「クラシック音楽に深く接してこなかった方にこそ聴いてほしい」――“魂のピアニスト”浦山純子氏あなたの隣のプロフェッショナル(5/6 ページ)

» 2009年02月06日 11時30分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

リサイタルの風景

女神の勝負食(出典:テレビ朝日)

 鬼気迫るような猛練習を経て迎えるリサイタル前夜。

 「女神の勝負食」というテレビ番組があるが、浦山さんにも勝負食があるという。

 「私は前日の夕食にビーフステーキを食べることにしています。ロンドン時代の恩師が本番前に出してくれたことから食べるようになったのですが、それ以降、願掛けの意味も込めて毎回食べています」

 夕食後は再び練習、そして深夜2時過ぎまで楽譜を読んで、本番に向けてイメージ・トレーニングをする。とはいえ、睡眠を十分とることも忘れてはならない。睡眠不足は、本番での心理状態や演奏の出来具合いに大きな影響を及ぼす。

 「ぐっすり眠るため、朝は10時過ぎに起きます。ストレッチをしてから、納豆・ご飯・味噌汁(豆腐とワカメ)、旬のフルーツの盛り合わせの朝食をとります。『果物の命をいただく』ことが私にとって何よりのぜいたくなのです」

 食事の後は、ゆっくりお風呂に浸かる。そして楽譜を見て、またイメージ・トレーニングをする。

 「演奏会場には14時半ころに入って、その後はリハーサルを行います」

 入念な準備を経て、19時にリサイタルが開演する。

 浦山さんのリサイタルでは、楽曲の演奏だけでなく彼女のトークが重要な役割を果たす。ポップスやロックなどではごく普通の光景だが、クラシック音楽の世界では珍しい。

リサイタルでのトークシーン

 例えば、リストの曲では「日本人でリストに初めて会った人物は誰でしょうか?」と問いかけ、それが実は伊藤博文であったことを明かすなどして、年季の入ったクラシック音楽ファンでも知らないようなエピソードを紹介したりする。しかも、物知り顔のウンチクとしてではなく、明るい笑いに満ちた華やいだ雰囲気の中でそれが語られる、ということで楽しみにしている人も多いという。

 「楽曲を演奏するだけでは、それがどんなに良い演奏だったとしても、クラシック音楽にそれほど馴染みのない方々には何となく敷居が高く感じられると思うのです。トークを絡めることで、曲や作曲家に対する興味を持って頂いたり、あるいは私自身に対する親近感を持ってもらえるのではないでしょうか。と言っても、トークがスベってお客さんが引いてしまい焦ることもありますが……」と苦笑する。

 リサイタルが終演すると、楽屋には感動したお客さんが詰めかけて、次々に感激や賞賛の言葉を口にするそうだ。浦山さんと会場(聴衆)の「一体化」――彼女の目標は着実に達成されつつあるようだ。

リサイタル後のサイン会

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