松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」
このほどドイツ環境省からエネルギー政策のロードマップが発表された。環境保全、二酸化炭素の排出を削減しながら、同時に経済成長を続けるためのビジョン、つまり持続可能な社会の羅針盤として、2020年までにドイツがなすべき目標を具体的に提示したものだ。
環境省の情報誌「umwelt, April 2009」(環境、2009年4月号)にまとめられた10項目のうち、前回解説したのは以下の5項目。
今回はこれに引き続き、残り5項目のビジョンを読み解いてみたい。
→環境先進国ドイツのエネルギー政策を読む――2020年に向けた10のビジョンとは(前編)
ビジョン2でも取り上げたように、再生可能エネルギーの中でポテンシャルが最も大きいのは風力発電。開発のポイントは建設適地の残り少ない陸上から洋上へと移っており、北海やバルト海の沖合いで大規模ウィンドパーク整備が続けられている。
ここで必要不可欠となるのが電力網の整備である。北海やバルト海で生産した電力を主要消費地、例えばドイツ南部へ無駄なく送電する電力網の整備が必要とされており、そこで注目を集めるのがスマートグリッド(賢い電力網)だ。スマートグリッドは低炭素社会実現のためのキーテクノロジーとされ、米国を始め、多くの国や地域が構築に乗り出している。再生可能エネルギーを電力供給の中心とし、情報技術や最新テクノロジーを用いて、無駄なく賢く送電するのが特徴だ。
例えばビジョン2で紹介した「無風で風力発電が止まり、雨天で太陽光発電がストップしたら家庭の洗濯機や食器洗い機を自動的に停止し、回復したら自動的に運転再開」といったシステムもその一部である。他には「安価な大容量バッテリーの普及により発電と消費のタイムシフトを可能にする」(例えば、風の強い時間帯の風力余剰電力を無駄なく貯蔵する)、「超伝導技術を用いて送電距離に制約されない最適地での発電を可能にする」(例えば、北ドイツで生産した電力を南ドイツに送電)などが考えられる。
このようにITや先端技術を活用して発電所から末端の消費まで電力網を最適化する次世代の送電システムがスマートグリッドである。
ドイツ国内の全消費エネルギーに占める電力の割合はわずか2割に過ぎないが、電力の温室効果ガス排出割合は5割に達する。また電力エネルギーを生産するためにはその3倍もの化石燃料が必要となるなど、電力は温室効果ガス排出の大きな原因となっている。温室効果ガス排出抑制には電力消費削減が有効となるが、実際にはドイツでも電力消費は増加傾向にあり削減はなかなか難しい。
省電力の大きな可能性がある分野・項目は、産業部門(産業モーターなど)、冷蔵・空調機器、民生用電気製品のスタンバイ電力、情報通信機器など。ブッパータール気象・環境・エネルギー研究所の試算によると、もしすべての省電力対策を有効活用できれば、年間1100億キロワット時の省電力が可能である。これは現在の電力使用量の20%に相当し、年間100億ユーロの電力料金節約を意味する。ただし、これはあくまで論理上の数値であり現実的には次のような目標が設定されている。
ドイツは世界最先端の省電力対策国になることを目指しており、そのための施策として
を進めていく。
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