グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年4月24日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
企業戦略を読み解くには、経営学のフレームワークやセオリーが有効だ。しかし、それに縛(しば)られすぎると本質を見失うことになる。そんな事例が、2008年度携帯契約純増数で2位から4位に転落した、最近のKDDI(au)の展開だといえるだろう。
結果から見ると大敗である。
順位 | 社名 | 台数 |
---|---|---|
1位 | ソフトバンク | 204万6700 |
2位 | NTTドコモ | 121万3000 |
3位 | イーモバイル | 99万8700 |
4位 | KDDI | 50万3700 |
端末価格を積極的に0円にし、iPhoneすら無料にしたソフトバンク。ネットブックをタダ同然でセット売りしたイーモバイル。ドコモは多種多様な端末で大攻勢をかけた。2008年度の携帯電話各社の展開において、auの出遅れ感は否めない。
そんなauは2つの戦略で反転攻勢をかけようとしている。
「サプライズな日々を」と、ジャニーズの人気グループ「嵐」を前面に押し出して訴求する春のニューモデル群。音楽特化モデル、3D付きケータイ、タッチパネル対応モデル、世界で使えるグローバルパスポート機能搭載モデル、フルチェンケータイと、各機能特化モデルが盛りだくさんだ。
一方で、機能特化とは戦略的に論理不整合を起こしているともいえる展開も見せている。よりデザインに注力した新ブランド「iida(イーダ)」の立ち上げだ。ITmediaに掲載された記事『「機能競争は終わった」と小野寺社長 新ブランド「iida」で「次の競争」へ』を見てみよう。
記事によると、iidaブランドで実験的かつ多彩なデザインの端末を投入し、多様化するユーザーニーズの探知機にしていく。「デザインのau」のイメージを回復させ、次の成長につながるステップとしたい考えだ、という。
通常であれば自社のポジションに適合した戦略に絞り込むのが戦略のセオリーであるが、あえて2枚看板で展開する。なぜか。もう少し探っていこう。
auはこれまで、数々のコンセプトモデルで携帯電話とユーザーの新しい関係を提唱する「au Design Project」を実行し、模索を続けてきた。携帯ユーザーに衝撃的なデザインを提唱した「INFOBAR」(2003年)を皮切りに、2004年「taldy」、2007年「MEDIA SKIN」など、古くなってもいつまでも使い続けられるような名機を発売してきた。
現在、同プロジェクトは、新ブランドiidaに吸収された形を取っているが、iidaの基本思想をひも解くには、2007年のコンセプトモデル発表会である「ケータイがケータイし忘れていたもの展」のメッセージを思い出してみるといい。
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