カメラマンに見る、デジタル時代の仕事事情山崎元の時事日想(2/2 ページ)

» 2008年12月25日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]
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「スキル」の価値観が変わりつつある

 今回の調査への回答コメントでも「デザイナーでもデジタルカメラで撮影して仕事ができてしまう」というものがあった。カメラマンのスキルの価値が急になくなるとは思わないが、世の中の技術的な前提が変わることによって、「スキル」の価値も変わることがあることに、改めて気付かされる。

 カメラマン達の回答と一緒に寄せられたコメントには、デジタル化で可能になったレタッチ(後からの画像の加工)の時間が掛かることと、この労働時間に対する対価が十分に払われないことに対する嘆きが多い。確かに、デジタルカメラで撮影すると、フィルム代は掛からないし、現像の代金と時間も必要ないのだが、写真を満足のいく状態にしようと思うと、随分手間が掛かる。写真に多少なりともこだわりのある多くのデジカメユーザーは、そう思っているのではないだろうか。また仕事の結果がデジタル化されていることから、二次使用、三次使用に悩まされているとのコメントもあった。

 カメラマン達の営業活動に関する回答もはなかなか興味深い。日ごろの営業活動は何をしているかとの質問に対しては、「何もしていない」が一番多く(30%以上)、営業に苦しむ(顧客がいない)ようではフリーは苦しいことが結果に表れているが、この次に多かった活動は「ネットを活用したプロモーション」だった(10%台半ばの回答)。

 ちなみに、自分の写真を掲載したWebサイトやブログを持っているカメラマンが43%、持っていない人が53%だった。回答者の年齢を考えると、Webサイトやブログが、フリーランスのローコストな営業手段として機能している様子が分かる。ただし、この問いに対する回答には「非常に有効」とする回答もあれば、かつて有効だったが「最近はほとんど反応がない」といった回答もあって、一様でない。ネットの活用の仕方の上手・下手が出ているようだ。

 また回答者達が使っているデジタル一眼レフカメラのメーカーは、キヤノンが61%、ニコンが25%と、最近のニコンの新製品戦略の成功による両社の拮抗ぶりを考えると、随分キヤノンが優勢だ。プロの場合、交換レンズなど過去の資産があるので、素人ほど気軽にシステムを乗り換えられないことの結果だろう。商業写真のカメラマンは、かつてレンズとAF(オートフォーカス)の性能差から、キヤノンのユーザーが多かった(逆に報道ではニコンが多かった)と思う。

他人に仕事を任せることがポイント

 今回のアンケートだけで結論を出すのは性急だが、カメラマンのような個人に依存する技術的サービス業の場合(例えばライターとかコンサルタントなどはこの部類に入る場合が多いだろう)、デジタル化の進展により、(1)同様のサービスの供給者のコストが下がり供給が増えると平均的な作業単価が下がりやすく(2)ある程度仕事が増えるとデジタル処理部分を自分でやることの機会コストが上がり(3)デジタル化・ネット化を営業上のメリットに結びつけられるかどうかでも差が付く、というようなことがいえると思う。

 3つの中では、特にデジタル処理を誰に任せるかという課題について注目したい。カメラマンに限らず、小規模に起業すると、デジタル関連の仕事を自分でできることが初期の固定費を抑えてくれることはありがたいのだが、ある程度以上に仕事が増えてくると、自分でなければできない仕事以外の仕事をいかにうまく他人に任せるかが重要になる。この点を踏まえた上で、自分が、何をどこまでやるべきかを考えるべきだ。もちろん、これは筆者自身にとっての重要課題でもある。

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