一次産業を、かっこよくて感動があって稼げる3K産業に――みやじ豚.com 宮治勇輔さん嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(3/5 ページ)

» 2009年05月09日 15時30分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

 第2の契機はパソナ時代だ。起業家を目指して独学で勉強を重ねる中で、宮治さんは、農家を取り巻く過酷な実情に触れた。生産農家には価格決定権がなく利幅は薄いし、また、農家の名前が表に出ないので、消費者からの声も来ない。これでは、誰も後継者になりたがらないのは当然だ。農業の仕組み自体を変革する必要があると、彼は痛感した。

 「出荷までやってハイ終わりの従来型の農業ではなくて、生産から消費者の口に入るまでをトータルプロデュースする仕事として農業を捉え直したらどうだろうって考えたんです」

 そうすることを通じて、「きつい、汚い、かっこ悪い、臭い、稼げない、結婚できない」という6K産業から、「かっこよくて、感動があって、稼げる」3K産業へ転換できると考えたのである。こうした経緯を経て宮治さんは、農業経営の難しさを熟知し、わが子の行く末を心配する父親を説得して後を継ぐことになった。

 2005年6月、パソナを退職。勤めていた大手外食チェーンを退職した弟の大輔さんとともに、新しい養豚業、新しい農業を構築するための活動を開始する。

「バーベキューマーケティング」で躍進

 金なし、コネなし、ノウハウなしという中からのスタートだったと振り返る宮治さん。生産者と生活者が互いに顔の見える関係を作ることが大切だという意識から、まずは自宅近くの観光農園を会場にして、「みやじ豚のバーベキュー」を定期開催することにした。

観光農園で行われるバーベキュー。現在も定期的に開催中だ
バーベキューでは、宮治さんが「一番おいしい食べ方」と推す食べ方でみやじ豚が振る舞われる

 そして、友人や元同僚など実に950人にメールを送った。「会社を辞めて実家の養豚業を継ぎました。かっこよくて、感動があって、稼げる3K産業にしてみせます。応援してください。つきましては、バーベキューを開催するので是非食べにきてください」という内容だったという。参加費は、1人4000円。

 フタを開けてみると、反響は大きかった。養豚業を、そして農業を変革したいという彼の心意気に打たれた人々がバーベキューに詰め掛けてくれたのだ。

 いったん来てくれれば、あとは宮治さんの情熱と、「みやじ豚」そのものの魅力がモノを言う。東京のビジネスパーソンを中心とする各回の参加者たちが、職場や家庭で、その素晴らしさを伝えてくれたのだ。その輪はどんどん広がり、「みやじ豚」の認知度はまたたく間に上昇した。

 「これを私は、バーベキューマーケティングって呼んでいるんですよ。特に宣伝などしていないのに、バーベキューに来て共感してくれた人々のクチコミでお客さんが増えていったんです」

 こうした躍進をベースに、2006年9月「株式会社みやじ豚」を設立。彼は代表取締役社長に就任した。

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