に接するが、カメラマンを一段低く見てぞんざいに扱うことで有名だが、筆者はカメラマンが好きなので、取材を受ける際にカメラマンとも話し込むことが多い。顔写真やインタビューカットなど、サンプルとしては偏りがあるが、ここ数年、デジタル化が進む中で、カメラマンの仕事ぶりの変化を見てきた。今や、フィルムで撮るカメラマンは、ひと月に1人いるかどうかというくらいの割合だ。

収入が「減った」というカメラマンは51%

 “感じ”だけでは、デジタル化が進む中でのカメラマンの仕事ぶりを論じるには心許ない。なので『コマーシャル・フォト』の2009年1月号に「フォトグラファーの仕事白書2009」という、全国の写真家を対象としたアンケートが掲載されていたので、この結果を紹介しながら、「デジタル化」について少々考えてみたい。回答者の平均像はキャリア20数年、年齢は40代後半だ。紙面には、1999年に行われた同様のアンケートの結果が一緒に載っている。

 まず、「ここ1年の収入の変化」だが、収入が増えたのは17%で、51%は収入が減ったと回答している。企業が広告予算を削り、民放の番組制作費が対前年比3割ほどの減と思われる昨今の状況を考えると、商業撮影が多いカメラマンの収入が減っていても不思議はない。ただし1999年も収入増が13%、収入減が50%と、似たような回答結果だった。振り返ってみると、1999年は大まかには「失われた10年」の最中だった。いよいよ不況か、と感じる今年の回答結果だ。

 回答者のコメントを見ると、デジタル化を理由にした値引きの要請や撮影カット数の増加に不満や嘆きを感じているカメラマンが多い。あるカメラマンは、そもそもかつてのフィルムや現像代は撮影料の3〜5%程度であって、デジタル化はさしたる影響がないはずだと嘆くのだが、クライアントの値引き要求は厳しい。

 調査によるデータを持っているわけではないので、正確なことはいえないのだが、文筆業に関する近年の筆者の経験からいって、紙媒体の原稿料よりも、デジタル媒体(発表はWeb)の原稿料の方が、字数当たりの原稿料が安い傾向にある。字数当たりの原稿料は、作家が特別な人だった時代から(例えば夏目漱石をイメージされたい)、紙の印刷効率が上がり、さらにデジタル媒体のコスト効率の改善と並行して、主に供給者が増えたからだろうが、実質価格ベースでは全体的に下落している。

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