“会社ごとき”が社員を制限するな。副業をススメる3つの理由山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年04月16日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

 本稿では仕事を複数持つ「副業」を、特にビジネスパーソン人生の後半の世代(35歳以降。35歳はもう「後半」だ!)にお勧めしたい。

 副業をお勧めする理由は、大きく分けて3つある。(1)リスクのヘッジ、(2)自分流のライフスタイルの実現、(3)定年後の人生設計のため、の3つだ。

経営行動が株主寄りに変化

 まず、昨今の経済情勢を見ると、よほど盤石の会社でない限り、10年、20年といった単位にわたって安心して生活を託することなどできない。山一證券や日本長期信用銀行の例を出すまでもなく、大会社ならずっと続くという時代ではないし、会社が続いてもいわゆるリストラがある。

 しかも近年、リストラは、経営内容のいい会社ほど前倒し気味に行われる傾向がある。日本企業にあって、特にここ数年、経営者の報酬が上昇するとともに、経営行動がより株主寄りに変化した。2007年前半くらいまでの好況といわれた状況にあっても、企業の現金給与支払額は微減を続ける一方、最高益を更新する会社が続々登場していた。株主から見ると「コーポレートガバナンスの進歩」なのだが、従業員から見ると、経営者はより油断のできない存在になった。

 また会社勤めにあっても、心身の健康を害することもあれば、家族の事情などで、会社の仕事に専念できない場合が生じるし、仕事のプレッシャーや社内の競争などで精神的に参る人も少なくない。

 こうしたときに、自分のペースでできる副業(勤務先の会社以外の収入を伴う仕事)があれば経済的にも助かるし、何よりも精神的に心強い。副業に気を取られて、本業(必ずしも勤務先の会社の仕事が本業でなくてもいいが)がおろそかになるのも困りものだが、自分には会社以外にも他人の役に立って報酬をもらえる場があるというプライドと、副業で気が紛れることは、総合的には精神的な余裕につながることが多いだろう。

「会社ごとき」が社員を制限すべきでない

 現在、判例も含めて法的に判断すると、多くの職で、本業に悪影響があることを会社側が立証できない限り、副業を行うことは本人の自由だ。しかし多くの企業が、就業規則で副業を禁止していたり、かなり厳しい許可制で運用しており、これは大げさにいうと基本的人権の侵害だと思う。前述のように、会社が社員の一生涯の生活の面倒を見るとは言えなくなっているのだから、「会社ごとき」が偉そうに社員の自由を制限すべきでない。

 有り体にいって、別の収入源、さらに別の社会的な立場があることは、会社員たる個人をより自由にする。多少の左遷による収入減くらいは副業でカバーできると思えば気にならないし、副業の内容によっては、いよいよ会社と対立した場合には、会社と袂(たもと)を分かつことができる。仕事の上で、あるいは社会的に「これが正論だ」と思いながらも、上司の評価、ひいては会社内での扱いを気にするあまり、自分の意見を口に出来ずに情けない思いをしたことがあるビジネスパーソンは少なくないのではないか(もちろん、筆者も覚えがある)。

 副業、即ち、収入になる仕事を2つ以上持ち、「ジョブのポートフォリオ化」ができると、そうでない場合よりも、自分の意見が言いやすくなる。これは明らかだ。

 加えて、副業から生まれる余裕は、自分が何かを主張する場合にばかり役に立つのではない。仕事上、どうしても我慢が必要なときに、自分には別の役割もあると思えるプライドが、我慢の支えになることがある。たかだか普通のサラリーマンの給料をもらっている者同士が、相手のことを「給料泥棒!」などと罵(ののし)り合うのは、当人達が真剣であるほど、一個の人間同士のやりとりだと考えると浅ましいものだが、この多くは単一の会社に勤めていることによる視野の狭さと余裕の無さに起因する。

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